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マシンナーズ。
金属の身体を、回路の神経や脳で動かす、機械人。
今の世界で、サイキック以外に知性を有した知的生命体であると認められた、敵対種族だ。
そう、知性があるので話し合う事が可能で、こっそりと交易を行ったりもしているが、それでも彼らは敵だった。
ただ実際にマシンナーズと出くわしたサイキックの冒険者は、そんなに多くないだろう。
彼らは自分達の手駒として機械兵を生み出しており、それを動かすのはAIという人工の知能だ。
故にマシンナーズの勢力圏を徘徊する部隊は、機械兵のみで構成されてるケースが多く、マシンナーズに率いられた部隊というのも存在はするが、運が悪くなければ出くわす事はあまりない。
尤も、その運悪くマシンナーズが率いる部隊に遭遇してしまったのが、キサラギと、彼女の以前の仲間達なのだが。
銃器等の武器を備え、元々厄介な機械兵ではあるが、マシンナーズが指揮官として部隊を率いていた場合、その性能は別物かと思うくらいに引き上げられる。
例えば、以前に機械兵のみで構成された部隊と、サイキックのベテラン冒険者のチームであるヤタガラスが戦った。
結果はヤタガラスの圧勝で、鎧袖一触とばかりに蹴散らし、機械兵を破壊していたけれど、もし仮に、あそこにマシンナーズが一体でも混じっていたら、結果はまるで違ったかもしれない。
ヤタガラスだって、もしも相手にマシンナーズが混じっていたら、自分達のチームだけでは挑まずに、四則と連携しただろう。
つまりはそれ程に、マシンナーズの存在は脅威であった。
正直、キサラギと彼女の以前の仲間達が、相打ちに近い形とはいえマシンナーズが率いる部隊に勝利できたのは、僥倖以外の何物でもない。
サクラという名のキサラギのチームは、余程に能力が噛み合った、良いチームだったんだろうと、そう思う。
まぁ、話を元に戻すが、マシンナーズは数を機械兵で補い、質をマシンナーズ自身が部隊を率いる事で底上げする、非常に強力な種族だ。
そのマシンナーズがどうして西の巣のエイリアンを狙うのか。
考えられる理由は幾つか……、三つある。
一つは単純に、マシンナーズにとってエイリアンは強く脅威となる種族だから。
エイリアンの吐く酸は、マシンナーズや機械兵の金属を良く溶かす。
逆にマシンナーズや機械兵が使用する銃器は、エイリアンに対して効果が大きいので、お互い様の関係ではあるけれども。
だからこそ、相手が弱った隙を突いて、排除しておきたいと考えるのかもしれなかった。
二つ目は、エイリアンの西の巣は、恐らく昔の人間が飛行場として使用していた場所だから。
マシンナーズは、昔の人間が作った機械を収集していて、その代表が壊れた車だ。
他の種族の勢力圏ではごく当たり前に辺りに転がってる代物だけれど、マシンナーズの勢力圏では回収されてその姿が見当たらない。
何の為にそれを回収しているのかといえば、マシンナーズがそれを取り込み成長するのか、或いは新たな機械兵を生産するのに使っていると、サイキックでは推察している。
飛行場には、昔の人間が使用した飛行機が残されてる可能性が高い。
いや、飛行機以外にも、希少な機械が多く存在している筈だ。
それらは、マシンナーズ以外の種族にとっては何の価値も持たないが、奴らにとっては大きな意味があるのだろう。
例えばマシンナーズが飛行機を取り込み飛行すれば、それは計り知れない脅威となる。
あぁ、或いは既に、飛行タイプのマシンナーズは存在してるのかもしれないが。
何故なら、マシンナーズの勢力圏は、サイキックのコミュニティから見て西側に存在しているが、昔の人間が残した地図では、そちら側は海にぶつかってしまうから。
するとマシンナーズの拠点は海の上に存在するという事になり、地図を参考にして位置を推察するならば、海上に創られた人工島が、その場所であると考えられた。
そしてその人工島の一部は、やはり飛行場として使われていたそうだから。
最後に三つ目は、私達、サイキックがそうしたように、エイリアンのマザーの身柄を抑える為。
サイキックが巣分けを察してそう判断したように、マザーを捕獲すれば謎が多いエイリアンの生態が色々とわかる。
どういった条件で卵を産み、その卵はどう育ち、大型や中型、斥候タイプや戦士タイプに変化するのか。
また何より、エイリアンはどうやって、結晶からの摂取以外に人間性を得ているのか、それを調べる事ができるだろう。
コミュニティでは、私達が捕まえたマザーを調べて、それらの幾つかは既に判明しているかもしれない。
だがマシンナーズがマザーを捕獲すれば、サイキックよりも早く、より深く、情報を引き出す可能性があった。
何しろマシンナーズは機械を扱う種族だ。
昔の人間も、生き物の調査には様々な機械を使っていたと、彼らが遺した本には記されている。
故にコミュニティの指導層や、アキラ司令は、マシンナーズの手にマザーの身柄が渡る事を、決して良しとはしない筈。
キサラギと共に北西に向かいながら、私は一つ溜息を吐く。
マシンナーズとの交戦は可能な限り避け、仮に行うとしても、密かに素早く殲滅し、決してサイキックの関与を疑われないようにという指示が出ている。
実に難しい注文だ。
より詳細にマシンナーズの動きを掴もうとすれば、連中がエイリアンとぶつかる戦場に深く足を踏み入れる必要があった。
いい予感は少しもしない。
今回もまた、いや、これまでよりも更に大きな何かが起きる。
仮にこの偵察で何も起きなかったとしても、持ち帰った情報を元に、何らかの大きな動きがあるだろうと、そんな気がしてならなかった。
私には、予知の超能力なんて備わってないんだけれども。




