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 交易隊やその護衛達と歩いた道を、今度はキサラギと二人で通る。

 尤も交易隊に同行した時のように、徒歩でゆっくりと歩く訳じゃない。

 何時ものようにサイコキネシスで二人分の身体を支えてジャンプを繰り返し、歩くよりもずっと高速で前に進む。


 一度、それもつい先日に通ったばかりの道だから、地形は既に頭の中だ。

 キサラギも勝手がわかっているから、周辺の情報の収集も手早い。


 もしかすると、アキラ司令はここまで計算して、私達を交易隊に同行させたんじゃないかと思う。

 最初からテレポーテーションを用いて船を攻める事を想定していて、瞬間移動をする先の情報を得る為に私達を先行させる心算だった。

 そう考えるとしっくりと来る。


 だって私達が調査から帰還した翌日には、テレポーテーションの使い手の準備もできているなんて、あまりに手回しが良過ぎるから。

 貴重な超能力の使い手を危険に晒して船を攻略するって作戦は、アキラ司令の一存ではなくて、恐らくコミュニティの指導層とも協議の上で決められた筈。

 なので元々その予定で話を進めていなければ、そんなに早く話が決まったりはしない。

 あの船を使った脅しを受けた事で、逆にコミュニティの指導層も、マシンナーズを排する方向に意思を固めたのだろう。


 それは恐らく正しい判断だ。

 一度でも脅しに屈したら、これから先もマシンナーズは事あるごとに同じように脅しを掛けて来る。

 脅してサイキックの動きをコントロールできるなら、そうしない理由はない。


 リスクを避けて縮こまって相手の勢力の拡張を許せば、状況は悪化の一途を辿っていく。

 最終的には、勝ち目がない状況になってから、捻り潰されて終わるだろう。

 まぁ、その時は、私も戦いの最中に殺されるか、或いはエレクトロキネシスの使い手であるからと捕縛されて、死ぬまでその力を使わされ続けるかだ。

 相容れない敵を相手に、争いを避けて平穏を求める心は、自らを殺す毒となる。


 コミュニティの指導層は正しい判断をしてくれた。

 彼らの役目は果たされた。

 ならば後は、手足である私達が働く番だ。


 あぁ、ただ一つ残念な事があるとすれば、コミュニティの店でラーメンは食べられなくなる。

 ラーメンに使われる麵を打つにはかん水と呼ばれる物質が必要だというが、それは今のサイキックはその作り方を知らない。

 そのかん水は、マシンナーズによって生産された物だから、交易が途絶えれば当然ながら手に入らなくなってしまう。

 いや、サイキックも工夫をすれば似た物を生み出せるようになるかもしれないが、それはしばらく先の事で、恐らく味も変わるだろう。


 コミュニティを出る前に、最後にもう一度食べておけばよかったと思うが、それはあまりに未練がましい思考だった。

 今から挑む作戦はコミュニティの命運を左右するかも知れないというのに、出て来るのが食べ物の心配だなんて、流石にキサラギにも言えやしない。


『前方、左側から三体、機械兵が巡回して来ます。数は多くないですが、流石に警戒してるみたいですね』

 キサラギの警告に私は前進を止め、廃墟の影に入って身を潜める。

 マシンナーズは、今は戦力の多くをグールへの対処に、勢力圏内の安定化に注いでる筈だ。

 その為、こちら側に派遣されてる機械兵は少ないが、けれども限られた数を効率よく動かして、警戒態勢を敷いていた。

 機械への動きの良さから察するに、恐らくマシンナーズが指揮を執ってるのだろう。


 ちらと脳裏を過るのは、交易隊に同行した時に目撃したマシンナーズ。

 アレは交易を担当しているのか、それともこの辺りを任されているマシンナーズなのか。

 後者だったなら、機械兵の指揮を執るのはあのマシンナーズなのかもしれない。


 仮にアレが指揮してると考えて、その居所はどこだろう?

 あの元テーマパークの敷地か、それとも別に指揮する場所を設けているか、或いは船に乗り込んでいるか。


 船に乗り込んでいた場合、私とキサラギの仕事は少しだけ楽になる。

 しかしシンや、四則とヤタガラスの仕事は大きく難易度が上がるだろう。

 なので、できれば地上にいて欲しい。

 もしも船に乗り込んでいたとしたら、少なくとも居場所くらいは突き止めて、基地に情報を送る必要があった。


『機械兵を避けながら、指揮するマシンナーズを探そう。こちらから手出しはしないが、船に乗り込むチームの邪魔はさせられない』

 私の返事にキサラギが頷く。

 この作戦の成否は、多くの同胞の命に関わる。


 アキラ司令は、私達を派遣した後も次の準備に取り掛かっている筈だ。

 仮に私達、それからシンや四則、ヤタガラスがその依頼を果たせず失敗すれば、次は冒険者や兵士の部隊を派遣して船を力攻めで沈めるしかない。

 その場合、犠牲も多く出るだろう。

 また首尾よく依頼を果たし、船を沈めたとしても、それで終わりじゃなかった。

 マシンナーズが動揺する隙を逃さず、連中に大規模な攻撃を加える必要がある。


 いずれにしても、戦いの口火を切るのは私達。

 私達に課せられた役割の意味はとても重い。


『ここのルート、警戒に穴がありますね。罠でしょうか』

 共有された情報によると、確かに機械兵の警戒にはそこを通れる穴がある。

 そこを通れれば確かに楽で、時間もかからず、引き寄せられてしまいそうになるが、キサラギの言う通り罠だろう。

 機械兵ばかりなら警戒という役割に対して穴を作るような効率の悪い事はしないだろうが、今は指揮を執るのがマシンナーズだ。

 その思考には人であるからこそ持ち得る悪意が潜む。


『間違いなく罠だ。そこは避けよう。どうせ私達なら、そんな穴を突かずとも、機械兵の警戒を潜り抜けられる』

 私達は何時も通りを崩さず、少しずつ確実に前に進めばいい。

 大量の機械兵が動員されてひしめき合っているならともかく、この程度の数だったなら、たとえマシンナーズの指揮下であっても、私とキサラギの足を止める事はできないのだから。



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