43
私達が砲撃を行う機械兵、並びにマシンナーズを吹き飛ばした場所は、区分的にはブラックエリアだ。
キサラギと組むようになってから、移動速度が急激に上がった為、あまり遠出をしてるって気分にはならないが、コミュニティからはかなり離れてる。
もしも私が一人で、徒歩と索敵を繰り返しながらここに来るとしたら、一体どれだけの時間が掛かるだろうか。
いやそもそも、私の探索能力ではブラックエリアで待ち受ける危険を察知できないだろうからと、踏み込むような事はしなかったと思う。
最近では、双眼鏡を使う機会も随分と減った。
もちろん、外では何があるかわからないから、念の為に背嚢には入れてるけれども。
まぁ要するに、随分と遠くに来るようになってしまったなって、少し感慨深くなってしまっただけである。
来た時よりも慎重に、速度を落としてコミュニティを目指す。
私もキサラギも本調子には遠いから、無理はなるべく避けたいし。
この辺りなら遺物が眠る手付かずの遺跡も数多くあるだろうけれど、今はそれに心惹かれてる余裕もなかった。
個人的には、一体何があるだろうかと、遺物を漁るのも好きなのだが、最近はあまり遺物の探索はできてない。
双眼鏡を見付けた時は、そういった物がある事は人間が遺した本で知ってたから、本当にドキドキしたのを今も覚えてる。
他にも絵画や陶器の器や、芸術品と呼ばれる類のものを見付けられる場合もあるし、遺物漁りはクレジットを稼ぐ以上の楽しみが詰まってるのだが……、まぁ、今がそういう時期じゃない事くらいは私にだってわかってた。
ただ今の件が落ち着いたら、この辺りにまで遺物を漁りに来てみるのもきっと楽しいだろう。
もちろん一人で来れる場所じゃないから、キサラギにも同行して貰って。
……彼女は、遺物漁りは好きだろうか?
遺物漁りは冒険者の生業だが、それを好むか好まないかはまた別である。
冒険者をやる理由だって、超能力の適性が向いていたから、敵対種族と戦う為、コミュニティの外が見たかった等、個人によって様々だ。
キサラギがどうなのかは、聞いてみなければわからない。
幾度か休憩を挟みながら移動を続ければ、やがてブラックエリアを出て、レッドエリアへと入った。
レッドエリアも危険である事には変わりないが、そこでの動き方はある程度の勝手がわかってるから、随分と気は楽だ。
マシンナーズとエイリアンが戦う場所から、遠ざかれたってのも大きいだろう。
しかしあの砲撃を行う機械兵は、改めて考えても非常に大きな脅威だ。
今回は、あの機械兵は一体しかいなかった。
エイリアンの場合は、特殊タイプは一度始末すれば、全く同じ個体が二度、三度と出てくる事はまずない。
だがマシンナーズは、同じ機械兵を再び生産できるから、場合によってはずらりとあの砲撃を行う機械兵が並ぶなんて事態も考えられる。
仮に正確な位置を突き止められれば、レッドエリアから放たれたる砲撃だけで、コミュニティが壊滅しかねなかった。
まぁ、流石にあの威力と射程は、近くにマシンナーズがいたからこそ出せたもので、機械兵のみならそこまで深刻な事にはならないと思うが、やはり射程の長い敵は恐ろしい。
一体しかいなかった理由が、試作だからなのか、生産コストが非常に高い切り札だからなのかはわからないけれど、対策は必要になるだろう。
レッドエリアの移動は、ブラックエリアよりも少し速度を上げて。
休憩を挟みながらの移動をしていると、超能力を束ねた後の不調も少しずつ抜けていく。
本当に全ての疲労とダメージを抜くには、安全なコミュニティでしっかり休むしかないだろうけれど、幾許かの余裕は生まれた。
それは私だけじゃなくて、キサラギも同じ。
いや、彼女の方が、私よりも余裕がありそうにも見える。
そして大きな河川を超えたら、イエローエリアへ。
この河川のいきつく先は、海だ。
海の近くはマシンナーズの活動が活発で、彼らの拠点は恐らく海上にある。
今の世界では、海は地上よりも渾沌としているから、もしもそこを攻める時は……、或いはマシンナーズ以上に海という地形に苦労させられるかもしれない。
イエローエリアまで来ると、レッドエリアよりも更に危険と遭遇する確率は下がる。
感覚的には、イエローエリアに入れば私達サイキックの勢力圏内だと言っていいだろう。
もちろん、私達が敵対種族の勢力圏に忍び込むように、連中がイエローエリアへと侵入してくる事はあった。
但しそれは主にエイリアンかグールで、それも偵察というよりも単に迷い込んでくるだけの場合が殆どだ。
ウッドはそもそも自分達の勢力圏を出る事が殆どなく、マシンナーズは偵察をするだけの知性はあるが、だからこそ優れたサイキックのESP能力による索敵が、自分達を上回るとも知っている。
外で活動する冒険者の索敵能力には個人差があってまちまちだが、勢力圏に入り込めば高位のESP能力者に見つかる可能性が高い為、イエローエリアに侵入しての偵察というのは、あまり行われていなかった。
……もちろん、私達が見付けられていないだけで、本当は情報が抜き取られてるって可能性は皆無じゃないが、それを疑い出すともう何もできやしないから。
マシンナーズの偵察は、今のところ殆どないという事にしておこう。
イエローエリアも抜ければ、グリーンエリアへ。
コミュニティも間近の、安全地帯。
防壁の外ではあるけれど、殆どの危険はもうずっと以前に排除されてる場所だった。
そして私達は、コミュニティへと帰り付く。
防壁には門があり、それを守る兵士達が、私達を出迎える。
彼らの役割は、万に一つ、外敵が攻めて来た時に、力を合わせて門をサイコキネシスで閉じる事。
重い門は、閉じられれば周りの防壁と変わらない堅牢さを発揮するから。
門を潜れば私達を待つのは、安全な場所での穏やかな休息……、ではなくて、基地に戻っての報告になるだろう。
もちろんキサラギが、現地からも幾度も報告は行ってるけれど、少しでも情報を求める基地としては、改めて色々と私達から聞き出したがる。
必要な事だとはわかっているが、些か以上に疲れてもいるから、私は門を潜りながら、大きく大きく、溜息を吐く。
なるべく早くに報告、及び向こうからの質問が終わり、ゆっくりと休める事を願うばかりだ。