表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/55


 まぁ、それでめでたしめでたしで話が終わるって訳じゃない。


 二体のエイリアンを貪り食い終わっても、グール達はその場を去ってくれたりはしないだろう。

 遠距離からエイリアンを仕留めたのが私だって理解する知性がグールにあるかどうかはわからないけれど、私の探し物を奪おうとはする筈だ。

 エイリアンの奮闘で、残るグールは四体になって、どれもそこそこは傷付いている。

 急所を撃ち抜けば殺せるエイリアンと違って、しぶといグールは杖砲では殺し難いけれど、……まぁ、これくらいの数なら、やりようは幾つかあった。


 幸い、グール達はエイリアンの骸を貪る事に夢中で、まだ私の存在に気付いていない。

 或いは気付いてたかもしれないけれど、今は頭から消えている。

 エイリアンの骸の、酸の噴出器官を食い破ったグールは、頭から酸を被って何もしなくても動かなくなりそうだけれど……。

 やはり後々の事を考えると早めに処理をしてしまった方がいい。


 元は人間から変異した生き物なのに、何故かエイリアンとグールは卵生だ。

 両者ともに繁殖力は高いのだが、エイリアンとグールには大きな違いがある。

 エイリアンはコロニーの奥に潜むマザーという特殊個体が大量の卵を産む為、基本的にコロニーでしか繁殖をしない。

 コロニーで生まれた卵を、エイリアンが他の場所に輸送したって話は聞いた事があるけれど、そういうのはごく僅かな例外だ。

 一方、グールは多くの個体が腹の中に卵を幾つも抱えており、どこにでも産み落とすし、活動を停止した個体の腹を食い破って、幼体が出てくるケースも少なくなかった。

 故にグールを相手取るなら、単に活動停止に追い込むだけじゃなくて、腹の中の卵までも、きちんと処理をする必要がある。

 そしてグールを卵ごと処理する簡単な方法と言えば、……やはり高温の炎で焼き尽くしてしまう事だった。


 私は杖砲をスリングで肩に掛け直してから、背嚢を漁って数本の瓶を手に取る。

 瓶の中身は、非常に良く燃える油。

 そう、これでグール達を燃やしてしまおうって考えだ。


 今は食事に夢中だが、この瓶を投げ付ければ、流石のグールも一斉に襲ってくるだろう。

 だから私は何時でも逃げれる体勢を取りながら、次々に瓶をグール達に向かって投げ、その中身の油に対してパイロキネシスを行使する。

 燃えながら気化した油が瓶を割り、炎の液体が降り注ぐ。

 炎はグールを飲み込み燃え移って、奴らの身体自体を燃料とし始めた。


 それでもグールは苦痛に怯んだり、少し未来の自分を想像して絶望するような事はなく、すぐに瓶が投げられた方、つまりは私の方を見て、新たな獲物を仕留めようと動き出す。

 私にはエイリアンのように酸を吐く力も、身を守る外殻もないし、捕まってしまうとグールの常軌を逸した腕力に抗う術はない。

 あっという間に引き裂かれて、奴らが燃え尽きるよりも早くに食らい尽くされてしまうだろう。


 けれどもそれは、私が、サイキックがエイリアンやグールに生き物として劣ってるって事じゃない。

 酸を吐く力も、身を守る外殻も、常軌を逸した腕力もなかったとしても、サイキックには状況に即して対応を考える知能と、超能力が備わっている。


 私はグールが襲ってくるよりも早く、走ってその場を離れ、大きく地を蹴って跳ぶと同時に、自らの身体をサイコキネシスで宙へと持ち上げていく。

 浮遊、レビテーションだ。

 実はこのレビテーションは、PKの中でも結構高度な部類の能力となる。

 やってる事自体は普通のサイコキネシスなんだけれど、自身の身体をPKの対象とするのは、かなり精密な超能力の制御と、それからコツが必要だった。


 燃え盛るグールの手は、私の足の遥か下で宙を切る。

 グールの中には遠距離、つまり上空にも届く攻撃手段を持つ特殊な個体もいるけれど、見た目と、エイリアンとの戦いから判断して、目の前にいるグールにはその特殊タイプは混ざっていない。

