私の新天地
はぁ〜これからどうしよう.......。
私は一人自室の机に突っ伏し、独り言を永遠と垂れながら
今になって後悔の荒波がどっと押し寄せていた。
「はぁ〜。早く次の仕事探さなきゃ」
私の名前は原田玲香 年齢は26歳。大学を出た後にそれなりの出版社に入って約4年間そこに勤め上げた。
だけど、次第にその多忙さや入社仕立ての時のような情熱はどこかに置いていってしまっており、私の中で仕事を続けるほどの理由がなくなってしまい、辞表を出して今現在に至っている。
しかし、今ここに至って猛烈にそのことを後悔している
そのまま私はベッドで横になると足をバタバタと振るわせ
これからの生活のためにまた仕事を探さなければいけないという作業が待ち構えている。
「こんなことなら辞めなきゃ良かったかな〜......でも、もう辞めちゃったし.....」
辞めた瞬間はスッキリした気分だったが今になって後悔を覚えている自分の優柔不断さに少し腹を立てていると
突然ピコッと私のスマホにメッセージが来ているのがわかった。
「誰からだろ」
私はスマホを手に取るとそこには私の中学の時からの親友の櫻井凛からのメッセージであることがわかった。
凛は私が仕事を辞めようかと悩んでいた時も真摯に相談に乗ってくれる優しくて大好きな友人だ。
「明日の13時か....」
メッセージには私へのいわば労いのような形のランチを凛から誘われていた。
まあ、言わば晴れて無職になった私には予定なんか全くない。自分でそう思いながら少し泣きたくなってくるが
私はそれをすぐに了承して心機一転、明日に備えて今日は
ゆっくり寝ることにした。
次の日、凛は私より少し早く待ち合わせ場所の駅におり
そのまま凛が予約しているというレストランへと向かった
「ちょっと。こんな高そうなところいいの?」
「大丈夫!大丈夫!玲香も苦労してきたんだし、たまにはパーっと行かないと!」
そう言って陽気に私に語りかけながら、席の方へと移動し、店員さんによって開かれたメニューはどれも3から4千のものが多く、中には5千円を超えるようなものもあり
私の体は身震いしていた。
「玲香!あんまり申し訳ないとか思わないで。私は今まで辛そうにしてる玲香を見てきてるから今日ぐらいは肩の力抜いたっていいんだよ?」
優しくそう語りかける凛の言葉に今まで少し重りのようなものがのしかかっていた私の心が徐々に解放されていくような感じがした。やはりこの子の言葉は私を常に救ってくれる。
「うん。ありがとう」
そして私たちは注文を終えるとこれからのことについて
凛に相談を持ちかけた。
すると凛はある提案として自分のスマホを私の方に向けてきて、ある求人を紹介してくれた。
「これ、何の求人?」
「私の知り合いの友達がここでお世話になったらしいんだけど、その人に今起こっている問題での悩みとかをかなり解決してくれる人の所の求人らしくて、前玲香が働いてた所より給料は高いし、一旦考えてみてもいいんじゃない?」
凛の教えてくれた求人はどうやらネットでは求人応募をやっていないらしく、その人は電話にも滅多に出ないらしい
だからそのためにはわざわざその人の自宅兼事務所に直接出向く方法が一番手っ取り早いらしい。
私は前向きに考えてみることを伝え、頼んでいたメニューが運ばれてくると私たちはそれを食べ始めた。
「今日はありがとう。わざわざこんな高いところで」
「全然いいって!今からどうする?近くで買い物していく?」
私はもう少し凛に一緒にいたい気持ちもあり、近くのデパートに買い物に行くことにした。
だけど、凛と買い物をしている最中もその求人のことが
頭の片隅にこびりついていた。
日も落ちてきて、凛とも買い物を終え、そのまま解散した後も私はその求人のことが頭から離れず、電車の中で
その求人のことについて調べていた。
どうやら、本も数冊出しているほどの有名な人らしく
写真などは出てこなかったが、きっとすごい経歴の持ち主なのだろうと勝手に想像を膨らませていた。
よし....決めた!ここでしばらくの間は働こう!
