追跡
「なにこれ.....」
手渡された紙の中には何かに斬られたような男性の死体が写真の中に収められている。反射的に嘔気が押し寄せ、
持っている写真から瞬時に目を背ける。
「何この写真....」
手で口を覆わざるを得ないほどの凄惨な姿はとても人間がやったとは思えないほどの所業を直感的に訴えている
「お前、最近起きたサラリーマンの惨殺事件知ってるか?」
惨殺事件.....頭の中にある記憶の倉庫を一つ一つ開いていくと昨日の朝に見たニュースでの事件があったことを思い出す。
「あの駐車場で殺されてたってやつ?」
「そうだ。実はお前は昨日休みだったが、その時に古賀さんたちがわざわざ訪ねてきてな。この事件について調べてくれないかってお願いされて、今に至ってるわけだ」
「じゃあ、この写真はその被害者の」
肉は剥げ、中の内臓はぐちゃぐちゃに掻き乱された様は
無惨極まりないものであり、それと同時に私は咄嗟に昨日のことが頭をよぎる。
「これを起こしたやつって、もしかして昨日のあのバケモノなんじゃ」
あの鋭利な刀が一度振り下ろされれば、普通の人間であればその体は大破してしまうであろうことは明白だ。
私ももしあの時、あれを喰らっていればと思うと、体中に戦慄が駆け巡る。
「おそらくそうだろう。古賀さんもそれを感じて私のところに相談するという判断を下したんだろうな」
写真で横たわる状態から確認できる顔を見てみるが、
もしかしたら私と面識のある人でそこからあのバケモノの法則を掴もうとしたが、その人の顔には全く見覚えがない
「もしかしたら、今回の事例は無差別的な犯行を犯すやつの可能性があるな」
冷蔵庫をガチャっとあけ、中に入ってあるオレンジジュースの紙パックを取り出して、コップにコトコトと並々まで注ぎ込みながら、庵はふと呟く。
「無差別?この前の女のバケモノみたいな感じじゃないってこと?」
「そうか。玲香さんはまだレギオが倒した事件しか担当してなかったですね」
私の斜めの方にある1人用ソファーにいつもの槍を背中の方に置き、前傾姿勢を作り、その太くも柔らかな声で
私に説明を始める。
「我々も兄と一緒に様々な事件にあたっていますと恨みのようなものはある一定の場所にその根源を潜ませ、
また今回のようにそれとは無関係に独立しているものは必ずしも拠点のようなものを持たないやつもいるんです」
さらに勘十郎からの情報は辞書をめくるようにスラスラと提供される。
「他にも人間を宿主とする者もいれば、人々の心を具現化したような者まで色々ありますが、依然、胡乱なやつらであることは変わりありません」
それにしても今まで26年も過ごしてきて、その裏ではこんなバケモノたちの出現やそれとの暗闘があったことに改めて、その驚きが心に矢のように突き刺さる。
「勘十郎が言うようにあいつらにも様々な種類がいる。
それを適切に見極めて対処するのも私たちの仕事だからな
ただ、この無差別の系統はかなり厄介だな」
無差別ということは必ずしも一定の規則性という持たず、
誰かれ構わず、襲い、最悪の場合待ち受けるのは死。
「じゃあ、どうやって対処するの?」
「とりあえずは夕方になったぐらいには外に出るぞ。
夜になってからじゃどこかで事件が起きた時に間に合わない可能性が高いからな」
私たちは庵の計画通りに夕方まで家で待機をし、時刻が
17時あたりを指すのを待ち、庵はタワー状に高く積み上げた資料を漁り、私もそれを手伝わされ、勘十郎の方は
置いてある自らの槍の手入れを入念に行い、バケモノを迎え撃つ体制は着々と流れる時と共に進みつつあった。
「よし。もうそろそろ出るか」
パタンッ!閉じられた両手いっぱいのファイルのようなものはその大きさに似つかわしい音を響かせ、庵は近くに置いてあったコートを取り、肌に厳しい風を与える夜の冬に備えており、勘十郎も病院を訪れ、名前が呼ばれるのを待っている患者のように待機しており、庵の行くぞの合図を聞きつけるとその場から飛び起きるように立ち上がる。
「とにかく勘十郎、何か少しでも感知するようなことがあったら、すぐ教えるんだぞ。全速力で走ってすぐ向かわなきゃ間に合わないからな」
それと同時に私に目を細め、疑念の情を振り向けていることがわかる。
「な、何?そんな狐目になって」
「いや〜なんでも。ただ私は全速力で走らなきゃ間に合わないと言っただけだ」
ちっ.....そういうことか.....
