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私が自身の今の超能力を把握し、満足が行く制御を取り戻すまでに、なんと二十日も掛かった。
思った以上に超能力が成長し、その分、感覚のズレも大きく生じていたのだ。
もちろん、生まれた時から超能力を使い続け、制御を鍛え続けてる事に比べると、二十日なんて短すぎる時間ではあるけれど。
出力は、以前の五割近く上がっただろうか。
前回、小さな結晶から人間性を摂取した時に比べると、今回の成長は段違いだ。
人間性の摂取量が6倍以上なのだから当たり前かもしれないけれど、それでも超能力の成長の幅は大きいように思う。
一度の摂取量が多い方が、超能力は成長し易いんだろうか?
それとも前回の摂取から、今回の摂取までに、密度の高い経験をしていた事も関係するのかもしれない。
考えてみれば、起きた出来事の密度の割には、期間もあまり空いてないし。
しかし強くなった超能力の制御を取り戻せたからといって、久しぶりに遺物や結晶を探しに行く、というにはまだ時期尚早だ。
それは少し、はしゃぎ過ぎだと思う。
自分の超能力を外で試そうと飛び出す前に、気にするべきはキサラギがどうなったかである。
正式にチームを組んだ訳じゃないけれど、私は彼女を仲間だと認識していた。
キサラギもまた、私と同じ量の人間性を摂取していたから、自分の超能力の制御を取り戻すには、苦戦をした、或いは今も苦戦してる事だろう。
彼女の様子を確認しようか。
それに一つ、キサラギには相談したい事もあった。
私が足を向けたのは、基地。
パスの繋がりはあるが、私からキサラギへと自由に連絡が取れる訳じゃない。
テレパシーの使い手はあくまでも彼女なのだ。
少しでもESP能力、特にテレパシーの才能があったなら、パスを辿ってこちらからコンタクト、キサラギに声を届かせる事くらいはできたのだろうけれど……、私にはその素養が本当にないから。
自分で連絡が取れないなら、それができる者に頼るしかなかった。
「キサラギに伝えて欲しい。こちらの訓練は概ね終わった。そちらも能力の制御が取り戻せたら、慣らしに鹿か猪を狩りに行こうって」
連絡を頼む相手は、基地で私の支援を担当してくれているキホだ。
彼女も強いESP能力の持ち主なので、キサラギへの連絡くらいは片手間にこなせる。
まぁ、人に頼らなければ連絡を取れないというのは不便だが、私に才能がない以上はしょうがない。
昔の人間は誰もが携帯電話という道具を使って、何時でもどこでも、互いに連絡を取り合えたという。
なんというか、そう、テレパシーの使えない私には、実に羨ましい話であった。
「サイリ、キサラギは、あと三日以内に訓練を終わらせるから、そうしたら一緒に行きたいって言ってるわ。ちなみに、貴方に直接テレパシーを送らないのは、あの子が訓練中だから、万一の事を考えてよ」
すぐさま連絡を取ってくれたらしいキホの言葉に、私は頷く。
後半の言葉は、言われなくてもわかってるというか、キホからのテレパシーが来てる状態で、キサラギが私にテレパシーを飛ばしてくる意味もないので、訓練中じゃなくても別に対応は変わらないだろうとは思ったが。
別にその辺りはどうでもいい。
言葉の綾に突っ込むのも、野暮だろう。
三日か。
やはり強まった超能力の制御には、キサラギも苦戦してるらしい。
ただ三日という具体的な期限を出せる辺り、もう概ね制御は取り戻せているのだろう。
冒険者である以上、超能力の制御は可能な限り繊細に行えた方が良いから、彼女もかなりの高水準を自分に求めているのかもしれなかった。
もしもキサラギの仕上がりに比べて、私の制御が劣っていたら、それはちょっと恥ずかしいな。
あと三日、特に予定もないのだし、更に訓練に当てて、もう少し制御を磨いておこうか。
「仲良くやってるみたいね。あの子、最近はとても明るくなったから。サイリには感謝しておくわ」
私がそんな風に考えていると、口元に笑みを浮かべてそう言った。
その言葉に、私は思わず首をかしげてしまう。
……仲良くやってる。
そんな風に見えるんだろうか?
チームとしては上手くやれている気はするが、仲が良いのはまた別な気がした。
「そうか? 忙しくいろんな出来事に関わり過ぎ友誼を深めてる時間はなかった気がするが。ただ、仲間としては信頼してる」
仲がいいシンとの友人関係とは違って、キサラギは仲間だとの認識がしっくりとくる。
実際、色々と大きな出来事に関わり過ぎて、出会ってからそんなに経ってないのに、もう何度も一緒に死線を潜ってた。
だから信頼に関しては、潜った死線の分だけ積み重なってるけれど、仲が深まるような出来事は、この間のシンを含めた、三人での食事くらいだ。
「……相性が良過ぎるんでしょうね。無茶して死なせたり、死なないようにしてよ」
キホは、ここ最近で私達が関わった件を思い出したのか、大きく溜息を一つ吐く。
半分くらいは基地にも責任がある気もしたが、私も割と無茶をしたし、そこにキサラギを巻き込んだので、反論の言葉はない。
ただキホだって、冒険者をやってる以上、死が近い事は仕方ないってくらい、十分にわかっているのだろう。
彼女の声に、私を責める色はなかった。
今、キサラギが明るく振る舞えるようになったのは、新たな仲間を得て、過去の出来事を克服し始めたから。
冒険者を辞めるって道もあったけれど、そうせず、危険に身を晒すのはキサラギ自身が選択した事だ。
キホとキサラギがどういった関係なのか、単なる訓練校の同期で同僚なのか、親しい友人なのかは、詳しくは知らないけれど、いずれにしてもその選択に口を挟めはしないのだろう。
「善処する。連絡、ありがとう」
私はキホに片手を軽く振って、背を向けて基地を後にする。