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 コミュニティとは、多くのサイキックが所属し、暮らす共同体にして、都市である。

 いや、今は廃墟となっている昔の人間の都市に比べれば、規模も暮らしてる数もずっと小さいが、都市に必要な機能はちゃんと備えた場所だ。

 危険を遮る防壁に囲まれ、交易を行う商業区、資源加工を行う工業区、食料品の生産を行う農業区、それから精神活動を行う為の文化区、コミュニティを運営する行政区、サイキック達が暮らす居住区と、一通りは揃ってる。


 ただ、私がシンのテレポーテーションに連れられ戻ったのは、そのいずれかの区域じゃない。

 コミュニティを守る防壁の外側には、もう二つ区域が広がっている。


 その一つは軍区。

 ここはコミュニティ内の治安を維持したり、交易の護衛や、交易路の脅威を排除したり、コミュニティに危険が迫れば戦う、サイキックの兵士達が生活している場所だ。

 彼らは冒険者のように人間性の結晶を探しにはいかないが、コミュニティに納められたそれを摂取しており、普通のサイキックよりも強い超能力を持っている。

 何より、兵士達は普段から密度の高い訓練を行っているから、特に集団戦闘では、冒険者をしているサイキックを上回る力を発揮する場合も少なくない。


 もう一つは、冒険区。

 その名の通りに、冒険者となったサイキックの為の場所だ。


 冒険者となったサイキック、特に人間性を結晶から摂取した事のある者は、一般のサイキックに比べてずっと強い。

 仮に何らかのトラブルで冒険者と一般のサイキックが揉めたなら、最悪の場合は死者が出てしまう可能性もあるだろう。

 実際には、冒険者だって一般のサイキックを相手に力を振るうような真似はしないだろうけれど、その可能性が僅かでもあるってだけで、冒険者が恐れられてしまうのは仕方がない事だ。

 故に冒険者の為の区域は防壁の外に置き、隣には兵士の為の軍区を置いて、更に外側に外壁を作っている。

 また冒険者が防壁を越えてコミュニティ内に入る時は、例えば両親に会いに行くといった理由を申請して、許可を得る必要があった。


 なので冒険区には、冒険者やその支援を行う者達が生活する住居の他に、図書館や美術館、食事処や、衣類や嗜好品を販売する店、医療施設等、文化的に生きる為の一通りが揃ってる。

 その充実ぶりは、休暇の兵士が軍区から頻繁に訪れて来るくらいだ。

 兵士のコミュニティ内への立ち入りは、冒険者よりもずっと簡単なのだけれど、やはり彼らも一般のサイキックに混じるよりは、冒険者を相手にする方が気は楽なのだろう。

 何より、軍区と冒険区はすぐ隣だから近いし。


 もちろんそうした、冒険者の生活を良くする為の場所ばかりがある訳じゃない。

 恐らく冒険区で最も重要な場所は、冒険者を管理し、携帯食などの必要な物資を配布したり、支援を行う者達が集まって後方から外で活動してる冒険者の支援を行う、基地と呼ばれる施設だ。

 シンのテレポーテーションで戻ったのもこの基地の一室で、私はここで今回の活動の報告を行い、持ち帰った結晶から、取り分である人間性の摂取を行う事となる。


 人間性の摂取は簡単で、結晶を手に取り、それを摂取したいと望むだけ。

 そうすると人間性はごく当たり前のように、求める者の中へと入り込む。


 但し冒険者の取り分は、得た結晶の半分だ。

 基地では持ち帰った結晶のが測定され、摂取量が言い渡される。

 しかし人間性の摂取は多幸感を伴う為、特に初めて結晶を持ち帰った冒険者は、ついつい余分に吸い過ぎてしまって、周囲に止められた上にペナルティを課されるケースも少なくない。

 人間性は、今の世界で最も価値のある何かなので、ついつい多く摂取してしまったでは済まされないのだ。

 まぁ命を落とさず、無事に結晶を持ち帰れる冒険者もやはり貴重ではあるから、ペナルティと言っても一定期間の懲罰訓練の上、次に得た結晶からは人間性を摂取出来ないくらいで、命を奪われたりはしないけれども。


 実は緊急時には、外での活動中に得た結晶から人間性を摂取する事も許されるのだが、その場合は後で幾つもの複雑な手続きが必要になってしまう。

 状況が許すならば、今回のように回収して貰ったり、自力で帰還して、それから人間性の摂取を行うのが、一番手間も少なく、基地からの評価も上がる。


「サイリさんの持ち帰られた結晶に含まれた人間性は312と測定されました。おめでとうございます。サイリさんの摂取量は156となり、また今回の活動に対して20万クレジットがコミュニティより支給されます」

 結晶の測定をした基地職員はそう言って、書類を一枚渡してくれた。

 ざっとそれに目を通せば、確かに彼女が言った通りの数字が、書類には書かれてる。

 20万クレジットか。

 クレジットというのはコミュニティ内で使用できる通貨で、正直に言って人間性を摂取できる事に比べれば大した価値は感じないが、……それでも20万となると結構な額だ。

 普段の活動で昔の人間の遺物やらを持ち帰った時は、精々が万に届くかどうかってところなので、やはり人間性の評価はとても高い。


 ちなみに人間性の数字は、一人のサイキックが通常の生活を送りながら、文化的な精神活動を一年間行った場合に得られる平均的な人間性を10としてるそうだ。

 つまりあの結晶に含まれていたのは、31年分の人間性で、私はこれからそのうちの15年と少しを摂取できるって事だ。

 まぁ、その一年間で得られる平均的な人間性が10っていうのが、どこまで正しいのかは、私にはわからないんだけれども。

 奥に進み、私は基地職員から受け取った書類を提出して、複数人のPK能力者、もしも私が余分に人間性を摂取しようとした際に止める為のサイキック達が見守る前で、改めて結晶が渡される。


 もう、摂取していいのだ。

 我慢しなくて構わないのだ。

 手に入れた時から、そりゃあずっと我慢をしていた。


 欲のままに行動する獣になりたくないから、人類らしくありたいから、手に入れた人間性の結晶に必要以上に意識を向けないようにしていたけれど、もうその必要もない。

 あぁ、当然ながら摂取のし過ぎは許されないが、自分の取り分に関しては、正々堂々と、何ら恥じる事なく取り込める。


 握った手から、何かが身体に染み込んで、一気に全身に広がった。

 昔の人間は、乾いた土地に降る雨の事を慈雨といったそうだが、私にとっての人間性はまさにそれである。

 欠けていたものが満たされて、求めるものが得られて、与えられているという感覚。


 複数人に見守られている状況も、もはや気にならない。

 その視線に羨みが混じってる事も、どうだっていい。


 私はこの人間性で少しばかり強くなり、また結晶を、それもより大きな物を求めて外に出る。

 やがて滅びて荒廃してしまった世界に、倒れて死ぬまで。

 多くの人間性を得る事の喜びを、この身は知ってしまっているから。

 私だけがそうなんじゃない。

 きっとサイキックの冒険者達は、皆がそうなんだろうと、そう思う。



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