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 手を伸ばし、意識を集中する。

 昔の、科学知識を記した本によると、生き物の身体は微弱な電気の刺激によって動いているらしい。

 そして一部の生き物、特に水棲の生物の中には、この電気を強く発生させる仕組みを体の中に備えた……、うなぎやエイ、魚がいたという。

 今の世界では、海は危険な生き物が多い為、それらの電気を発生させる魚の類が、そのまま残っているかはわからないが、或いはより強力に電気を操る怪物と化している可能性は十分にあった。


 まぁ、電気を操る怪物は余談だが、魚の類に電気が扱えるなら、サイキックにも同じ事ができない道理はない。

 イメージは、肩から手の先まで、無数にその発電の仕組みがあると仮定して、それを直列とやらに繋ぐ事で、強い電気のエネルギーを掌から放出する。

 するとバチッ!と、私の掌から光が走って、宙を焼く。

 実際に腕の中に発電の仕組みができた訳ではないけれど、イメージ通りの結果を齎す。

 これがサイキックの超能力だ。


「エレクトロキネシスですか……。サイリさん、そんな珍しい超能力、使えたんですね」

 それを見たキサラギが、驚きの表情で言葉を絞り出す。

 彼女が驚くのも無理はない。

 キサラギは、キホから私の事を教えられた際に、扱える能力も聞いてる筈だ。

 しかし基地に登録されてる私のプロフィールには、このエレクトロキネシスに関しては一言も記載されていなかった。


 何故なら、

「いや、使えるようになったのは先日だ。あの大きな結晶から、人間性を摂取したからだよ」

 この超能力を扱えるようになったのは、つい最近の事だから。


 恐らく元々、極々僅かに私にはその才能があったのだろう。

 だがそれはあまりにも僅か過ぎて、本来なら眠ったままに一生を終えただろう程度の、あってもなくても変わらないくらいの才能だった。

 けれども人間性の大量摂取により、一気に超能力が成長した事で、本来ならば眠っていた筈のそれ、電気を操る力が、この世界に生まれて20年も経ってから、目を覚ましたのだ。


「おめでとうございます? そんな事、あるんですね……」

 物凄く戸惑いがちに、祝いの言葉を口にするキサラギ。

 どうやら彼女は知らなかったらしいが、冒険者の中には、人間性の摂取によって、こうして新たな超能力に目覚める者が、本当にごく稀にいる。

 ではどうしてそれをキサラギが知らないのかといえば、殆どの冒険者は目覚めたその新しい超能力を、秘密にして中々洩らさないから。

 冒険者ではあるけれど、基地でも働くキサラギに、そうした噂が伝わらないのは無理もなかった。

 或いは基地でも上役、アキラ司令辺りはそれを知ってそうだけれど、冒険者が強くなる事には益があるからって、見逃して秘密にしてるのかもしれない。


 そう、私もこの超能力、エレクトロキネシスを秘密にする為に、わざわざキサラギを鹿や猪狩りに誘って外に出た上で、こうやってこっそり見せている。

 流石に、チームを組んで一緒に行動する彼女には、自分の操れる超能力を何時までも隠し続ける事はできないだろうから。


「基地には報告してないんですか?」

 キサラギの問いに、私は頷く。

 コミュニティは所属する全てのサイキックが扱える超能力をデータとして保有するが、それは幼少期から訓練施設を卒業する15歳までに受けた適性検査の結果でしかない。

 つまり私のように、多くの人間性を摂取した結果として扱えるようになった超能力に関しては、その範疇ではなかった。


 エイリアンのマザーを見てしまった私やキサラギは、コミュニティの指導層や、基地の責任者であるアキラ司令に目を付けられている。

 別にだからといってすぐに処分される訳ではないにしても、彼らの知らない隠し札の一つくらいは、握っておきたいのが素直な気持ちだ。


「ですが、エレクトロキネシスは珍しい超能力ですから、ちゃんと報告すれば悪くは扱われないと思います。正規の訓練を受ける事も出来ますし……」

 そう、キサラギの言う通り、エレクトロキネシスは少しばかり珍しい超能力だ。

 テレポーテーション程に希少ではないけれど、サイコキネシスのように、PK能力者なら当たり前に扱えるって超能力では決してなかった。


 今になって身に付けた超能力だから、流石に冒険者を辞めろとまでは言われないかもしれないが、それでも訓練施設に戻されて正規の訓練を受ける事にはなる筈。

 すると短くても、1年くらいはコミュニティの外に出れなくなる。

 冒険者として生きる私にとって、一年間の不自由はとてもじゃないが耐えられない。

 もちろんそうなれば、キサラギとチームを組む話だって、全てがなかった事になるだろう。


「……だからエレクトロキネシスは独学で訓練する心算なんですね。いえ、私にこの話をしたという事は、知ってる訓練法があったら教えて欲しいって意味もあるんですよね?」

 キサラギの察しが早くて、実に助かる。

 単なる冒険者の私と違い、基地で働く彼女は多くの情報に触れられる立場だ。

 しかも高いESP能力の持ち主なので、目も私とは段違いに良かった。


 これがコミュニティで禁止されている事だったら、私もキサラギを巻き込もうとは思わない。

 だがコミュニティには、訓練施設を卒業した後に身に付けた超能力に関するルールなんて存在しないから、黙っていたとバレたところで特に罰則もないし。

 まぁ、サイキックの常識からいえば、あまり褒められた行為でないのは確かだが、それでも黙っておく方が、今の私にとってはあまりに都合が良過ぎたから。


「わかりました。サイリさんの超能力なんですから、私がそれを誰かに話したりする事はしません。仲間と訓練の方法に関して相談するのも、普通の事ですからね。……でも、これは貸し一つですよ」

 少し考えた後、キサラギは何だか、ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。

 あぁ、うん、怖い怖い。

 貸し一つか。

 これは一体、どんな形で返す事になるんだろう。


 私もなんだかおかしくなって、笑みを浮かべて、彼女に頷きを返す。

 相談事は、これで終わりだ。


 尤も今回、外に出た名目は肉を狩る事なんだから、これから鹿か猪を探さなきゃならない。

 私とキサラギが揃ってて、獲物を狩れずに手ぶらで帰るなんて、それはあまりにも不自然だから。

 強くなった超能力が制御できてなかったのかと、変な勘繰りを受けてしまう。

 そう、お互いに強くなった超能力を、確認し合う事も必要だった。

 別に急ぐ必要はないのだから、ゆっくりと獲物を探して、仕留めて、怪しまれないように堂々と帰還しようか。



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