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 少しばかり大きくクレジットを稼いだからと言って、それを使い果たすまでのんびりと休み続ける訳にはいかない。

 あまりゆっくりとしていると、クレジット以上に大切なものを得る機会を失うかもしれないから。

 もちろん外での活動はハードなので、コミュニティに戻れば休暇を取って体力を回復させる事は大切だけれど、五日間も休めば、溜まった疲れはすっかり抜けて、後は鈍っていくだけになる。


 だが今すぐに外に出て活動をする……のも、私には不都合があった。

 前回、決して大きくはないが結晶から人間性を摂取した私の超能力が成長した為、制御が些か不安定になっているからだ。

 この五日間の生活でも、幾度か超能力を使用しているが、風呂の湯を沸かす時や、遠く離れた物を引き寄せる時に、制御の不安定さを実感してる。

 入った風呂は思ったよりも熱かったし、齧ろうと思った林檎は、潰してしまいこそしなかったが、勢いよく私に向かって飛んできた。

 そこまで大きな結晶じゃなかったから、完全に制御を失う程に超能力が強くなった訳じゃないし、そのまま外での活動に行けない程じゃない。

 熱エネルギーを増加させて発火を促して敵を焼き尽くしたり、サイコキネシスのエネルギーをぶつけるくらいなら、多少は制御が甘くともあまり関係ないだろう。


 ただ……、例えば杖砲を使おうとすると、もしかすると加減を誤って杖が裂け、思わぬ事故が起きるかもしれない。

 毎回、エイリアンやグール、他の種族との交戦がある訳じゃないけれど、やはり自身の拠り所である超能力に不安があっては、危険な外に赴こうって気持ちにはならなかった。

 私は好きで死の危険と隣り合わせの冒険者をやってるけれど、それは決して命を無駄に捨てたいからではなく、危険を冒してでも得たいものがあるからだ。

 不安要素は、それがたとえ気休めであっても、可能な限り排したい。

 故にもう三日間は、超能力の制御を高める訓練を行って、自身の能力の完全な制御を取り戻してから、外に赴こうと思ってる。


 コミュニティでは、冒険区や軍区のみならず、あらゆるところに超能力を訓練する為の設備があった。

 サイキックの生活は、いや、コミュニティの活動の全てが、超能力を前提に成り立っているのだから、サイキックに生まれた以上、冒険者であろうが兵士であろうが、金属加工を生業にしようが、物資管理や情報転送を担当しようと、等しく超能力を鍛える必要がある。

 まぁ、当たり前の話なんだけれど、それでも冒険区や軍区の訓練設備は、他の場所にあるそれよりも、整っていて難易度が高い。

 その成果が、より命に直結し易いのだから、当然だろう。


 私は、直径が30センチメートル程の鉄球を片手に、そこに立つ。

 あぁ、いや、30センチメートルの鉄球を片手で持つだけの筋力は私にはないので、実際にそれを支えているのはサイコキネシスだ。

 重さは、100キログラム程……、正確には110、いや、111キログラムの、鉄の塊。

 他にもっと軽い球は幾つもあるけれど、私は今回、これを選ぶ。


 そして私から40メートル前方には金属製の壁があって、その壁の高さ10メートルの位置に一つと、3メートルの位置に一つ、合計二つの穴が開いてる。

 上の穴は50センチメートル程で、下の穴は30センチメートル程。

 私はこれから、その壁の上の穴に目掛けてこの鉄球を放り投げ、そこに通すという訓練を行う。

 サイコキネシスで鉄球を保持したまま運べば、穴に通す事自体は簡単だけれど、それでは訓練にはあまりならない。


 力を加えるの最初のみ。

 完璧な力加減を行う事で、鉄球を穴に通さなきゃいけない。

 昔の人間が行ったバスケットというスポーツのシュートに、少し似た訓練だ。


 壁や周囲の地面には凹みも多く、幾人ものサイキックがここで訓練をした痕跡がある。

 特に穴の周囲は凹みも集中していて、その苦戦が感じられた。

 111キログラムもの鉄の塊を放り投げるのだから、力は十分に加えなきゃならない。

 だが強過ぎれば、鉄球は勢いよく壁にぶつかり、轟音と共に壁を凹ませるだけの結果になるだろう。


 角度の調節も、重要だ。

 超能力の訓練で立てる物音に文句をいう者はサイキックにはいないが、それでも100キログラムを超える鉄の塊がぶつかる音はとんでもないから、なるべく少ない回数で成功させる必要がある。

