唯一の本物
「何か.....やっぱり全然違う」
やはり外の世界は外観はいつもの世界と変わらないが、その内に秘められている不気味さは全く取り払われていない。
いつもと同じ、道を行き交う人々やその間を通り抜ける車やバス、信号の音は異なる旋律を奏で、私にこの世界は違う世界なのだという語りかけがなされているような感覚
とにかく、早く庵の家に行かなくちゃ。
普段の通勤ルーティンであるバスに乗り込んでも、乗客たちのどこか虚に見える目や耳にキーンと痛みを伴うようなバスのドアの開閉音が私の鼓動を早め、落ち着きや安らぎを与えることを許してはくれなかった。
私以外の人々はこれをどう思っているのだろうか。ただ、ひたすらにこの日1日を終えることを考えるのみでそんなちっぽけな違和感にはまるで気づいていないようだった。
だけど、この人たちはほんとにいつもと同じ人々なのか。
私はそのような疑問さえ頭に浮かんでしまうほどにこの世界の微量な異様さは体全体に伝わってきていた。
庵は.....皆は大丈夫だよね......
もし、みんなまで変わってしまっていたらどうしよう。そんな不安が私の胸の内でワタワタと掻き乱してくる。
それは一歩、一歩が庵の家へと向かっていくにつれて大きく膨れ上がり、内側から破裂してしまうのではないかというほどのものになり、それを爆弾のように抱えながら私は問題の庵の家へと到着した。
「別に建物自体には変わった様子はなさそうね」
外観を見る感じは特にこれと言って何か異変があるようには思われない。
「よし。入ってみよう」
私は小さな深呼吸をしてインターホンを押そうとする。
「待って!姉さん!押さないで!」
すると、私の横からその行為を押し留めようとする何者かの声が聞こえてくる。そしてその声色はどこか聞き馴染みのある安心感を内包したものでもあり、すぐにその声の方向へと視線を移す。
「レギオじゃない!!」
その声の主は私を唯一姉さんと呼んでくれるレギオその人であり、初めてこの世界でいつもと全く変わらない庵の弟との再会は私の奥底の蟠りを一気に取り払ってくれていた。
しかし、それは同時に私たち二人を待ち受ける恐怖の幕開けでもあったのだった.......




