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 コミュニティで一般的なのは、大地から切り出して磨かれた石の建造物だった。

 昔、この辺りに暮らした人間は、コンクリートの他に木々を建材としてよく使用したとされるが、残念ながら今のサイキックにはその真似をする事は難しい。

 建築技術的な問題ではなくて、木材を得る為に森に入ると、どこからウッドの襲撃を受けるかわからない為だ。

 森の外縁部からサイコキネシスで木々を引っこ抜いて持ち帰る事が不可能な訳じゃないから、少しは木材も手に入るけれど、どうしたって高級な品となる。

 そんな高級品で、コミュニティに暮らす約一万人のサイキックの全てに住居を用意するのは、あまりに困難な話だろう。


 まぁ、石の住居もそんなに悪い物じゃない。

 少しばかり硬いが、言い換えれば頑丈だ。

 但し石のままの色合いだとどうしても無機質な印象を受けるので、優しいクリームイエローに塗られている事が多かった。

 無機質さも決して悪くはないが、住む場所には色だけでも優しさ、暖かさを求めたいのだろう。


 ちなみに住居の建材は石だが、コミュニティ内で流通する通貨、クレジットは紙で出来ていた。

 つまり材料は木。

 先程も言った通り、森はウッドの襲撃を警戒しなきゃならないが、外縁部からサイコキネシスで木々を引っこ抜いて持ち帰るという方法で、少しは木材も手に入る。

 そしてその手に入った少しの木材の使い道は、主に加工して紙を作る事。


 当然ながら、貴重な木材から作られた紙も貴重品だ。

 紙自体に価値があるからこそ、クレジットにも価値があると、コミュニティ内のサイキックの誰もが疑いなく思っていた。

 また、紙は本にも使われていて、人間の遺物である本が手に入ると、超能力の中でも特殊な部類に入る能力の一つ、念視と念写の使い手がその内容を読み取って紙に写して複製する。

 読書は人間性を得られる文化的な精神活動の最もわかり易い一つである為、サイキックには読書家が多い。

 貴重な紙を本にするだけの価値は、十分にあった。


 また記録媒体としても、先日私が受け取った書類のように紙は使われているが、こちらは重要な記録以外は一定期間が経てば破棄され、紙はリサイクルされる。

 全くの作られたばかりの新しい紙、上級紙と呼ばれるそれの使い道はクレジットや書物で、記録媒体としての紙にはリサイクルを経た下級紙が主に使われていた。



 さて、そのように貴重な紙で出来た本を手に取り、私は図書館の長椅子に腰掛けて、ページを開く。

 本に使われる上級紙の手触りは、書類に使われた下級紙とは比べ物にならない。

 ちゃんと装丁された本は、その重みすらが心地好かった。


 ただ肝心の本の内容は、まだわからない。

 何しろ新しく図書館に入荷されていた本を、タイトルも見ずに手に取ったから。


 図書館に新しい本が増えるケースは二つ。

 冒険者がどこかで遺物の本を発見し、持ち帰って複製されたか、或いは他のコミュニティで読まれていた本が交易で持ち込まれ、複製されたかのどちらかだ。

 尤も他のコミュニティで読まれていた本だって、元が人間の遺物である事に違いはないだろう。

 ……サイキックには読書家は多いが、自ら本を書いて生み出しはしない。

 少なくとも、そうしたって話を私は聞いた事がなかった。


 何故、サイキックにそれができないのかは、謎である。

 サイキックは読書、文化的な精神活動によって人間性を得られるが、……逆に言えば他者にそれを分け与えられる物を生み出せる程には、人間性を持ってないって事なんだろうか?


 人間の遺物として本が見付かる時は、一冊や二冊じゃなく、大量に見つかる事が多い。

 なので人間性の結晶を手に入れた時ほどではないけれど、本を発見した冒険者は多くのクレジットを稼げる。

 発見された本の多くは月日のせいで劣化して、そのままでは読めなくなっているけれど、サイキックの中には念視、物体の残留思念を読み取る超能力の持ち主が居るので、コミュニティに持ち帰りさえすれば劣化、破損した本からでも内容を読み取り、それを念写の超能力者にテレパシーで共有すれば、問題なく複製が可能だった。


 今回、図書館には多くの本が入荷していたので、恐らく冒険者の誰かが遺物の本を見付けたのだろう。

 普段なら、羨ましいと感じるところではあるけれど、今は私も十分に懐が温かいので、新たな本を読める喜びに、感謝の念しか沸いてこない。


 内容を読み進めると、ファンタジー、剣や魔法で戦う異世界に、この世界に存在した人間が迷い込み、そこで活躍するって内容の話だった。

 転移、転生といった内容の小説が流行した時期があったそうで、この本もそうした物の一つなんだろう。

 ……過去の人間は、違う何かになりたかったんだろうか?


 この手の小説を読む度に、私には疑問に思う事がある。

 魔法ではないけれど、超能力を操るサイキックは、過去の人間にとっては異世界の魔法使いと大差がないと思う。

 ならば彼らは、我々になりたいと思うのだろうか?

 そう思ったから、我々サイキックは、人間から変化して生まれたんだろうか?


 いいや、もしそうなら、誰かはエイリアンになりたくて、誰かはグールになりたかったって事になってしまう。

 マシンナーズやウッドならともかく、エイリアンやグールになりたいなんて嗜好は、私には理解できないし、それは流石にない筈だ。

 ただ私は、それでも過去の人間に問うてみたい。

 彼らには、今の私達がどう見えるのかを。

 人間とサイキックは、角が生えてるとか、超能力が使えるとかじゃなくて、人としてどう違うのかを。

 ……私達を、彼らは人として認めてくれるのかどうかを。


 本を読んで、思索する。

 それは結晶から人間性を得た時のように激しくはないが、ゆったりと優しく満たされる時間だった。



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