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『マシンナーズを確認しました。やっぱり、あのテーマパークにいましたね』
警戒網にわざと穴を開けるなんて真似をするくらいだから、恐らく指揮者のマシンナーズは地上にいるだろうと思ったが、どうやらそれは正解だったらしい。
少し離れた海沿いの、以前は倉庫だったのだろう廃墟に身を隠しながら、キサラギのESP能力でマシンナーズの所在と、海に浮かぶ船の両方を確認する。
時間帯は夕暮れだ。
作戦の決行にはまだ早いが、今から船の内部を覗き見て情報収集をしていたら、丁度良い頃合いになるだろう。
船の中を見て確認する事は色々とある。
必須となるのは瞬間移動をする場所の位置情報。
これがなければ、そもそもシンが四則とヤタガラスを連れてやって来れない。
次に船の中の機械兵の数と配置。
あの船には砲撃を行う機械兵が搭載されているのは確認済みだが、それ以外にも護衛の機械兵だっている筈だ。
地上で警戒に動いてた機械兵の数から考えて、護衛の機械兵もそう多くはないとは思うが、船を破壊する際の障害にはなる。
それから、船の中にもマシンナーズがいるか否か。
地上の機械兵を指揮して警戒網を敷いていたのは、元テーマパークの廃墟にいるマシンナーズ。
これは確認済みだった。
しかし地上の指揮者と、船、及び船の内部の機械兵の指揮者が、必ずしも同じとは限らない。
船の内部にもマシンナーズがいた場合、護衛の機械兵の戦力は数以上のものになるだろうから。
マシンナーズの有無は必ず確認しておく必要がある。
尤もその存在さえわかっていれば、四則とヤタガラスなら、マシンナーズの指揮を受けた機械兵が相手でも、余程の数でなければ問題にはしないだろう。
ここまで来てしまえば、もう私の仕事は殆どなかった。
キサラギが船の中をESP能力で覗く間、周囲の警戒を行うのと……、後一つくらいだ。
『破壊すべき船底付近に、テレポーテーションに適した場所、見付けました。護衛の機械兵は、船上に重銃撃型が3、船内に格闘型4、軽銃撃型4、火炎放射型2……、指揮者のマシンナーズも確認しました。基地と情報を共有しますね』
あぁ、船内にもマシンナーズがいたか。
機械兵の数は、想定よりも少し多い。
重銃撃型というのは、昔の人間の兵器でいう、ガトリングガンのような物を搭載した、威力のある弾丸を大量にばら撒くタイプの機械兵だ。
サイキックは基本、銃撃に対してはサイコキネシスで弾丸を受け止める形で防御を行うが、威力のある弾丸を大量にぶつけられると、超能力の出力を物量が上回り、防御を突き破られてしまう。
私のように何度も人間性の結晶を摂取したPK能力に特化したサイキックなら、重銃撃型の機械兵が弾切れを起こすまで弾丸を受け止められるとは思うけれども、それでも厄介な相手である事には変わりない。
重銃撃型が船の中にいないのは、その攻撃力で船の中を傷付けてしまうから、そうやって船上の警備を担当しているのだろう。
格闘型というのは少し珍しく、銃撃能力を持たないか、極々軽い弾を少量吐き出す機構を内蔵しているくらいで、基本は自らの身体を相手にぶつける事で攻撃を行う機械兵だ。
当然ながら火力という点では他の機械兵に劣るのだけれど、その分とても頑丈で、更に重い。
機械兵は金属の塊なので元々重量があるのは当然なのだが、格闘型は特に重かった。
重量のある攻撃は、サイコキネシスでも受け止め難く、狭い場所で戦うのなら、サイキックにとっては厄介な相手である。
軽銃撃型は、逆にとてもありふれた機械兵で、軽い弾丸を多く撒き散らす。
特徴としては、機械兵の中では身軽なので動きが速い事だろうか。
