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影の逃亡

ピカッと遠方で鳴る雷号が空間一体を照らし、それは私たちのいる駐車場も例外ではない。

人気もなく、ただ無機質な鉄の塊と化した車の群とその中に佇むその二人の行く末を私は固唾を呑んで見守る。


黒衣のバケモノはジリジリと後退して行っている自らの現状変更を試みるが如く、その勢いは増し、サラ目掛けて猪突猛進する。


おそらくサラの頭上を狙って振り下ろされたバケモノの腕のその渾身の一撃はいとも簡単にサラの持つ黒の縄状のもので力を吸収されてしまう。


「あんまり力は強くないようね」


先程の一撃でサラはバケモノの力を大方把握したようで、吸引した力を解き放つように、振り下ろした腕ごと放り投げ、バケモノは駐車場の天井に体をぶつけ、ガンッという鈍い音が振動し、地面にそのまま叩きつけられる。


それにより緩んだ縄をピシッとしわをなくし、その猩々緋の瞳を再び向けると、バケモノは這々の体となり、足を引きずり、後ろからサラが迫っていまいかと然りに後方を確認する情けない姿を晒しながら、ただひたすらに雨が降り注ぐ本来の世界へと脱出を試みる。


「チッ.....逃げ足が早い.....」


サラは当然、後を追うが、黒衣のバケモノは想像以上の早さを持ち、すぐにその姿は雨のカーテンの中に隠れ、雲散霧消してしまう。


「サラ!」


サラもサラで素早く逃げゆくバケモノを追って、駆け足を仕掛け、私も見失わないように後を追う。

改めて、駐車場から元の世界に帰ってみるとその雨水の運動は想像を遥かに超え、反射的に傘をさすも、その激流には敗れてしまうのではないかというほど傘に打たれ続ける音を鳴らしながら、サラの元へと辿り着く。


「サラ!ずぶ濡れじゃん!」


駐車場から数分進んだところで雨の犠牲になる彼女を見つけ、すぐに傘の中へと誘い、ちょうどよく持っていたハンカチでその水滴を払いのける。


「ごめん。わざわざ。それにあのバケモノ取り逃しちゃった」


責任を痛感しているのか雨に濡れたその髪で覆われる表情からは唇を噛み締めるほどの悔しさがこちらにも伝わる。


「しょうがないよ。とりあえず今日はうちに来て。このままじゃ、サラが風邪引いちゃうかもしれないし」


その後もサラは暫く暗闇によって雨の粒が鮮明に見えるその道をジッと数十分見つめ続けていた。あの時の彼女を見ていた時のように.......








◆◇◆◇


ようやく辿り着いたマンションのエントランスにはおそらく何人かが私たちの前に雨に打たれながら帰宅してきたということがその水の散乱具合で容易に想像がつく。


サラはというと戦闘を始める前に着用していた服装一式に元通りになっており、少し念じれば戻る服装に便利だなぁと深く感心し、私にもその機能導入してくれないかとサラに尋ねているとエレベーターが到着し、それに乗り込む。


「それにしてもあのバケモノなんだったんだろ。また何か別の事件が関わってたりするのかな.....」


ただでさえ、今はあの予言を片手に不遜な態度を取るあの子のことで追われているのに、新たな敵まで発生しちゃ、手に負えそうにない。最悪サラ以外の子たちの力も借りなければならないかもしれない。


「いや、多分新たな事件とは無関係だと思うよ」


「え?それって......」


ボタンにより導かれた私の部屋の階に着いたことを告げるアナウンスにより、サラの放った言葉の心意は掴めず、カツカツとそれなりに高いヒールを廊下に擦り合わせ、前へと先に進んでいく。


ガチャガチャと鍵を開け、すっかり冷え切ってしまった室内が扉を開けたことで開放され、収監されていた冷気は外へと一目散に逃れる。


パチッと部屋の電気をつけ、いつも通りの変わり映えのない室内が映し出されると、サラは部屋中を舐め回すように眺め、何故か目をキラキラさせる。


「兄様の家以外はあんまり、上がったことないけど、めちゃくちゃ綺麗だし、香水のいい匂い.....よし今度からここに寄生しよう」


「寄生はやめて」


そうこうやり取りしているとそう言えばこの家のあげたのって、凛以外にはいなかったなと思い出し、急にこの仕事を始めてから色んな出来事や出会いがあったなとサラを家にあげて改めて感慨深い思いが込み上げる。


「まあ、とりあえずさ。そこのソファーで待っててよ。私飲み物入れるから」


「いいよ!玲香ちゃんも疲れてるだろうにわざわざ接待みたいなのさせちゃ.....」


「いいから!はい。そこに座ってて」


強制的にソファーに座らせ、私は箱買いして棚にしまっているコーヒースティックを取り出し、用意したカップの中に入れ、お湯を沸かして出来上がるのを待つ。


そう言えば、新しい事件とは無関係だってどういう意味なんだろ......。


突然にそのことが頭をよぎり、私はキッチンから覗ける位置にいるサラにその真意を問いただそうかと悩んでいた。しかし、それはカチッと打ち鳴らされた電気ケトルが私のその思考を遮るようにお湯の完成を伝達していた。







 


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