こいつはこの前の柵を越えれなかった私の運動神経のなさを揶揄ってやがる。ほんと性格の悪いクソガキだ.....
「あ〜はいはい。大丈夫ですよ。むしろ私よりもちゃんと走れるか心配な人いるけどね〜」
「あ?じゃあここでお前と私で競争でもして白黒つけようか?」
「いいですよ〜。その代わり負けても言い訳なんかすんじゃないわよ」
上等だと言わんばかりに私と庵の間にはバチバチと火花が散り、それを側から見る勘十郎は今はその時じゃないと言わんばかりに間に入って、忠告をしたことで火花は空気となって消えていく。
「まあ。今日は勘十郎の顔を立てて、許してやるか」
「偉そうに....」
互いのプライドから綱引きのように言い合いの押収を行い
間を取り持つ勘十郎が周章狼狽する有様を見せたが、
突然、勘十郎の視線は彼方の砂のように散りばめられている星の方に飛ばされている。
「二人とも。多分この近くにあいつがいる気がする」
「何?どこら辺だ?」
「多分、近く高架下のすぐそばあたり」
行くぞを掛け声に庵と勘十郎は走り出すと、クラウチングスタートに失敗した選手のように私は完全に出遅れてしまい、二人のスピードに全くついていけず、どんどんと
私の視界から二人は消えていってしまった。
ハァ.....ハァ.......高架下って多分ここら辺かな.....
数分走っただけにも息切れ状態であり、ゼェーゼェーと吐かれる白い息の量で自らの体力の無さを測定しているに等しかった。
てか.....あの二人どこ.....おそらく勘十郎の言っている高架下の近くに来てみたものの、二人の影や形はなく、落書きが施されたコンクリートの壁と乗り捨てられた古びた自転車、ボコボコで舗装があまりなされていない道を進んでいく。
夜の牢獄に閉じ込められたようなこの高架下に圧迫感を覚えながら、二人をのそのそと探す。その時、高架下を出たすぐ近くにある街灯から漏れる光で僅かに照らされるこの牢獄に一つの大きな影が見える。
「!?」
あの影は.....またあいつだ......まずい。あの二人の名前を叫んで、助けを呼びたいが、声がひゅるひゅると縮こまるように喉の中で消えていく。
影は徐々に間合いを詰める。心臓が脈を打って早まり、この音が外に漏れ、このバケモノに聞こえないかという意識でいっぱいだ。
長く横に伸びた1本の影が私の首らへんに標的を定めたいることがわかり、その影は大きく伸び、勢いよく迫る。
「キャ!」
風が音を立てて、この小さな牢獄の中で斬られた空気の残骸が舞い上がると私の目の中にはバケモノの横からの姿が性格に捉えられている。
「危なかったな。玲香さん」
私の体は勘十郎の片手の中にあり、その脇からにょきと庵がのぞいてくる。
「たく。あと少しでお前の首飛んでるところだぞ」
バケモノは獲物を取り逃したことに腹を立てたのか轟音を喉の奥から轟かせ、勘十郎は二人は隠れててと促すと
もう片方の十文字槍を振り、戦闘態勢を整える。
私たちは近くのコンクリートの太い柱に隠れ、その戦況を
克明に目撃することになった.....




