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 コミュニティの、冒険区や軍区を囲む外壁の向こう側は荒れ果てた世界だ。

 昔の人間は、地球上の殆どを支配下に置いていただけあって、それこそ地上の殆どを埋め尽くさんばかりに沢山の物を築いてた。

 人間の多くが一斉に違う生き物に変異した際の騒動で、その多くは焼けてしまい、更に残った物も今では殆どが風化して朽ちている。

 故にコミュニティの外は、風化して朽ちた建物が、裂けたアスファルトから伸びてきた植物に浸食された廃墟がどこまでも続く。


 しかし人間は本当に多くの建築物を築いていたから、その中には破壊を免れ、雨風の影響も奇跡的に軽微で、当時の姿を保ち、中に多くの遺物を収めている物も皆無じゃない。

 特に地下に関しては、たとえ地上の建物が朽ちてボロボロになっていても、無事で残っているケースが多かった。

 サイキックの冒険者は人間性の結晶を探す以外にも、そうした奇跡的に形を残してる建築物や、地下室から遺物を回収し、コミュニティに持ち帰る事で報酬を得ている。

 また私が愛用する双眼鏡のように、手に入れた遺物を修繕し、自分で使う事も許可されていた。


 もちろんコミュニティを出てすぐの場所は既に漁り尽くされてるから、遺物の回収を目的とする場合でも遠出は必須だ。

 だが重要な何かを入手した帰りならともかく、行きをテレポーテーションの使い手が送ってくれるなんてサービスはない。

 彼らの回収者という名称からもわかる通り、テレポーテーションの使い手の役割は、冒険者が入手した重要な何か、主に人間性の結晶を回収して運ぶ事だった。

 帰還を望む冒険者を連れ帰るのは、あくまでそのついでに過ぎないのである。


 なので基本的には、コミュニティの外での移動は自分の足頼り。

 尤も足頼りとは言っても、足の使い方は色々だ。

 コミュニティから遠く離れれば、どこに敵対的な種族や未知の危険が潜んでいるかわからないから、やっぱり徒歩でゆっくりと移動するけれど、コミュニティの近くはそうした障害は殆ど排除されている。

 だから少しばかり速度重視で、目立つ移動の仕方をしても、文句はどこからも飛んで来ない。


 足に力を溜めて、大きく跳ぶ。

 但しこの時に溜めている力は、筋力だけじゃなくて念動力、サイコキネシスの力だ。

 筋力だけじゃ数メートルの距離を跳んで移動するのが精一杯でも、超能力に頼ればそれが数十メートルに一気に伸びた。

 足裏や背を不可視の力に押されて、私は外套をなびかせながら、宙を大きく舞う。


 当然ながら、数十メートルを跳んで移動すると着地で大怪我を……、いや、大怪我では済まずに即死する可能性が高いから、着地の際も自分の身体を、サイコキネシスで支えてふわりと着地する。

 降り立ったのは、ボロボロになって何が書いてあるのか読めなくなった、看板の上。

 あぁ、看板というのは私の認識であって、正確には道路標識というそうだ。

 実際にそれがどんな物だったのかというのは、本から得た知識による推察でしかないんだけれど、恐らくコミュニティにもある、道案内の看板のような物だったのだろう。

 日本という国があった頃、この辺りの地域は近畿と呼ばれていたというから、もしかしたらそれが書かれていたのかもしれない。


 いずれにしても、今はもうそれを読む事は、サイコメトリーの能力者以外にはできないし、私にとっては単なる足場の一つでしかなかった。

 人間という先人が遺した物への敬意がない訳じゃないけれど、あまりそれを気にするとこの世界では何もできなくなってしまう。

 何しろそこら中が朽ちた廃墟だらけで、それを避けては歩けやしないのだから。

 私は道路標識を足場に再び大きく跳び上がり、数十メートル先への移動を繰り返す。

 風に吹かれながら、朽ちた廃墟の世界を見下ろしながら。


 そうして暫く移動していると、

『……サイリ、冒険者のサイリ、聞こえますか? こちらはキホ。この声に応えられる状況であるならば、生存、及び状況の報告をお願いします』

 基地のキホから、テレパシーでの連絡が入った。

 冒険者はコミュニティの外での活動中、夜間以外はこうして四時間に一度の生存、及び状況報告を求められる。

 戦闘中等の緊急時は、この要請を一時的に無視しても構わないのだが、特に理由がなければ正しく報告をしなければならない。


『こちらサイリ、生存してる。交戦等はなし、北に向かって移動中だ。座標はX-72、Y659。もう少し行けば河川がある辺りだ』

 隠す理由もないので、素直に生存を報告し、取り出した地図を参照しながら、現在の座標を伝えた。

 この地図は過去の人間が遺した物の複製で、座標はコミュニティの位置をX0、Y0とし、東に行くとXが+され、西に行くとXが-、北に行くとYが+で、南に行くとYが-で示される。

 まぁ簡単に言えば、私は今、コミュニティを出て真北よりもやや西にずれて移動している最中って事だ。


『もうそんな所まで移動されたんですか。流石ですね。そこはまだイエローエリアですが、河川を超えればレッドエリアとなります。消耗にはお気をつけて移動してください』

 コミュニティの外は、危険度によって四つに分けられている。

 一つ目はグリーンエリア。

 これはコミュニティの周囲の事で、壁の内側程ではないけれど、殆どの危険が排除されたエリアだ。

 当然ながら遺物の類も漁り尽くされていて、ここで得られる物は殆どない。


 二つ目はイエローエリア。

 グリーンエリアに比べれば、些かの危険が存在してる可能性があった。

 見落とされた遺物もポツポツあるから、まだ外での活動に慣れぬ新人の冒険者は、イエローエリアでの活動を主にする。

 やがてこの見落とされた遺物がなくなり、危険も完全に排除されたなら、ここもグリーンエリアになるだろう。


 三つ目はレッドエリア。

 危険が多く確認されるエリアだ。

 慣れた冒険者が主に活動するのがこのエリアで、遺物も多く眠ってる。


 四つ目はブラックエリア。

 まだサイキックが踏み込んでいない、未知のエリア。

 いや、踏み込んだサイキックは居たかもしれないが、報告をする前に命を落とし、情報が全く得られていないエリアだった。

 危険が多いのか少ないのかも情報はないけれど、……まぁ、安全であろう筈がない。


 ちなみに遺物ではなくて、人間性の結晶に関しては、どのエリアにも存在する可能性はある。

 何故なら人間性の結晶は、過去から眠っている訳じゃなくて、誰かから抜け落ちた人間性が、そこに集まって結晶となるからだ。

 つまり今、この瞬間にも、どこかで人間性の結晶が誕生しているかもしれない。

 それがグリーンエリアである事も、本当に稀だが、なくはなかった。


 とはいえ、そんな可能性に賭けてグリーンエリアを探索して回る気にはならないので、今回、私が目指すのはレッドエリア。

 イエローを漁る程に新人ではないが、ブラックに行って未知のパネルをめくりたいと思える程、私はまだ自分の力を過信してはいないから。

 もちろん、そこに人間性の結晶の気配を感じれば、その在り処がブラックエリアであっても、踏み込む事を躊躇いはしないけれども……。


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