表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/55

41


 エイリアンとマシンナーズの戦場から南西方向は、思ったよりも手薄だった。

 これがエイリアンの勢力圏なら、戦士タイプやら斥候タイプが、無駄にうろうろとしてるところだが、マシンナーズは無駄を好まない性質だから、機械兵の殆どを戦場に集中させてるのだろう。

 もちろん最低限の警備はいるから、派手に移動をすると見付かってしまうが、相手の位置を先に特定してしまえば、それを避けるのも容易い。

 本当に、キサラギのESP能力のお陰である。


 今回の依頼で大切なのは、マシンナーズに見付からず、サイキックの関与を疑われない事。

 あぁ、確かに、それを最も重視するなら、私達が最適だ。

 相手の位置を確実に先に捕らえられるキサラギのESP能力があり、尚且つ目立たぬ少人数。

 能力の点で人選を決めるなら、数多い冒険者のチームの中でも、私達がベストに近いと自信を持って言えた。


 問題は唯一つ、キサラギがマシンナーズを前にして平静でいられるのかどうかである。

 私達を選んだアキラ司令は、私と同じように、キサラギを信じたのだろうか?

 あの怖い基地の責任者が、そんなロマンチストであるとは、ちょっと思い難いんだけれども。


『……本当にやるんですか?』

 不安気、というよりも心配気に、キサラギが私に問うた。

 彼女が案じているのは、私の身か。

 どうやらキサラギは、私を自身の恨みの感情に巻き込んでやしないかと思っているらしい。


 まぁ、それが全くないと言えば嘘になる。

 私はあまり情熱的な性格はしてないが、それでも仲間が憎く思う敵には、一泡吹かせてやりたいと思うくらいの気持ちはあった。

 ただ、それは私が砲撃を行う機械兵を排除しようと決めた理由のほんの二割か、多くても三割だ。

 残る七割は、私達が属するコミュニティの為に、それが必要だと判断したから。


 もちろん失敗して、マシンナーズにサイキックの関与を疑われてしまうと、逆にコミュニティに不利益を与える事になるだろう。

 だがそれでも私が行くと決めたのは、要するに十分な勝算があるからである。

 故に私は頷いて、移動の足を緩めない。


 そして砲撃を行う機械兵から3km以上離れた場所で、相手の姿だけでなく、距離や風向きといった、様々な情報が共有された。

 以前のキサラギなら、これだけの情報を得るには2kmくらいの距離まで近寄らなければならなかったから、探査範囲は格段に広がっている。

 これなら、マシンナーズに見付かる可能性は……、皆無とは流石に言わないけれど、ごく僅かだ。

 制御を取り戻すのに苦戦していただけあって、彼女のESP能力も著しく成長をしている様子。


 尤も、それは私とて同じ事。

 キサラギのESP能力は優れているが、私のPK能力も決してそれにひけを取らない、彼女と組むに相応しいと言えるだけの自負がある。


 件の砲撃を行う機械兵の周囲には、護衛と思わしき機械兵が八体と、それから想像通り、マシンナーズの姿がそこにあった。

 あのマシンナーズが指揮官で、周囲の機械兵の、特に砲撃を行う機械兵の性能を引き上げているのだろう。

 正面からぶつかると、全く勝ち目がない戦力だ。

 けれども、そもそも今回はまともに戦う事はありえない。

 下手な攻撃を行えば、これだけの距離があっても、私達の存在が露見する。

 だから私が行うのはまともな戦い、攻撃じゃなくて、嫌がらせの類であった。

 但しその嫌がらせは、生半可な攻撃よりも、ずっと狂暴だけれども。



 キサラギから繋げられたパスに意識を集中する。

 普段から情報の共有と形で繋がりは受けているが、より強く、より強くそれを求めて、そこに私のPK能力を重ねていく。


 3kmという距離があると、その場所の情報を与えられても、全力でサイコキネシスを作用させる事は流石に難しい。

 杖砲を撃てば弾は届くし、その弾の操作もできるし、辺りに落ちてる岩くらいならこの距離でも引き寄せは可能だ。

 しかし私の本気を届かせるには、3kmは遠すぎる。

 そして本気を届かせなければ、砲撃を行う機械兵の破壊は難しかった。


 だがこれ以上は、近付けば近付いた分だけ、マシンナーズに見つかる可能性は高まるだろう。

 もしかすると1kmくらいまでは近付けるかもしれない。

 でも500mは流石に厳しい筈だ。

 故に私は、この3kmの距離からでも、全力のサイコキネシスを砲撃を行う機械兵に使わねばならない。


