敵はどこから?
ところどころに真っ白な雪がしんしんと降り注ぐが、その数は視認できるほどで、その理由はこの周りのビル群を見ればよくわかる。やっぱり都会では大粒というほどは降らないことがもっぱらだ。
何故、私たちは突然こんな都会の要塞群の中に紛れ込んでいるのか....
それは私たちの前に現れた庵の妹ことドルジが掴んだという事件の情報とその現場への視察ということで現在に至っている。どうやらドルジは事件への追究を独自的に試みており、本人もそれを嗜む傾向にあるようだ。
「ここ!ここ!事件が起きたって場所」
白い息を吐きながらもそれを振り払うように交差点をドルジが指を差す。
その少しばかり奇抜とも見て取れる民族衣装のようなものに人々は物珍しさとも驚きとも取れる様々な感情があちこちを飛び交い、何故か私の方が視線への気恥ずかしさを覚えてしまう。
「ここか?夜中に起こったにしてもこんな白昼堂々的な場所でどうやってやるんだ」
そんなことはお構いなしに話をせっせと進める庵はその犯行現場への疑義を提唱する。
「私も最初はそう思ったんだけど、よくよくこの周りの風景とか調べてみると一つ気づいたことがあるの」
彼女はそうして、ついてきてとまた小走りに移動を開始する。短期間での移動は私の体に呻吟を与え、全身の筋肉がすぐに悲鳴をあげているが、とりあえずなんとかしがみつき、二人に追いつこうとする。
「はぁ....はぁ....ここなの?....」
ドルジが止まった場所は1棟の高層ビルで他のビルと比べても屹然と聳えており、ドルジはその一番上の方を指し、ここにその犯行のヒントが隠されているとされる。
「兄者、玲香さん。これは私の見立てですけど、おそらく犯人はここから犯行を行ったと見て間違いないです」
その高層ビルの遥かてっぺんから先ほどの交差点からではかなりの距離があり、とても人を殺害できるようには感じれない。
「ここから?それはどういうことだ?ドルジ」
「よくぞ聞いてくれました!実はその犯行が起きた時にはもう一人被害者を抱えていた人が目撃者としていたんですが、どうやら見たところその被害者の心臓近くの脇の辺りに何か穴のようなものが見えたようで」
脇の近くに穴のようなもの......私は料簡を巡らし、パッとその時に考えつき、そのことに気がついたのかドルジも私もひょこっともしかして何かわかった?と尋ねてくる。
「もしかして、何かスナイパーか何かを使う敵の犯行ってことなの?」
ドルジの思考と合致したのかパァッと喜色満面の笑顔を浮かべ、そうそう!とその犯行状況の推測を説き起こし始める。
「そのスナイパーでこのビルの上から狙えばちょうどその穴が空いたとニュースで出回ってる所に狙える距離ではある。だけど、その被害者からは血は一滴も出ていない。このことを考えるとやっぱりおそらくバケモノが関わっている公算が大きいってことになる」
彼女の推測はそれなりに的を得ているもののように感じ、庵はさらにその推理に納得した上で次の方策を立て始める。
「だが、それならおそらく次の被害者もそう遠くないうちに出る可能性があるな。とりあえず今日の夜から私たちで見回りでも開始するか」
「そうだね。兄者。このバケモノ案件は私たちにしかできない仕事だもんね!」
私たちにしかできない仕事。その言葉は今朝庵から諭された言葉とどこか重なり合うようであり、改めて私の今の仕事はこれなんだとドルジの意気揚々とした発言から気づかされていた。
「よーし!二人とも!事件解決に向けて頑張ろー!おー!」
一人でにおー!と手を思いっきり振り上げ、その年頃特有のエネルギーを遺憾無く発露し、私もそれに手を引っ張られるように合わせて手を振り上げる。
「いいねー!玲香さん!兄者はこういう時付き合ってくれないから玲香さんが反応してくれて嬉しい!」
そうやって無邪気にキャッキャとはしゃぐ彼女を見てると小動物を眺めているような感覚となり、今にも抱きしめたくなるような思いだが、えぇーい!と求められる私よりも少し小さなその手と私の手を重ね合わせ、ハイタッチをし、程よい肌との打ち合った音が唱えられる。
庵も私たちの相性は青天の霹靂だったようで、目を少しまんまるとさせ、ハイタッチの後手を取り合う二人を凝視するように見つめていた。
「ゴホン....ところで、ドルジ。そうなると敵はかなりの使い手と見えるぞ。お前のそれでどのぐらいいけそうだ?」
庵は話を元に戻し、ドルジに目配せをし、対抗できそうかということを投げかける。
「大丈夫だよ!兄者は私が信用できない?」
庵はそれを聞き、フッとほくそ笑む。
「いや。お前に自信があるなら心配ないさ」
でしょ!とばかりに腰に握り拳の両手を当て、体を突き出して、自らを誇示して見せる。私より若干体は小さいながら、その厚い服からでもそれなりに鍛えられているであろう骨格の良さのようなものが窺い知れる。
こうして事件が起きた夜の時刻まで、私たちは周辺で待機し、敵の動きを注視することとした。




