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謎の影

翌日のニュースでその事件は瞬く間に世間の周知するところとなり、彼女の名も一躍跳ね上がることになった。

時刻、場所、被害者、遺体の状況と全て的確に予言し、警察の調査でも、彼女から何者かに事前に指示を送ったような物的証拠は認められず、また、彼女自身が事件を起こすにも遺体の死亡状況や往復の時間、私たちとの接した時間などを換算すると、到底不可能に近い、いわば完全犯罪のような様相を呈している。


「それにしても、ニュースも大騒ぎになっちゃってるな」


「あれだけの的確な予言を見せれば、メディアが飛びつくのも無理はないだろう。注目を集めやすい話題の一つではあるしな」


私たちは庵の家で朝のその日のニュースを眺めながら、庵が用意した飲物を啜る。どのチャンネルを取っても内容は昨日の事件とあの子の予言内容で埋め尽くされている。

もはや劇場型と言っても過言ではないほどにその衆目を引いてしまっている。


「ねえ。そういや、サラは今日ここに来ないの?まだ来てないけど....」


この事件を目撃し、実際意味深な眼差しを向けていたサラがこの場に集まっていないことを疑問に思いながら、庵にシアの所在を尋ねる。


「ああ。あいつなら今朝ちょっと行ってくるって言ったっきり帰ってきてないな。行き先を聞いても答えなくてな」


こんな朝早くに、どこ行ったんだろ。


私はスマホに表示される時間と今日の曜日を見て、パッとある予感が頭をよぎる。


その予感はすぐにおおよそ当たっていることが証明されることになる......









◆◇◆◇


行ってきますと何事もなかったかのように玄関を出るその少女は髪をかきあげ、片手に持つヘアゴムで素早く髪を結び、登校に向けた最終段階を終える。


「あなたは.....」


「昨日はどうも」


彼女が前を向くとそこには昨日はほとんど口を噤み、不気味なほどの沈黙を貫いたまま、見つめていたサラがインターホン近くに肩を持たれ、待ち伏せを図っていた。


「確か、あの坊やの連れでしたね。わざわざ何の用ですか。私も学校で忙しいんで、手短にお願いします」


「まあまあ、そうキリキリしないで。昨日のあなたの予言の力。あれは私も驚いちゃったよ!まさかあんなピッタリ当てちゃうなんてね」


そのサラの礼賛は彼女には奇異に映ったらしく、その表情には眉間にはシワが寄り、目はキッと細く鋭利になり、ある種の威嚇のようなものだった。


「てっきり、私の予言に難癖をつけるあの人の連れですから、また何か言いに来たと思ったら、私への賞賛とは....一体どういう魂胆なんですか」


「別に下心があって、言ってるわけじゃないよ。私はほんとにあなたの能力はすごいと思って、褒めてるのに、流石にそれは心外だよ」


ハっーとため息をつき、表情の硬さは若干ほぐれたが、逆にこのような賞賛を言われるためにわざわざ止められたことに呆れを覚えたのか、視線を一気に他方向へと移し、表情も緩み切ったようなものに変転する。


「それだけでしたら、私も時間がないので、この辺で失礼させてもらいますね」


「ああ!待って!待って!それだけじゃなくて、もう一つあなたに聞きたいことがあってきたの」


「はぁ〜。なんですか」


彼女はまた大きなため息を一つ作り、仕方なしにその場に足を止め、サラのいう聞きたいことというのを聞こうとする。


「あなた、昨日青葉裕貴さんの事件の詳細を予言してたけど......一つだけ、その予言の中でわからないことがあるの」


「わからないところ?.....事件の詳細は昨日の予言で洗いざらい話したつもりですけど」


少し、怒りの色を表現したような早口は彼女の予言に対する落ち度などないとする絶対的な自信のようなものが見え隠れしていた。


「私も昨日は洗いざらい聞いたつもりだけど、どうしても引っ掛かってね。ねえ。青葉さんってどうやって殺害されたの?」


彼女の顔は一気に時間を巻き戻したように引き攣りを見せるが、彼女の声色は変調を見せず、淡々とその疑問に答えていく。


「さあ。確かに私は未来の予言はできますが、一挙手一投足までを完璧に全て見ることはできません。そこは答えられずに申し訳ありません」


そう答えた後はにっこりと不気味に嗤いをみせ、では私は急ぎますのでと、そのままコツコツと登校用のローファーを鳴らしながら、その姿は徐々に小さくなっていった。


サラもそれを見届けるようにジッと目線を送った後、少し風で傾いた帽子を整えながら、その場を立ち去っていった。




全く.....やっぱり私の力に難癖をつけに来た卑しい奴らの一人だったか.....。


彼女は癪に触ったように整った細い眉はピクピクと振動し、先ほどのサラの彼女からすれば無礼とも取れる態度に立腹を示していた。彼女はそれほどまでに自らの信頼する力を蔑まれたり、怪訝な目で見られることを何よりも忌み嫌っているのだ。


「?.....気のせいかしら。あの女のせいで神経質になってるみたい。身を正さないと」


彼女はその時、何か後ろに視線のようなものを感じとり、瞬時に振り向くが、誰一人としてその場にはおらず、過敏になっているのだろうとして、気にせずそのまま学校へと歩みを進める。




しかし、彼女はこの時、そばの小さな草むらの世界からジッと見つめてくる細長い黒い影のようなものから刃物を刺すようにジッとその視界に捉えられていることを彼女は知る由もなかった......







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