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「冒険者サイリ、及びキサラギに依頼があります」

 狩りを終えてから数日後、基地に呼び出された私とキサラギは、キホにそう告げられた。

 前の狩りで無事に獲物を幾つか持ち帰った事で、私とキサラギの超能力の調整は、無事に完了したと判断されたのだろう。

 まぁ、その判断は間違ってはいない。

 私とキサラギは、自分の超能力の制御を取り戻したと考えたからこそ外に出て、実際に獲物を狩って試したのだし。


 しかし調整が完了したら即座に依頼とは、中々に人使いが荒いなぁと、そう思う。

 もう後一回か二回は、慣らしに遺物探索でもしたかったのだけれども……。

 基地からの依頼なら仕方がないか。


 依頼は、基本的には基地から冒険者へと出されるものだ。

 もちろんそれはコミュニティの指導層からの意向や、一般のサイキックからの求めによって出される依頼もあるだろう。

 但しそういった背景は基本的に伝えられず、依頼は基地と冒険者の間で完結する。


 もちろん依頼の内容から、誰がそれを求めているのかを察する事ができる場合もあった。

 例えば肉を多く狩って来て欲しいって依頼があったとしたら、コミュニティの中で肉を扱う店が基地に求めたんだろうってくらいは、すぐにわかる。

 オルゴールを探して欲しいって依頼が広く出されていたら、コミュニティの中でも有力な誰かがそれを求めてるんじゃないかとか。

 後は、以前のエイリアンの群れとの戦いは、コミュニティの指導層の意向で行われた依頼だって事とかも、そりゃあ冒険者にだって思考する頭はあるから、ちゃんとわかってた。

 だが透けて見える背景はその程度だ。


 基地は冒険者に、依頼の遂行に必要のない情報は与えない。

 基地はどの冒険者に依頼を任せたのかを、外部に漏らしたりはしないだろう。

 つまり冒険者を使えるのは基地だけで、基地があってこそなのだと、その立場を確固たるものにしている。


 以前からそうだったのかは知らないが、少なくとも五年前に私が冒険者になった時には、既にこの体制だった。

 そしてその頃から、基地の責任者はアキラ司令だ。


「先日発生したエイリアンとウッドの戦闘は、未だに継続しています」

 キホの口から出てきたのは、私達とも少し、そう、少しだけ関係のあった事件。

 だがあれから一ヵ月近く経つのに、まだ戦ってるのかと驚いた。

 それ程に、巣分けの為の新しいマザーが消えたのは、エイリアンにとって大きな出来事だったのだろう。

 尤もその犯人は、今、エイリアンが戦うウッドではなくて、私達サイキックなんだけれども。


「更に、その戦いを隙と見たのか、マシンナーズが北上してエイリアンとの戦いを開始しました」

 しかしその続きは、より大きな驚きを私達に与える。

 いや、キサラギの身体がびくりと震えたのは、マシンナーズって単語を聞いた時だから、もしかすると私と彼女の受けた衝撃は別のものかもしれないが。

 それにしても、本当に大事だ。


 エイリアンとウッドの戦闘は未だに継続してるとキホは言った。

 ウッドから攻めてるって事は、状況的にも種族の特製的にも考えにくいから、つまりエイリアンはマシンナーズに攻められながらも、諦めずにウッドの領域に戦力を送り込み続けているのか。


「この状況に我々サイキックはどう対処するか。静観するのか、それとも力を以って介入するか。判断する為の情報がより多く、より詳細に必要です」

 あぁ、キホの言葉は道理だろう。

 発端はさておき、これだけの大事になったのなら、サイキックも対応を決めなきゃならない。

 但し周りの動きを見てから対応を決められる分、今のサイキックは非常に有利な立場である。


 だからこそ、なるべくこの有利を活かして立ち回りたいと考えるのが当然だ。

 そしてその立ち回りに必要不可欠なものが、より多く、より詳細な情報だった。

 けれども……、それは……。


「現状、最も謎が多いのはマシンナーズの動きです。その目的が何なのか。どこまで戦う心算なのか、読めません。ですから冒険者サイリ、及びキサラギに、エイリアンとマシンナーズの戦場の偵察を依頼します」

 やはりか。

 私は思わず、キホを強く睨みつける。

 キサラギの経緯を私よりも知っていて、私よりもキサラギと付き合いがあって、キサラギを私に紹介しようとしたキホが、マシンナーズの偵察をして来いというのかと。


 いいや、もちろんわかってた。

 別にキホだって、好んでそれを私達に伝えてる訳じゃない。

 仕方ないのだろう。

 その依頼を私達に出そうと決めたのが、キホである筈はないのだ。


「アキラ司令の判断です。……でも、何をどこまで調べるかは、冒険者の裁量になります」

 キホの声には、とても苦味が混じってて、……私は視線を伏せる。

 自分のした行為が、あまりにも感情的で理性を欠いていたと、そう恥じながら。

 責がない相手を睨みつけるなんて、あまりにも、愚かな行為だった。

 どうしようもなく、苦しみすら感じてるだろうキホを責めたところで、何も変わりはしないのに。


「あの……、私は、受けたいと思います。サイリさんは、どうですか?」

 その時、声を発したのはキサラギだった。

 言葉の内容には、恐らく全く意味がない。

 基地からの依頼を、それも責任者であるアキラ司令から出されたものを断る選択肢は、単なる冒険者の私達には存在しないから。

 結局のところは受けるしかないのだ。


 ただそれでも、キサラギは自分が前向きであるって態度を示したのだろう。

 私が彼女とチームを組むには、マシンナーズが関わらない案件に対してって条件を付けていて、だから、断れる選択肢はないのに、どうですかってキサラギは聞いてる。

 それは彼女からの、自分は大丈夫、問題は起こさないって、精一杯のアピールなのかもしれない。


 私は大きく息を吐き、一つ頷く。

 いずれにしても、やるしかないのだ。

 以前、キサラギに同情的な様子を見せたアキラ司令が、一体何を考えて私達にこの依頼を任せようとしているのかは……、わからないけれども。



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