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 気が付けば、辺りは闇に覆われていた。

 いや、月明かり、星明りがあるから、完全に何も見えないという訳じゃないけれど、それでも周囲は真っ暗だ。


「気付かれましたか」

 キサラギの声に、身を起こす。

 身体には、彼女の外套がかけられていて、……私の外套は、あぁ枕代わりにしていたのか。

 ここは、あの砲撃を行う機械兵を破壊する為に、隠れ潜んだ廃墟のまま。


 まぁ当然だろう。

 キサラギ一人で、私を連れて移動するのは不可能だ。


「すまない。周辺情報の共有を頼む。それから状況を教えてくれ」

 私は彼女にそう要請しながら、少しばかり情けない気分になる。

 一人で活動している時は、夜は暗くて見通しが利かなくて、当たり前だった。

 なのに今は、キサラギの把握した状況を共有されて、周囲を見通せる事に慣れつつあるから。


 キサラギだって、疲労してない筈がない。

 砲撃の衝撃は私が受け止めたけれど、超能力を重ねた事による消耗はあっただろう。

 にも拘らず、気を失った私を見守り、ここに潜んで周辺の警戒を続けてくれていたのだ。

 しかし彼女は文句の一つも言わずに頷いて、私に情報の共有を行ってくれる。


『あれから、六時間が経ってます。北東でのマシンナーズとエイリアンの戦闘は継続中。この辺りには機械兵が一度きて、壊れかけの機械兵を回収していきました』

 声からテレパシーに切り替えて、キサラギは私にそう教えてくれた。

 あぁ、なるほど。

 私が気を失う前に、砲撃を行う機械兵と指揮をしていたマシンナーズは粉々に消し飛んだが、周囲を護衛していた機械兵は、半壊程度で転がっていたから、それが回収されたのだろう。


 北東での戦闘はまだ続いている。

 全体指揮を出してるマシンナーズが他に居るのか、それとも指揮官を失った機械兵が独自の判断で戦っているのか。

 どちらなのかはわからないが、いずれにしても超遠距離からの砲撃がなくなれば、エイリアンが一方的に押し込まれていた展開は変わった筈だ。

 つまり私達は、求められていた以上の形で依頼を果たしたと言えるだろう。

 ……いや、情報収集は、そんなにできていなかった気もするけれど、少なくともコミュニティの利益になる形で、成果を上げれた筈だった。


 この後、更に情報収集を行うかどうかだが……、いや、流石に一度戻って休みたい。

 休んだおかげで頭はスッキリしているが、これ以上は無茶じゃなくて無謀だって自覚もある。


『随分とマシになったが、もう少し休みたい。だが隠れたままの周辺警戒くらいはできるから、超能力を使わずに一度休んでくれ』

 何より、私だけじゃなくてキサラギも限界が近い筈。

 夜が明けるまで休憩したら、コミュニティに引き返そう。

 この辺りは割と危険だから、回収者だって来てくれやしないだろうし。


 情報収集は……、別に私達だけが基地の手駒って訳じゃない。

 キサラギ程ではなくても、周辺探知や逃げ隠れに長けた冒険者のチームは幾つもある。

 彼らを代わりに派遣して貰えば、……いや、私達の状況はキサラギが基地に報告してるだろうから、既に派遣されてる可能性もあった。

 基地の責任者であるアキラ司令が、今の状況でのんびりと手を打たずにいる筈がない。

 私達は気にせず、自分達が無事に帰る事だけを考えれば、それで十分だ。


『はい、わかりました。少し休みますね。あの、……よろしくお願いします』

 やはり彼女も疲れていたのか、私の提案を素直に受け入れ、周辺情報の共有を切る。

 途端に辺りの暗闇が見通せなくなるけれど、まぁ、夜は暗くて当然だった。

 最近は情報の共有に慣れてしまっていたとはいえ、こうした夜をどう過ごせば良いのかくらいは、私だって知っているから。


 私の外套を枕代わりに、自分の外套を身体に掛けて、横になるキサラギ。

 寝息が聞こえてきたのは、それから本当にすぐだった。


 月を見上げ、耳を澄ます。

 夜の空気は冷たくて、感覚が鋭く研ぎ澄まされる感じがする。

 これは、キサラギから周辺情報の共有をされる感覚とは、全くの別物だ。

 情報共有は、キサラギの感覚だから視覚も聴覚も嗅覚も、あらゆる感覚が全て強化されたと感じるけれど、今は辺りが暗くて視覚があまり役に立たないからこそ、聴覚や肌感覚が鋭くなっていた。

 要するに一部だけが尖っている。


 まぁ、だから何だって話なんだけれど、これはこれで悪くない。

 キサラギの情報共有は、全てがわかるから全能感すら与えてくれるが、今は寧ろ心細さが、感覚をピンと張り詰めていた。


 この先、状況はどう変わるだろうか。

 マシンナーズの攻めの一手は潰したが、これは所詮時間稼ぎだ。

 エイリアンが二つの勢力と戦う以上、不利な状況は変わらない。

 やがてはマシンナーズの手は、エイリアンの巣に届く。

 しかしエイリアンがウッドの領域に戦力を送り込む事を止めるとも思えなかった。

 何故なら、止めるならもうとっくに止めている筈だから。


 つまりいずれにしても、西の巣のエイリアンは滅ぶ可能性が高い。

 もちろんエイリアンは敵対種族なので、滅んでくれても一向に構わないのだが、マシンナーズが台頭してくる展開は困る。

 結局のところ、サイキックがどう動くか。

 これ次第でこの先の状況は、大きく変わる筈。


 マシンナーズと敵対するのか。

 それとも便乗してエイリアンを滅ぼしにかかるのか。

 或いはエイリアンが滅びる前に、ウッドに対して攻め込んで、その勢力圏を奪うって手もある。


 選択権はサイキックにあった。

 これはとても有利な事だけれど、だがそれでも、どれを選んでもサイキックにだって被害は出る。

 どんなに上手く立ち回ろうとも、命を失うサイキックは必ずいるだろう。


 まぁ、それを選ぶのは私じゃないし、責任を取るのもやっぱり私じゃない。

 コミュニティの指導層や、基地の責任者であるアキラ司令の仕事である。

 ただ、私やキサラギが、戦いで命を落とした被害の一つになる可能性は、当然ながらあるけれど。


「殺すんだから、殺されもする」

 昔の人間が今の私達を見たら、どんな風に思うのだろうか。

 ずっとそうやって争う私達を、愚かだと笑うだろうか。

 それとも同種と殺し合ってない分、マシだと褒め称えるんだろうか。


 コミュニティに戻って何日か休めば、私はまた外に出る。

 仕事だからというのもあるけれど、それはもう半ば私の習性のようなものだから。

 外に出れば、敵対種族と戦って、殺す場合もあるだろう。

 これまでだって、今回だって、そうしてきた。

 何時かは逆に、私が殺される側になる。

 その相手が、エイリアンなのか、マシンナーズなのか、ウッドなのか、……或いは今の騒動には関わりのないグールなのか、それは今はわからない。



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