そう心の中で決意し、後日そこの自宅へと足を運ぶことを決めた。幸いにして私の自宅からバスで20、30分のところにあり、ある程度通える距離にあったことは私にとって朗報だった。
一体、どんな人なんだろう、詳しい仕事内容はどんな感じなのか。そんなことをベッドに入って今から寝るという時になっても自らの新天地となりうるところへの憧れのようなものや期待感が胸いっぱいに広がっていた。
そこから何日か経って私はいよいよその人の自宅のところへと向かうことにし、朝8時から出るバスに乗り込んで
高揚する気持ちを少しでも抑えながら目的地のバス停に早く止まらないかと心を弾ませていた。
バスが目的地のバス停に止まり、私は慌ただしく降りていき、スマホに表示されている情報を見ながら進んで行った
「ここだ」
バス停から5、6分ほどかかって辿り着いた目的地は白い壁に囲まれ、奥の方にはその壁を飛び越えるほどの大きな木が生えているのがわかり、庭もかなり広いことが伺え
今の一瞬だけでもかなりの大豪邸と言うことがわかった
「ふぅ〜.....」
私は荒ぶる気持ちを落ち着かせ、深呼吸を挟み、目の前にあるインターホンに恐る恐る指を触れ、ボタンを押した
「はい?どちら様?」
ん....?出てきた人物の声を聞こえ、声色的にどうやら子供のようであることがわかる。
「あの....ここの求人を見て来たものですけど、今安倍庵さんはご在宅されていますか?」
「ええ。居ますよ。玄関なら開いてますから中に入ったらリビングとかで待っといてください」
そう言ってその子からは会話を切られた。もしかしたら
今はお休み中で息子さんが出たのかもしれない。
私は少し悪いなと思いながら、まずインターホンの隣にある扉を開け、敷地内に入り、そこから少し小走りに玄関の方へと向かった。
ガチャっと玄関を開けると内装も凄まじく、靴を脱ぎ
さらに中に入り、リビングの方へと向かうと一体何人が座れるんだろうと思うほどのソファーと目の前には壁にかけられたテレビがあり、奥の方のキッチンも広く、その前には8人分の椅子とそれに合わせた大きなテーブルが置かれている。
「すごい....」
あまりの豪邸ぶりに遂独り言を漏らし、私はとりあえずリビングにあるデカソファーに座り、安倍さんが来るのを今か今かと待ち侘びていた。
すると奥の方からトタトタとこちらに向かってくる足音が聞こえ、遂に来た!と私は少し緊張し、その熱が全体にゆっくり伝わっているのがわかった。
その足音がこちらに近づき、私は咄嗟に立ち上がって、
勢いよく挨拶した。
「初めまして!友人に紹介されて求人のことについて伺いに来ました原田玲香と申します!よろしくお願いします!」
そして自分でも異常と思うほどに頭を目一杯下げた
少し張り切りすぎたなとそこでは思ったが、ここまできたらもうそんなことを気にしてはいられない。
「まあ、とりあえず表をあげなさい」
あれ?......この声は......
それはついさっき私が聞いた子供の声そのものだった
「君、さっきインターホンで出てた子だよね?」
「ん?そうだが」
敬語を使わずに少し舐めたような態度でこっちを見てくる
その子に少し腹が立ちながらも私は冷静に安倍さんはどうしたのかと尋ねることにした。
「ねえ。君。もしかして安倍庵さんの息子さん?今安倍さんってどこにいるのか教えてくれない?」
するとその子はその表情を少しムッとさせて私に衝撃的な言葉を発した。
「息子ってあんた.....安倍庵って私だけど」
「.......はぁ!?......」
この生意気な少年との出会いは私をそのドタバタな生活に
放り込むことになるとはこの時は全く想像もしていなかった。
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