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イモリ現る

その華奢な体型は制服を際立たせ、艶のある黒髪に秀麗な顔立ちは涼子さんの気品さをも超越し、皆から憧憬の目で眺められているであろうことが第一印象として与えられた


「できるだけ自然に振る舞うんだ。バケモノが絡んでいる可能性もあるしな」


囁き声で私に指示を出し、スマホを眺めながら玲瓏な後ろ姿を覗きながら、その指示を脳裏に焼き付け、できるだけ自然に振る舞う様を演じた。


すると最寄駅へ向かう電車が到着することを告げるアナウンスが騒がしく鳴り、その電車の走音も近づいているのがわかる。


「一番、前の方に乗るぞ」


「わかった」


彼女の悟られないようにあえて、少し離れた運転席側の車両に入り、彼女は同じ号車ながらも左奥の方の座席に座り、少し長めのスカートから見える痩躯な足を組み、再びスマホをいじる。


「......」


私たちも斜めから様子を窺える位置の座席に座り、スマホや外の景色などを時折眺めながら、いかにもただの一般客であることを装うことに徹する。


「おい。降りる時はあの女が降りて少し経ってからだぞ」


彼女の足取りを補足するためには怪しまれないかつ状況を確認できる位置からの尾行が求められ、それはかなり至難の業に近いものだが、受けた仕事をできませんとそう安易と投げ出すことなどできない。


「わかってる」


私たちが乗った駅から彼女が降りる最寄駅まではおよそ3駅を跨ぎ、時間は停車を合わせても30分もかからないほどだ。もうすぐその最寄駅へ到着する頃に差し掛かっている。


「そろそろだな」


まもなく〜.....という車内アナウンスと共に駅名が暗唱され、ガタガタと揺れる車列は朧げな車輪でその駅へ辿り着く。本来の世界と隔絶されていた扉が開き、人々は目指す目的地を目指し、自らの足をせっせと動かし、その一群にに彼女の姿も確かめられる。


「......」


彼女が階段を登り始めた辺りで私たちも足跡を踏むようにきっちりと後を追い、彼女はまだ私たちの存在を気にも止めていない様子を見せている。


コツコツと大きな歩幅に負けじと、私たちもいつもよりも誇大な歩幅を演出し、駅から望む外の世界は霜夜を示し、

すっかり、あの冬空の暁は消え去り、宵闇が目を覚まし

その闇を席巻させている。


「このままじゃ見失いそうだな。もう少し早足で行くか」


それと合図に庵の足取りは駿足となり、私も生まれたての子鹿のようにそれを真似て、離されないように喰らいつく


駅を出て、その後も刹那の間に遠くへ移動する彼女を逃すまいと捕捉を続け、外で感じる底冷えは気負いや早足による血流の促進ですでに掻き消されてしまっていた。


彼女はそのまま暗がりの中スマホから出る一筋の閃光を見ながら、前進し、その足取りと共に人の気配は次々に消えていき、周辺地域も公園や小さな林のようなものが跋扈する清閑な雰囲気を伴う場所へと向かっていく。


「どこ行きやがるんだ。あの女は」


深く囲まれる深淵の闇と小振りな木々が心理的圧迫を加え、隘路に誘い込まれるかのような体であり、人影も私たちと彼女しか見当たらず、悠遠の距離を保ち、こちらに気づかれないように慎重を喫する。


彼女は住宅街の中に取り残されたような林の中にサッと入り込み、私たちの視界から初めてその姿を消した。


「どうする?もしかしてあの中で私たちを待ち伏せてるんじゃ」


「.......いや、見失う方がめんどくさいことになる。ここは追いかけるぞ」


庵は溜まっていた速力を発散し、迅走を見せ、私もそれを伝うように追いかける。


「ハァ.....ハァ.....」


二人で走るのは既視感があるが、今はそんなことに構っている余裕はなく、ただ彼女の行方を見失うことを避けなければならなかった。


林に入るとその木々たちの風により打ち鳴らす哀音が耳を掠め、その中に続く細い1本道をひたすらに進み、彼女の姿を探す。


「あれ?......」


しかし、どこにも彼女の姿はなく、円状の土の広場に林たちに囲まれた小さな公園に私たちがただ孤立している状態だった。


「どこ行ったんだろ」


出入り口は見た感じでは彼女と私たちが入ってきた入り口とさらにここから奥に見える場所があるようだが、そこを通っているならば初めから存在しなかったかのように消息を断つことは考慮の余地にもならない。


「ん?.....庵?......」


私はふといつもは余計なことを人一倍喋り倒しているはずの庵の姿はなく、ぐるっと周りを見渡してもやはりどこにもいない。


「庵〜?......なんで急にいなくなるの.....」


孤立無援となり、敵中ただ一人取り残された中、怯懦を陥りそうな心をなんとか保とうと当初の目的外の庵の捜索のようなものも同時並行的に進むことになった。


ザザッ!!


「誰!?.....」


植物特有の唸り声は私の心臓の鼓動を速め、炯眼に凝視されているような気配が私の背中から全身にその警告を発信している。


「.......」


冷洌な水滴が額を流れ、体は段々と恐怖から固まり始め、この夜半の夜は桎梏なものへと変貌させる。


「シャァァァァァァ!!!」


その咆哮は私の背中を襲い、咄嗟に身を屈ませ、その場に倒れ込むようにして、察知した襲撃から身を守る。


「!!」


目線を起こすと、そこには巨大な化け猫がおり、背丈は木々に勝るとも劣らない程の偉丈夫で黒と白の縞々と揺蕩う猫毛はその巨漢さをさらに引き立たせ、鋭利な爪と睥睨な眼光は私を威圧する。


どうしよう......動けない......


蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、化け猫は徐々に私との間合いを詰め、そのけたたましい唸り声と煽られるように鳴る木々たちも影駭響震さを見せる。


「シャァ!!!」


突然、化け猫は肩のあたりを抑え、狼狽えるように後退りをし、くるりと自らの後ろを振り返る。


「?.....」


化け猫の先には入り口と同じ細い1本道があるが、そこに霞んでその姿ははっきりとは見えないが、少し年季の入った袴と草履、そして頭には一部が欠けた菅笠を身につけている。


一歩一歩、化け猫と私のいる広場へと足を踏み入れてくるその人物は段々とその形貌が顕になる。


その姿は化け猫よりもさらに一驚させ、菅笠から覗かせるその形態はまさに水辺に生息するイモリの顔そのものが

そこに映し出されていた......









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