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変異人類の冒険者  作者: らる鳥


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 大きな荷を背負ったサイキックが十数人、固まって歩く。

 彼らが背負った荷の中身は、充電済みのバッテリー。

 そう、この一団は、マシンナーズと密かに取引を行う交易隊だ。

 尤も密かにといっても、コミュニティの指示のもとに動いているから、別に犯罪者って訳じゃなかった。


 では一体、誰に対して密かになのかというと、一般のサイキックや冒険者に。

 公然の秘密ではあるんだけれど、やはり敵対種族との取引というの物に対しては反対するサイキックも少なくはない。

 特に親しい誰かをマシンナーズとの戦いで失ったサイキックは、その拒否感も強かった。


 キサラギのように、冒険者が実際に共に活動をしていた仲間を失うといったケースはごく稀だ。

 何故ならその場合、殆どは本人も死んでしまうから。

 しかし友人であったり、家族であったり、冒険者であっても命を失えば、悲しむ誰かは幾らかはいた。

 例えば私なら、……そう、友人であるシンなら悲しんで、悼んでくれる。


 故にマシンナーズと取引を行う交易隊は、他のコミュニティに向かう交易隊と見分けが付かないよう、一度東に出てから道を外れ、大回りをして西へと向かう。

 無用なトラブルを避ける為に。


 もちろんこの交易隊を、外で活動中の冒険者が目撃する事はある。

 だが冒険者も、コミュニティの外で交易隊を文句を言う為に引き留める程、暇じゃないし余裕もないから。

 それに交易隊には、選ばれた腕利きが護衛に選ばれているから、揉め事が起きた時、痛い目を見るのは絡んだ冒険者の方になるだろう。

 交易隊はマシンナーズ、機械兵には襲われない目印を出しているらしいが、コミュニティの外の脅威は他にも多い。

 グリーンばかりを通る他のコミュニティへの交易隊ならともかく、マシンナーズとの交易はレッドエリアの更に外、ブラックエリアで行われる。

 なので交易隊は護衛はもちろん、荷の運び手だって、危険に慣れたベテランだ。


 どうして私が、その秘されたマシンナーズとの交易隊に関してそんなに詳しいのかと言えば、……今、その護衛に、私とキサラギが加わっているからだ。

 いや、他にも知り合いの、四則も護衛に加わっていた。

 当然ながら、アキラ司令の指示である。


 といってもアキラ司令がマシンナーズとの交易を重視する方針に切り替えたから、私達を護衛に加えたって訳じゃない。

 寧ろあの船、超大型の機械兵の出現で、アキラ司令はマシンナーズをより危険視していた。

 なので交易隊の護衛は表向きの依頼に過ぎず、私、それから恐らく四則に与えられた役割も、あの船を探るキサラギを守る事。

 現状、最も海に安全に近づけるのは、マシンナーズとの交易隊だ。


 交易がおこなわれる場所からならば、キサラギのESP能力なら、あの船を詳しく観察、分析ができるだろう。

 また普段通りに交易隊を出す事で、サイキックがマシンナーズの脅しに屈したと、そう思わせよって狙いもある。

 向こうが普段通りに交易に応じるかどうかはわからないが、本格的に敵対をする心算なら、既に攻撃を仕掛けて来てる筈。


 しかし海にあの船、超大型の機械兵が出現した後も、コミュニティから西方面をうろつく機械兵の数は増えていないどころか、少し減っていると基地では判断していた。

 恐らくその戦力も、グールの排除に回しているのだ。

 マシンナーズに余裕はなく、あの船も脅しに用いてるだけ。

 だからこそ今、あの船を調べて攻略の糸口を掴めたならば、サイキックはマシンナーズに対して有利を得る事になる。


「あれから、随分と活躍したみたいだね」

 隣に並んだ四則のリーダー、アユムがそう声を掛けてきた。

 四則との行動は、エイリアンのマザーを捕獲したあの時以来か。

 まだあれから然程の時は経ってないのに、色々とあり過ぎたせいでもう随分と前の事に感じてしまう。


「優秀な相棒を得たからな」

 なるべく軽い口調で、私はアユムにそう答える。

 だがそれでも、少し実感を込め過ぎただろうか。


 あの時から活躍したというならば、理由はもう一つしかない。

 アキラ司令に目を掛けられて、色々な依頼を任されたというのもあるかもしれないが、ほぼ誤差のようなものである。

 敵対種族の勢力圏でも敵の目を逃れて動き続けるなんて真似は、キサラギの力がなければ到底為せない事だし。

 のんびりと遺物漁りをする暇がないのは難点だが、自分の力が活かされてるって充実感は強かった。


「なるほど、羨ましい話だ」

 しかし次いでアユムの口から出た言葉に、私は少し驚く。

 四則というベテランにして精鋭のチームを率いる彼が、軽口とはいえ、羨ましいなんて言葉を口にするのかと。

 世辞は多分に混じるのだろうけれど、アユムの仲間はサイキックの中でも上澄みに近いメンバーだ。


 ……だが、それでもキサラギのようにESP能力に特化して、しかも結晶から人間性を摂取して超能力を成長させたサイキックの探知能力は、魅力的に映るのだろう。

 もしも四則にキサラギ程に探知に長けた人材がいたなら、私達がここに加わる必要はなかったし。

 元々アキラ司令の懐刀として働いていた四則、アユムにしてみれば歯痒いところはあるのかもしれない。


 まぁ、私としては依頼であれこれ動くよりも、自由に遺物を漁ったり、この争いで新たに湧きそうな人間性の結晶を探しに行きたいのだけれども。

 流石に今はそんな我儘を言える状況じゃないから。


「それは誰もがお互い様さ」

 私はアユムに、そう返す。

 サイキックは誰もがそうだ。

 特別な超能力を扱う才能に恵まれたシンだって、冒険者として外で活動できる私を羨んでる。

 キサラギだって、本当なら自分が敵を討てるPK能力が欲しいだろう。

 私だってESP能力は羨ましい。


 一人で活動してる頃は、組む仲間のいる他の冒険者の事が、羨ましくなかったと言えば嘘になる。

 もちろん一人は自由で気楽だったし、性にはあってたけれども。


 サイキックは、皆が持ってる超能力に違いがあるから、他人の能力は羨ましいのだ。

 チームを組んでもそれは同じで、足りないところが羨ましい。

 例えば私とキサラギのチームは、互いの能力は噛み合ってるが、どちらかが倒れればそれで終わりだった。

 お互いに尖ってるから出力は高いが、チームとしての安定感には欠ける。

 アユムは私達を羨ましいといったが、四則の高いレベルで纏まった安定感が、私からすると欲しても得られないものだ。


「そうだね。お互い様か。だからこそ、今回は頼りにしてるよ」

 私の答えがお気に召したのか、アユムは少し笑って、そう言葉を口にした。 





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