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 周囲を警戒しながら徒歩で進んだ為に時間は掛かったが、交易隊が辿り着いたのは、大きな……、なんだろうか、広場であり廃墟であり、とにかく広大なスペースの敷地。

 なんでも人間が存在していた頃は、ここにはテーマパークや遊園地と呼ばれる娯楽施設があったそうだ。


 尤も訪れた人々に娯楽を与えていたのであろう遊具の類は機械であった為にマシンナーズに回収されて、施設に元の面影は残っていなかった。

 まぁ、元を知らないので恐らく残っていないんだろうって予想に過ぎないんだけれど。

 時折、錆びた鉄塔と鉄塔の間に、用途不明のレールが掛かってたりするのが、この場所の名残なんだろうか。


 さて、そんな事はまぁ、どうでもいい話なのだが、どうやらここがマシンナーズとの交易を行う場所らしい。

 敷地への入り口と思わしきゲートを守っていた機械兵が、敵対反応も見せずに交易隊を、それから護衛についていた私達をも、出迎える。


 それは少し衝撃的な光景だった。

 友好的とまで言うと大袈裟だが、敵対的な態度を取らない機械兵というのは、初めて目の当たりにしたから。

 マシンナーズとは、その手駒である機械兵とも、確かに話し合いはできるんだけれど、こちらは向こうに超能力を、向こうはこちらに銃口を向けながら、攻撃するよりも先に言葉を発し、警戒しながらも遠ざかれるくらいだ。

 お互いに無駄な損耗を避けようという利害が一致した時に、戦いを避ける事ができるだけ。


 ただ機械兵のAIは不要な損耗を避けるように命じられているのか、明確に目的がぶつかり合う場合以外は、そうやって戦いを避けれるケースは割と多い。

 いずれにしても、こんな風に銃口すら向けられず、中に入れと言わんばかりの仕草で出迎えられた事には、衝撃を感じずにはいられなかった。

 でも交易隊の面々が慣れた風で動じていないので、私もできる限りそれが当たり前であるかのように、動揺を表に出さずに抑えながら、歩いて入り口のゲートをくぐる。

 キサラギの身体も、自分と同じようにサイコキネシスで動かしながら。


 この辺りはもう、例の船、超大型の機械兵が浮かぶ海の間近で、キサラギのESP能力の探知も十分に届く。

 なので身体の操作を私が担当する事で、彼女は全ての集中力を船の観察、分析、それから基地との情報共有に割り振っている。

 サイコキネシスを含む超能力を使うのは、マシンナーズ、機械兵に攻撃しなければ問題はない。

 超能力を持たない連中にはそれを察する事はできないし、そもそも交易隊の面々も、背負った荷の重さをなくす為、サイコキネシスは使っているのだ。


 ゲートをくぐって暫く進むと、大量に積まれた物資の前に、一人のマシンナーズが立っていた。

「ようこそ、サイキック。これが前回の取引で注文をしていた分だ」

 機械人、マシンナーズ。

 その姿は特徴的で、一目見ればそれとわかり、機械兵と見間違える事はない。

 機械兵は機械そのものだが、マシンナーズはあくまで機械をその身に取り込んで変異した人だから。

 彼らはあくまで生物で、人類だ。


 融合した機械の部分ですら、そこから生命力を感じる。

 何より、連中は目が違う。

 生きる事を、得る事を渇望する、意思のある目をしていた。


 機械兵に対して敵意を感じるのは、脅威となる敵であり、マシンナーズの配下だからだが、……私達がマシンナーズを見て敵意を感じるのは、相容れない生き物だと本能が拒絶するからだ。

 だからその二つを見間違える事は、決してない。


「機嫌が良さそうだな。マシンナーズ。これが預かっていたバッテリーだ。全てに電気が詰めてある」

 交易隊のリーダーが前に出て、背負っていた荷を下ろし、その中身を露出させる。

 私と同じく、マシンナーズへの敵意は本能的に感じているだろうに、交易隊のリーダーはそれを少しも見せやしない。

 すると他の面々もリーダーに倣って、次々に荷を下ろして中身を見せた。


 あのバッテリーに電気を詰めるのに、エレクトロキネシスの使い手が何人必要で、どのくらいの時間が掛かったんだろう?

 マシンナーズの為なんかにって思考は、どうしてもしてしまう。

 それが物資を得る為の取引だからとはわかっていても。

 敵対種族に対する敵意、本能は、実に抗いがたい。


「護衛を増やしたのか。合理的な判断だ。サイキックにそれができる間は、我々との取引が続くだろう」

 マシンナーズの物言いも、癇に障る。

 単純に危険に対して正しい判断をしていると褒めているのか、それともサイキックがあの船を警戒し、慎重に行動せざる得なくなった事を喜んでいるのか、どっちともつかない言葉だった。

 その言葉に取り合ってはいけない。

 私の役割は交易隊の護衛のように振る舞い、キサラギを守る事。


 こいつらと戦うのは、マシンナーズを滅ぼすのは、まだ後の話だ。

 私以外の護衛に混じった冒険者、……キサラギは今も船に集中してるとして、四則も黙ってマシンナーズの言葉を無視してた。


 それから後は、交易隊は詰まれた物資を、マシンナーズは運ばれてきたバッテリーを確認して、次の取引の内容や日取りを決めてる。

 何でも交易のやり方は、サイキック側がマシンナーズ側の用意したリストから必要な物資を選び、するとそれに応じた量の、中に電気の詰まっていないバッテリーを渡される。

 それを持ち帰ってコミュニティで中に電気を詰め、取引の日に持って来て引き渡せば、マシンナーズが用意した物資と交換されるらしい。


 運んできたバッテリーの量に比べて、用意された物資は非常に多かった。

 そんなに、マシンナーズはその電気を重視しているんだろうか。

 だとすると連中は、エレクトロキネシスの使い手を求めて、サイキックを襲うってケースも考えられる。

 ……実は私も、コミュニティには報せていないがエレクトロキネシスの使い手だ。

 これは余計に、誰にもバレてはいけないなって、改めて思う。


 取引が終わると、交易隊の面々は大量の物資が入ったコンテナをサイコキネシスで宙に浮かせて、マシンナーズに見送られながら取引の場所を出る。

 もちろん私達も、護衛も一緒に。


 しかしそれにしても、交易隊のサイコキネシスはかなり出力が高い。

 少しばかり、驚いた。

 この後は直接はコミュニティに帰らず、コミュニティの南側にある物資の保管場所に立ち寄って、中身を細かく確認しながら少しずつコミュニティに、何度も往復して運ぶそうだ。

 マシンナーズの用意した物資に、どんな仕掛けがあるかわからないから、そうした慎重さが求められる。

 物資が爆発するなんて事はないにしても、運ばれた場所を突き止めるような仕掛けが施されている可能性はあるから。


 何にせよ、特に疑われる様子もなく、私の役割は無事に果たせた。

 キサラギが何を見て何を分析し、基地へと報告したのかはまだわからないけれど、恐らくこれで事態は前に進む。

 次の交易が行われるかは、その結果次第だろう。

 場合によってはサイキックかマシンナーズ、そのどちらかがこの辺りから消えてしまう事も、十分にあり得るのだから。




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