 ではどうするのか。

 この問題を解決する方法は唯一つ。

 キサラギに助けてもらう事。

 情報だけでなく、超能力を共有するくらいに心を合わせ、私のPK能力と彼女のESP能力を重ねて、束ねていく。


 そう、超能力の束ねだ。

 例えばヤタガラスのメンバーがPK能力を束ねてより強い力を発揮するように、基地の支援者達がESP能力を束ねて遥か遠方を探査するように。

 私のPK能力と彼女のESP能力を束ねて、全力のサイコキネシスを届かせる。

 複数のサイキックが心を合わせて力を束ねると、超能力はより強く発揮されるから。


 もちろんPK能力とESP能力は全くの別物なので、束ねる事は難しい。

 それができても、持続するのはほんの一瞬だろう。

 だけど私は、今ならキサラギと心を重ねられると思ってた。


 互いの能力に関しては、もう随分と理解が進んでる。

 キサラギはずっと私に情報を共有してくれてたし、私もずっと彼女の身体を動かし運んでた。

 性格や考え方、生まれや育ち、そういった部分はまだ知らない事も沢山あるけれど、今、この場に限るなら、最も大切な気持ちを知っている。

 彼女はマシンナーズを難く思いながらも、感情的にならぬように、冷静でいられるように、ずっと我慢をしてきてた。

 私を自分のミスで危険に晒してしまわないようにと、そんな風に考えて。


 だから私は、

『キサラギ、奴らに一泡吹かせてやろう』

 その彼女の憎しみにこそ、心を重ねる。

 最もわかり易く、強い感情に、私から合わせていく。

 もう我慢しなくていい。

 一発、大きくぶちかまそう。


 返事は、ない。

 しかし重なった心が、まるで砲撃を行う機械兵が目の前に、手の届くそこに居るかのように感じられるこの感覚が、キサラギからの答えだった。

 彼女のESP能力は遠くにまで強く作用するから、お互いの超能力が重なれば、距離の問題は解決する。


 今回限りの大技だ。

 普段のキサラギの気持ちまでは流石にわからないし、頻繁に使うには負担も大き過ぎる。

 だがその効果は、絶大だろう。


 定期的に行われる砲撃の、その間隔に合わせるように、私は機械兵の砲塔を、全力のサイコキネシスで蓋をした。

 発射される砲弾を、砲塔の中に押し込める。

 砲弾がサイコキネシスを叩く衝撃に、私の意識が吹き飛びそうになるけれど、砲塔に蓋をしたサイコキネシスは緩めない。

 歯を食いしばって意識を繋ぎ止め、全力で砲弾を押し返し、……次の瞬間、3kmの距離を隔てた私の目の前で、大きな大きな爆発が起きた。


 恐らくは砲弾自体が爆発して広い範囲に被害を齎すものだったのだろう。

 私はマシンナーズの技術には詳しくないが、人間の本にはそんな兵器が登場してる。

 その砲弾が圧力の逃げ場がない砲塔内で爆発する事で、機械兵の中に積んであった別の砲弾も同じように爆発したのだ。

 ……多分。


 正直、砲撃を阻害してやれば機械兵は壊せるだろうくらいに考えてたから、思ったよりも大きな爆発が起きて、私もちょっと詳しい事はわからない。

 ただ、爆発が起きた場所は大きく地表がえぐれ、砲撃を行う機械兵と、その間近にいたマシンナーズは粉々に吹き飛んで、護衛の機械兵も半壊状態になっている。

 狂暴な嫌がらせは大成功だ。


 それを確認した途端、私の身体は膝からガクッと崩れて、倒れそうになったところをキサラギの手で支えられた。

 少しでも私に負担を掛けない為か、

「サイリさん、大丈夫ですか」

 彼女はテレパシーを使わずに、小さな声で私に問うた。

 情報の共有も、何時の間にか切られてる。


 私は頷こうとして、鼻から暖かい液体、血が垂れている事に気付く。

 ……あぁ、ちょっとだけ大丈夫じゃないかもしれない。

 本当ならばすぐにこの場を離れるべきだが、少し休まなければ無理そうだ。


「休んで下さい。近くに敵はもういません」

 ゆっくりと、キサラギが私の身体を地に横たえてくれる。

 思ったよりも力強い。

 彼女はPK能力が使えないから、その分いざという時の為に、身体を鍛えているんだろうか。

 見た目と、PK能力がない事から、私はキサラギにどこか儚げなイメージを抱いていたから……。

 大いに反省すべきだった。

 お互いに、知らない事はまだまだ多い。


 だがそれは、まぁ、起きてからにするとしよう。

 今は、耳元に、ありがとうございましたと言うキサラギの声を聞きながら、私は満足して目を閉じる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