機械兵の多くは四足で移動するが、軽銃撃型も四本の足を素早く動かして移動し、時には数メートルの距離をジャンプしたり、壁に貼り付いたりもする。
だから別に弱い、という訳ではないんだけれど、攻撃への対処がし易い為、サイキックにとっては然程に怖くない機械兵だった。
最後に火炎放射型は、文字通りに炎を噴き出す機械兵だ。
射程距離は短く、数メートルから、長くても10メートルに満たない程度だが、閉所での威力は凄まじい。
サイコキネシスで防げない訳ではないけれど、弾のように個体を掴む訳ではないからコツが必要になる。
四則やヤタガラス程のベテランならば、恐らく防ぐコツも知ってるだろうとは思うけれど、そうでなければ強敵だろう。
機械兵の編成を見て思うのは、護衛はサイキックの襲撃を想定して配置されてるんだろうなって事。
まぁ、そりゃあそうだ。
あんな海に浮かぶ船なんて、サイキック以外にわざわざ襲撃する理由がない。
狂暴な海の生き物は、相手が大きな船でもお構いなしに襲ってくるが、それはあの船にとっては常であり、当たり前に対処ができる。
敢えて警戒する必要があるのは、その存在を脅威に感じるサイキックのみ。
キサラギが船を調べる間に、辺りはすっかり暗くなり、空には月が浮かんでる。
そろそろ、頃合いだ。
私は杖砲を取り出して、弾を装填した。
シンが四則やヤタガラスを連れて現れれば、船の中では戦闘が起きるだろう。
すると当然ながら、地上の機械兵、及びそれを指揮するマシンナーズも船に駆け付けようとする。
船の破壊の邪魔はさせられないから、その機械兵、及びマシンナーズの妨害は、私がやる必要があった。
それが、私のやるべきもう一つだ。
まぁ、別に難しい事じゃない。
キサラギは既に船を調べ終わり、その目は私が借りられる。
つまり彼女の探知圏内なら、私はどこにでもこの杖砲の弾を届かせられた。
狙いを、定める。
杖砲の弾は、機械兵には効果が薄い。
銃器を扱うマシンナーズは、それを防ぐ術もよく心得ていて、機械兵が纏う装甲は銃撃に対して強いのだ。
しかし、機械兵はそうであっても、マシンナーズは話が違う。
マシンナーズも体の大部分は機械で覆われ、やはり銃撃を弾く処理が施されているんだけれど、それでもあくまで連中は元は人だから。
生身が剥き出しの部分が必ずある。
例えば、あの元テーマパークで会ったマシンナーズは、喉の一部が剥き出しになっていた。
見ず知らずのマシンナーズは、弱点を探すところから始めなきゃいけない。
だけど一度でも正面から出会った敵対種族の殺し方なんて、何通りも考えて当たり前だから。
船の方から大きな轟音が聞こえると同時に、私は杖砲から弾を放つ。
その弾はキサラギのESP能力で見える場所へと、私のPK能力で導かれ、マシンナーズの喉から潜り込み、体内を真っ直ぐに上へと進んで、脳をグチャグチャに破壊した。
指揮者の死と船の窮地、対処すべき二つの事柄は、機械兵のAIを混乱させる。
杖砲による攻撃は、それがサイキックの仕業だと明確に語ってしまうが、それも既に問題にはならない。
何故ならここからは、サイキックもコソコソせずに、マシンナーズへの攻撃を始めるからだ。
船底をぶち抜かれて沈み行くマシンナーズの船は、その狼煙となる。
ウッド、エイリアン、マシンナーズの戦いにサイキックが加わる事で、状況はより渾沌となるだろう。
その先がどうなるのかは、流石に今はわからなかった。
けれども私は、サイキックにとっての最良の未来を目指し、冒険者という駒として敵と戦い続ける。
これまでそうしてきたように、これからもずっと、全ての敵を滅ぼすか、それとも地に倒れて眠りに就くまで。
昔の人間がこんな私を、私達を、自分達の成れの果てを見たとしたら、一体どんな風に思うんだろうか。
私は何時も、ふとそれを考えてしまう。




