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化け猫とJK

街中は人の群れがあちらこちらへそれぞれの時間を進め

道路にもバスや自動車、さらには電車などがけたたましい音を鳴らしながら、人々を乗せ、指定される行き先へただ真っ直ぐ従っていた。


「.......」


スマホを覗き、ホームで電車の待ち時間を潰しているこの女子高生もその中の一人だ。いつも通りの作業を繰り返し

そのルーティーンも最終盤に向かわせる電車を待ち望んでいた。


「はぁ〜あ。つまんない」


誰もいないそのホームには彼女の本心の吐露がぽつりと刻み込まれる。風貌は薄化粧ながらはっきりとした顔立ちで仏頂面を浮かべ、髪はポニーテールに結んであり、黒の制服に中には赤色のセーターを着込み、紺色のスカートは膝まで掛かり、肩に収まる程度の学校の鞄を担いでいる。


「なんか、面白いこととか起きないかな〜」


彼女はこの世界に飽きている。毎日同じ時間に起床し

決められた時間に勉強に励み、その後帰宅したとしても特にやることもなく、ただただいたずらにその周期を繰り返しているのみだった。特段これと言った趣味も見出せず

恋愛にもあまり興味は示していなかった。


ピコンッと誰かからメッセージが届く。アプリを開けば

そこには惰性的に仲良くしている友人からの告白の成功談で彼女は嘘で固められたお祝いの言葉を送信する。


なぜ私にはないんだろう......。

彼女は普遍的な学生のこれといった楽しみは一切なかった

校内で並べられる恋愛や趣味、推しなどの会話は上辺ではそれに共感や共有を取り繕うが彼女の心の中ではそれはただの空虚なものでしかなかった。


駅内のアナウンスが次の停車時刻を知らせ、まもなく到着することを告げる。また何も起こらない空っぽな日常が終盤に近づく。心中ではそれに抗うような反抗心を有しながらもそれを行使するほどに勇気や行動力はない。

だからこそ、彼女は非日常が来るのをただ待つのみだった


ガタンガタンと一定の音を奏で、変わり映えのない風景の移り変わりや見知った顔の人々もいつもと同じような表情や仕草を見せ、そうこうしていると降りるべき駅にすぐに到着してしまう。


何か不自由をしているわけではない。生活が苦しいとか

虐待を受けているとか、愛情がないとかそんなものはなく

むしろ人並み以上の環境であることを彼女は自覚している


しかし、彼女の器は満たされない。第三者から見ればその器は満たされているように見えても本質は全く空っぽで寂寥の思いが溢れている。


「........」


冬になり、太陽は駆け足でこの空から抜け出し、陰影がその後を継承する。その中を一人ただとぼとぼ歩き続け

暇つぶしにスマホをポチポチといじるぐらいが精一杯だ


「?.....」


ふと何か異変に気づく。それは微量な違和感だった。

しかし、彼女にはこの無色のルーティーンを歪ませるものには過敏になりすぎている。


「誰?」


彼女はすぐにわかった。これは誰かの視線だ。

普通であれば、すぐに恐怖やら狼狽を見せるだろう。

しかし、彼女はそれに恍惚になっていた。

この日常を破壊してくれる非日常の前知なのかもしれない


「一体誰なの?」


再び聞き返しても返事は返ってこない。彼女はその視線の方向にひたすら進んでいく。そこは家の近くの公園で

この時間では親子連れや近所の高齢者もすっかり見当たらなくなっている。


「!!」


その公園に足を踏み入れたその時、彼女の後ろには悍ましい姿をした巨大な化け猫の姿があった.....。





今日も今日とて、また新たな出勤日がやってくる。

体を震えさせながら、初めての給料日前の最後の出勤に勤しんでいる。


「では。また後日」


庵の自宅に近づくとすでに先客がおり、すでに用を済ませたのか駆け足気味でその場から立ち去っていく。


「おう。きたか」


門扉のところに佇んでいる庵は私を見つけるとすぐに声をかけ、中に入るように勧める。


「今の人誰なの?」


「この前の事件の時に頼んできた一課長だよ」


この前の事件といえば、あの団地で終えた無理心中関係の事件。これから1週間が経ち、最近は事件はめっきりなくなっている。


「多忙で中々お礼にこれず申し訳ないってんでわざわざうちにまで来てくれたんだ。まあ、こっちも仕事だし、お礼を言われるほどじゃないがな」


とかなんとか言ってカッコつけながら部屋に入っていき

私は聞き流しをし、入室する。

いつものソファーに座り、テーブルに置かれるリモコンを手繰り寄せ、家でくつろぐかのようにテレビをつけ、

ちょうど昼のニュース速報が流れ始めた頃だった。


「昨日午前0時10分頃X市Y区で何者かに切り付けられたとして警察に110番通報がありました.....」


この手の事件は特段珍しいものでもなく、もしかしたら、またバケモノの類が関与しているんじゃないかという邪推が起こってしまい、すでに職業病に罹っている自分を自省しなければと都度に思う。


ピリリリリと電子音が鳴り、スマホから鳴る着信音とは異なるもので、リビングにいた庵は聞きつけると駆け足となり、音が鳴り止むと同時に叮寧な庵の口調が流れてくる。


「はい。はい。では。こちらでお待ちしております。はい。失礼します」


私はテレビを消音にし、その電話の相手を聞くため、足跡を辿るように庵のいる場所に向かう。


「いきなりあんなペコペコした口調になって、どうしたの?」


庵は少し古傷などが残す固定電話の電話口を元に戻し

その電話の相手を説明する。


「今度来てくれるらしい依頼者だ。お前が来てからは実質初めてじゃないか?」


依頼者....そう言えば最初に担当した事件はもうすでに依頼者の相談を庵が受けていて、それ以降は警察からの事件解決への協力ぐらいで正式に依頼者の相談に接するのは初めてのことだ。


「とりあえずはあと数日後に来るらしいからな。お前も失礼のないようにしておけよ」


「それはあんたもね」


いつもの私に対する失礼な態度を依頼者に向けないように逆に庵に釘を刺すが、まだ未体験である依頼者の相談という仕事には心が彷徨するように緊張や憂慮もあるが、その中でもその依頼者の役に立ちたいという大仰ながらも

その思いが少しずつ私を制覇し、その仕事が来る日を待ち望み、目下に聳える仕事をこなしていこうという決心を心に深く今私は決め込んでいた。









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