闇の刺客
灰色の空の大群が大空を覆い隠し、昼にも関わらず、時間を早めるように外はあっという間に暗さの衣を着込み、小粒の雨がしんしんと地面や建物に矢のように打ちつけられ、それは庵の自宅にいる私たちにも伝わっていた。
この小雨が降る前にサラは帰宅を済ませており、雨に体に濡らさずに済んだ幸運に酔いしれている。
「危なかったな。あとちょっとで雨被ってたな」
庵は続けて、何か飲むか?とキッチンから語りかけ、サラはソファーに腰をかけながら、コーヒーを淹れてくれるように頼んだ。
「兄様の煎りたてのコーヒーは格別だからね。帰ってきた時にちょっとのんびりしたい時にちょうどいいんだよね」
そう言いながら、その大きなコートがソファーの一面を覆いながら、彼女は体を預け、私は帰ってくるまでに何をしていたのかを問いただした。
「ねえ。さっきまでもしかして、あの子に会ってたの?」
「ん?そうそう。ちょっと昨日の予言で気になったところがあったから聞いてみただけ」
気になったところ?やはり昨日のあの沈黙はあの子に対する何か疑問のようなものをサラは感じていたのだろう。
「気になることって?」
「いや、そんな大したことじゃないよ。あの被害者の人がどういう方法で亡くなったのか。あの場じゃわからなかったからそれを聞きたくてね」
私はすっかり事件の衝撃で忘却していたその予言の細かい該当箇所をサラの発言により、思い出し、確かに彼女は具体的な場所や日時、被害者は言い当てていたが、何故かその殺害方法については多くは語っていない。
「まあ、とりあえず今は帰ってきたばかりだし、今はこれでも飲んでリラックスしろ」
焚き火を焚いたように溢れる湯気と共にサラ所望のコーヒーを庵は運び、今はリラックスすることを彼女に勧める。
「ありがとう。それにしても今日は一段と冷えるねぇ」
「そんな厚着で?」
「これでも私にとっては寒いもんだよ」
スッーとコーヒーを静かに口の中に注ぎ込み、厳寒とは程遠いような厚着に熱々のコーヒーといういかにも矛盾したような滑稽な図だが、サラはそれほどまでに冷え性ということがわかる。
「ご馳走様」
「相変わらず、飲むの早いなお前は。他になんかいるのあるか?あったら作るが」
「いや、大丈夫だよ。兄様。わざわざコーヒーまで淹れてくれたんだし。まだちょっとあの子について調べ足りないしね」
「サラ、まさか彼女にあれを尾行としてつけたのか?」
庵の発したあれというワードにシアは勿論とあの子に庵のいう何かに尾行を任せているようだ。一旦なんなんだろうか.....。
「まだ、あの子の周りにバケモノらしき気配は未だ感じられないし、もう少し探らせて様子を伺ってみるよ」
「そうか。まあ、くれぐれも気づかれんように気をつけろよ」
二人は互いに理解し合いながら話し、私だけが群れを逸れたように置いてけぼりのような状況で、庵になんのことかと問い詰めるが、次期にわかるとそのことをはぐらかす。
それがなんなのかこの曇天のようにモヤがかかった感じで、少し心につっかえるようだけど、今は一旦頭の片隅にしまっておくことにする。
◆◇◆◇
「じゃあ、私が玲香ちゃんと会った最後ってこと?」
「そうなる。他も皆とは聞いた感じ会ってるし」
「皆いい子でしょ!あの子たちといると私も自然と活力が湧いてくるんだよね〜」
雨の滂沱し、未だ止まず、夜を伴っても雨を抱くその曇り空は意固地になるようにその空の空間から一向に離れようとはしない。私は予報を見て持ってきていた傘を広げ、その中にサラも入り、厚着の服が濡れるのを防ぐため、私との距離は肩をピッタリと重なる位置であり、肩周りについているフワフワの毛がちょうど暖かさを私に分け、寒さの流れが辺りを彷徨している現状には最適でもあった。
「この傘貸そうか?私が帰った後じゃ、傘がなかったらまた濡れちゃうし」
「大丈夫だよ。サッと走れば帰れるし」
私の帰宅に合わせて、庵が一応護衛のような形でサラをつける格好になったが、雨のこともあり、このままサラ一人を帰らせるのも忍びなくなり、私は家に来ることを提案しようとした。
「ねえ。サラ。良かったらさ。私の家来ない?そしたらゆっくり休めるしって.....どうしたの?」
私はサラの顔を覗くと、温和な柔らかい表情は彼方へ消え、一気に警戒の色が覆う。
「気をつけて、今誰か私たちの後ろにいるみたい。とりあえずあっちに向かうよ」
サラは誰かが私たちの後ろをつけていることを示唆し、その指差した方向は私の帰路にある3階建の立体駐車場を指し、ピチャピチャと打ち鳴らす雨に染まった道を歩く音は大きく聞こえ、私の動揺をよく表すように大きくなっているようで気がしていた.....。




