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「キサラギ君が調査をしてくれた結果、例の超大型の機械兵、マシンナーズの船には地上を攻撃する砲の類は存在しない事がわかった」

 マシンナーズとの交易からコミュニティへと戻った翌日、私とキサラギは基地への呼び出しを受けた。

 通された部屋で私達を出迎えたのはアキラ司令で、どうやら彼が直々に、前回の調査結果を教えてくれるらしい。

 尤も、それを調査して基地へと共有した本人であるキサラギは、当然ながら既に知ってる事なんだろうけれども。


 ちなみに私は、キサラギから調査の結果を一切聞いてはいなかった。

 交易隊と一緒に行動している間は、下手にそれを聞いて動揺したくはなかったからだ。


「恐らくは他のマシンナーズの拠点と物資のやり取りをする輸送船なのだろう。内部に巨大な空洞と、船底には海の生物に対抗する為の物と思わしき装備が確認された」

 故にアキラ司令が教えてくれる内容は、実に興味深い。

 なるほど、あれは輸送船だったか。

 人間が存在してた頃、この地にあった国は多くの物資を海の向こうから輸入していたとか。

 そしてその物資の輸送には船が使われたそうだから、あの超大型の機械兵はそうした輸送船を元に生み出されたのだろう。


 もしかすると、タンカーというやつだったのかもしれない。

 タンカーとは、輸送船の中でも特に液体を運ぶ為に作られた船なんだそうだ。

 この地にあった国は、そのタンカーを用いて、エネルギー資源である石油や液体化した天然ガスなどを運んでいたという。

 ……かつての人間と、マシンナーズが必要とするエネルギーは非常に近いから、もしかすると今でも、あの船の役割はそれらのエネルギー資源の輸送なのかもしれなかった。

 サイキックは精神的な力、超能力を軸にした社会を築いているので、エネルギー資源を必要としない点に関してはマシンナーズはもちろん、人間よりも優れた存在だろう。


 まぁその用途が何であれ、あの船が輸送用で攻撃手段を有していないなら、その脅威度は格段に低下する。

 大量の輸送能力というのはそれはそれで強力だが、コミュニティが直接砲撃を受ける事に比べると、対処の手段は幾らでもあった。


「だが船には砲が装備されていなかったが、代わりに三機の砲撃型の、君達が破壊した物と同じタイプの機械兵が搭載されている」

 でもそう都合よく、あの船が脅威でなくなってくれる訳じゃないらしい。

 しかしあの砲撃を行う機械兵は、やっぱり複数存在したのか。

 砲替わりだとしても、船の規模からすると三つしかないというのはいかにも少なく感じるから、やはりあのタイプの機械兵は貴重なんだろうけれども。


 ただ脅しの為に派遣した船に砲撃を行う機械兵を載せるくらいなら、エイリアンとの前線に派遣した方が活躍はさせられるだろうに。

 何か船に載せている理由が他にあるんだろうか。


「船を足場に砲撃型が地上を攻撃したところで、海からではコミュニティには届かないだろうが、周囲に影響は出る。場合によっては君達がマシンナーズの勢力圏で行った工作が、そのままの形で返されるかもしれない」

 アキラ司令は苦笑いを浮かべながら、そんな言葉を口にする。

 あぁ、うん、それはちょっと、確かに困りそうだ。

 砲撃で廃墟を崩して地下のグールを焙り出す。

 私達が取った方法よりもずっと強引で乱暴だが、同じ効果はあるだろう。


 結局のところ、マシンナーズの力を削ぐ為にもあの船への対処はしなきゃならない。

 その為に、私達は今こうして説明を受けている。

 だが、具体的にどうやってあの船を沈めるかって事なんだけれども。


「向こうが切り札を切ってきた以上、こちらも切り札を切らざる得ない。テレポーテーションで実力のあるチーム、四則とヤタガラスを船の内部に瞬間移動させ、船底を破壊してアレを沈める」

 こちらもまた随分と強引な手段だった。

 アキラ司令の言う切り札とは、テレポーテーションの使い手の事だ。

 四則やヤタガラスは確かに精鋭の冒険者チームだが、それでも秘匿された切り札じゃない。

 コミュニティが、限られた時間しか、それも安全を確保した上でしか外に出さないテレポーテーションの使い手こそが、紛れもないサイキックの切り札である。


 ……テレポーテーションの使い手をそんな危険な場所に投入する作戦なんて、少しどころじゃなく驚いた。

 でもそうした危険に飛び込みそうなテレポーテーションの使い手を、私は一人知っている。

 そしてどうして私達が、船に突入するチームには含まれていないにも拘わらず、この話を聞かされているのかも、何となく予想が付く。


「四則とヤタガラスを瞬間移動させる役割は、君も知るシン君が引き受けてくれたよ。だが知っての通り、テレポーテーションを確実に行うにはその周囲の状況を把握している必要がある」

 うん、やっぱりそうか。

 シンの気質なら、この話を聞けば自分から望んで引き受けるだろう。

 まぁ、それはいい。


 命を無駄に危険に晒すのなら友として怒りを覚えもするが、今回のこれは無駄じゃない。

 誰かがやらなきゃならない必要な事で、シンは進んでその役割を引き受けただけ。

 覚悟を決めてコミュニティの為に尽くすという選択を、尊重しよう。


 今、気にすべきは、私達に課せられる役割に関してだ。

 テレポーテーションが行われる為には、場所と状況の把握は必須である。

 つまり誰かがその地点の情報を収集し、基地へと送る必要があった。

 私達に望まれているのは、現地に赴き、その情報を収集する事だろう。


 もちろん現地に赴くといっても、船に乗り込めと言われてる訳じゃない。

 キサラギのESP能力なら、外からでも船内の状況を把握し、テレポーテーションが可能な場所を見付けられる。

 ただそれでも、前回マシンナーズと交易を行った、元々はテーマパークだった辺りくらいまでは、船に近付く必要があった。

 そう、私とキサラギで、敵の目を避けて隠れながら、敵地に忍び込んで来いって話だ。

 要するに、何時も通りって訳である。


「引き受けてもらえるかな?」

 収集する情報の精度が、突入する四則やヤタガラス、それからシンの安全に直結するだろう。

 敵地に先行して忍び込むのだから、決して安全とはいえないが、私達に適した役割なのは間違いない。

 もしもこれを他の誰かに任せ、四則やヤタガラス、シンの身が危険に晒される結果となれば、私は間違いなく後悔する。


 ちらりと、キサラギに視線を送ると、彼女は即座に頷いてくれた。

 だったらもう、迷う余地もない。



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