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結晶から人間性を摂取して三日。
そろそろ、今の自分の超能力を確認、把握していこうと思う。
正直、この三日間は本当に不便で仕方なかった。
サイキックの生活は、超能力によって支えられている。
例えば風呂に入るのだって、共用タンクにサイコキネシスで水を運び、パイロキネシスで熱湯にまで沸かしておいた湯を、各家に引き込んで浴槽を満たす。
私はサイコキネシスもパイロキネシスも扱えるので、外で活動してない時は、率先して共用タンクに湯を溜めるようにしているのだが、この三日間はそれも一切できなかった。
他にも、共用の炊事場で近所の顔見知りに熱をくれと乞われても、今は出せないと断る事も実に気まずい。
もちろん自分の調理にだって超能力が使えなければ差し障りがあるから、この三日間は殆ど外食で済ませてる。
まぁクレジットはかなり溜まってるから、外食が続いたところでそんなに出費が痛いという事はなかったけれど。
だがそれも、できれば今日で終わりにしたい。
流石に三日も待てば、摂取した人間性も私に馴染んで、超能力の成長も終わってる筈だ。
あれだけ多くの人間性を一度に摂取した事はこれまでにないから、今の自分がどうなってるかは、慎重に確認しなければならないけれども。
手で、バケツを使って水場から水を汲み、広場に運ぶ。
普段はすぐにサイコキネシスに頼ってしまうから、こんな風にバケツを使う事なんて滅多にない。
広場の地面にバケツを置き、そこに向かって手を翳す。
ごく弱く、感触を確かめながら一掴み分の水を、バケツの中からサイコキネシスで持ち上げ、浮かばせた。
ゆっくりと、慎重に。
うん、大丈夫。
力加減が完璧だとはとても言えないが、それでもちゃんとサイコキネシスは使える。
この確認に水を使う理由は単純で、他の物は握り潰してしまうかもしれないから。
たとえそうなっても、水だったら飛び散るくらいで問題はない。
やっぱり想像した通り、サイコキネシスの出力は随分と上がってて、ついつい力が入り過ぎてしまう。
水を握り潰すんじゃなくて、支えて持ち上げる。
それだけの事が、今は実に難しい。
しかしどんなに成長しても、超能力は私の力だ。
サイキックである以上、それを扱う方法は本能で知っている。
力加減、感覚のズレは、何度も何度も使用している間に、少しずつ埋まって矯正されていく。
数度の失敗の後、私は自分の目線の高さに、一掴み分の水を浮かばせる事に成功した。
なら、次だ。
この水を浮かばせて保持したまま、もう一掴み、バケツから水を持ち上げて、隣に並べる。
サイコキネシスの並行使用を行っても、力加減を誤らぬように。
失敗すれば、最初からやり直し。
成功すれば、更に並行使用する数を一つ増やし、複数の水を宙に浮かべる。
何度も失敗を繰り返すと、バケツの水が少なくなって、また水場に汲みに行かなきゃならない。
それがまた、実に面倒だ。
水が必要なら汲みに行く。
当たり前の話ではあるけれど、私にとってはそうじゃない。
本来なら、私はこの広場に立ったままでも、視界内に見える水場からなら、自由に水を引き寄せられた。
……いや、まぁ、今でもできない事はないと思うんだけれど、もしも力加減を誤って水場を壊すと、後始末がとてもとても厄介である。
それこそ、超能力が万全な状態でなければ、水場の修理なんてしたくないから。
私はバケツを片手に歩いて水場まで、大人しく水を汲みに行く。
一掴み分の水を十個浮かべられたら、次はその半分の量の水を、ニ十個浮かべる。
それができれば次は、一滴の水を百個浮かべる。
最後にその百個の水滴を、互いにぶつからないようにグルグルと自在に動き回らせられれば、サイコキネシスで力加減を誤り、物を壊すような事はないだろう。
一般的なサイキックなら、そこまで細かく超能力を制御をする必要はないけれど、冒険者をしているとその制御の繊細さが命を救う場合も多々あった。
この力加減が完璧に行えるようになったら、次は最大出力の確認だ。
どれだけの重量を持ち上げられるか。
持ち上げるだけじゃなくて、押し出したり、引き寄せたりも。
持ち上げる力、押す力、引き寄せる力は、恐らくそれぞれ限界が違う。
また距離を離しても同じ事が可能なのかも重要だ。
自分の今の最大出力を把握して、その上で強い力も過不足なく、完全に制御して発揮できるようにしなきゃならない。
果たして何日かかるだろうか?
サイコキネシスを使ってみた感覚から言って、最大出力は多分、一割や二割どころじゃなく上がってるから、……この制御を取り戻すのは中々に大変そうだ。
それからパイロキネシスだって確かめて、制御を取り戻さなきゃならないし……、他にも、今までとは少しばかり違う何かが、できてしまいそうな予感もあった。
もし本当にそれができれば、これ程に嬉しい事はない。
だがぬか喜びになるかもしれないし、それを試すのは他の超能力の制御を取り戻し、不測の事態に対応できるようになってからの話である。
一足飛びには何事も為せない。
一つずつ、一つずつだ。
今は水を宙に浮かべて、躍らせて。
私は少しだけ久しぶりに使う超能力に、掛け替えのない自分の力を振るえる感覚に、自然と唇が緩んでいた。