 いいや、一度も失敗しないくらいの気持ちで、挑まなきゃならない。

 そのくらいに真剣に一投に集中してこそ、私は超能力の制御を取り戻せる。


 私の超能力は人間性の摂取によって強まってるから、同じ感覚で投げれば当然ながら強過ぎるので、少しばかり力を抜く必要があった。

 自分の中の力を感じながら、必要な分量を鉄球に注いで、撃ち出すように真っ直ぐに放る。


 だが私は、ボールが手から離れてすぐに失敗を悟った。

 角度はいい。

 しかし注いだ力が、ほんの少し足りない。

 あまりに慎重過ぎたのだ。

 前回の結晶から、私が摂取した人間性は、一般のサイキックが行う精神活動の約15年分。

 普通のサイキックから考えると大量と言える人間性だが、冒険者として活動する私の超能力を大幅に成長させるには足りない。

 考えていたよりも、私の超能力の成長度合いは小さかったのだろうか。

 或いは、今回の成長はサイコキネシスよりも別の方向に強く出たのか。


 咄嗟に耳を抑えて、物音に備える。

 ガァァァァンと、暴力的な物音が辺りに響く。

 私は、その物音に耐えながら、必死にサイコキネシスを使って、地に落ちる鉄球を受け止めた。


 落下する鉄球を何とか受け止め、それを手元に引き寄せて……、私は大きく息を吐く。

 重い鉄球を正確に投げるのは、一投でも少しばかり気力を使う。

 少しばかり重くても雑に扱っていいなら、消耗もあまりしないんだけれど。


 だが泣き言を口にする暇はない。

 さっきの一投で、自分のサイコキネシスの現在の出力は、おおよそだが把握できた。

 落ちた鉄球を受け止めた時と、それを引き寄せた時の感覚から考えると、今回の私の成長はサイコキネシスの射出よりも受け止め、引き寄せに強めに出たのだろうか。


 だったら次の一投だ。

 次は絶対に外さない。

 角度を正確に放れたという事は、力の大小が把握が甘かっただけで、コントロールは失っていないから。

 失敗を嚙み締めるのではなく、得られた情報を脳裏に刻んで、すぐに切り替え、次の一投に集中し……、放る。


 そして二回目に放った鉄球は狙い違わず、スッと壁の穴に吸い込まれた。

 壁の中で大きな物音がするが、ぶつかった時に比べればずっと小さい。

 ただ、この訓練はこれで終わりって訳じゃないのだ。

 上の穴に放り込んだ鉄球は勢いをなるべく殺さないように向きを変えられ、高さを利用して勢いを取り戻し、下の穴からこちらに向かって放たれる。

 これを受け止めて、漸くこの訓練は成功なのだけれど……、先程推察した通り、私のサイコキネシスは受け止め、引き寄せが強めに成長したのだろう。

 想像したよりもずっと簡単に、私のサイコキネシスは放たれた質量と勢いを受け止め、鉄球は私の腕の中に納まった。


 私は、制御に少し自信を取り戻したサイコキネシスを使って、その鉄球を立てた指の上で回す。

 ……うん、よし、問題ない。

 もう二、三回投げて今の感覚を刻み込んだなら、次の訓練に移るとしようか。

 制御を取り戻す必要があるのは、サイコキネシスだけじゃないのだ。

 熱エネルギーを扱うパイロキネシスもそうだし、あまり得意じゃないけれど逆に熱エネルギーを奪って温度を下げる練習もしておきたい。

 超能力の制御に自信が戻れば、その対象を自分にして、レビテーションの訓練もしておいた方が良いだろう。


 私はPK能力にしか適性がないし、その中でも念写のように特殊なものは扱えなかった。

 だからこそ、サイコキネシスやパイロキネシス、自分が扱える超能力に関しては徹底的に鍛えて、制御も完璧に行える必要があると考えている。

 それができなければ、何の為にサイキックに生まれたのかわからない。

 訓練期間を三日間と定めたから、その三日間はみっちりと訓練にあてる心算だ。



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