 相手の手が届かぬ上空から、ただ相手が燃え尽きるまで待っているのを戦いと呼んで良いのかはわからないが、無駄に正面から戦って、自分の命を危険に晒す趣味はなかった。

 もちろん、そうするしかない状況、相手で、そうする事に価値があるなら、私も命を懸けての戦いを躊躇いはしないだろうけれども。

 敵を排除して手に入る探し物はともかく、足の下で燃え盛るグール達には、私は価値を感じない。


 炎がグールの身体の大半が焼け焦げてしまえば、幾ら頑丈な奴らといえども物理的に立っていられなくなっていく。

 最後の一体が地に倒れてからも、私は暫く燃え続けるグール達を見守ってから、離れた場所に降り立った。

 グールの腹の中の卵までもが燃えたかどうか、確認する必要はあるけれど、それでも火が完全に消えてしまうまでは、奴らに近付く気にはならないから。

 先に探し物の回収に行こうか。


 私は歩いて、エイリアンが地を掘っていた崩れたビルの下へと向かう。

 あぁ、ここまで近付くと、私にもはっきりと感じられた。

 決して量は多くないが、間違いなく探し物はここにある。


 サイキックである私には、エイリアンのように素手で地面を掘るような真似はできないけれど、ハッキリとそこに物があるとわかれば、サイコキネシスで地中からそれを引っ張り出す事はできる。

 私が手を翳して念じれば、エイリアン達が掘っていた穴の奥から、陽光を反射して金色に、或いは虹色に輝くそれが、翳した手の中へと飛び込んだ。


 今、私が握りしめているそれは、見た目は透き通った、光り輝く宝石のような物。

 けれどもこれは、単なる宝石なんかじゃなかった。

 もちろん、今の世界でも宝石は、特に昔の人間の技術で加工されて装飾品になってる物は、コミュニティでもそれなりの価値で取引される。

 だが、その程度の代物を、私だけじゃなく、エイリアンやグールまでもが、引き寄せられるように求める筈がない。


 これは、私達サイキックが、人間性と呼ぶ何かの結晶だ。

 人間性は、私が知る限り、今の世界で最も貴重な……、何かである。

 そう、最も貴重だと知っているのに、実際にはこれが何なのか、私にはわからない。

 もしかすると、コミュニティを率いる指導者クラスのサイキックなら、詳しい情報を持っているのかもしれないけれど、外で活動してるとはいえ、私は特別な地位に就いている訳じゃないから、詳細は知らなかった。


 ただ、一般的にわかっている事は、この人間性はサイキックを、そして他の変異した元人間をも、成長させる効果があるって事。

 私がこれを摂取すれば、超能力の出力が強くなるだろうし、エイリアンやグールが摂取した場合は、場合によっては特殊タイプに進化する可能性もある。


 どうしてそんな謎の物質、或いは栄養素を人間性と呼ぶのかといえば、これを得られる手段が、こうして探し出すばかりじゃないからだ。

 いや、寧ろこうして探し出す方が、イレギュラーなのかもしれない。

 では一体、どんな方法で人間性を得るのかといえば、私達サイキックは、本を読んだり絵を見たりといった文化的な精神活動を行う事で、己の中に人間性を生み出して成長できる。

 故にサイキックは、私も含めて大勢が読書家だったりするし、こうして外の探索で過去の人間が遺した本の類が見付かると、大いに喜ばれて複製をするのだ。

 但しその精神的な活動で生み出される人間性の量は決して多くはなく、例えば一人のサイキックが10年や20年かけて精神活動により人間性を得たとしても、私が今握ってる結晶に含まれる量には及ばないだろう。


 恐らく他の種族、エイリアンやグール、ウッドやマシンナーズに関しても、何らかの手段で人間性を生み出し、得ている筈だが、その量はきっとサイキックの精神活動と大差はない。

 何故なら、何れかの種族が大量に人間性を生み出し、確保してるなら、他の種族が今まで生き残っていられる訳がないから。


 そして、ここからが重要なのだけれど、エイリアンもグールも、ウッドやマシンナーズも、サイキックも、死ねばその身体から人間性は抜け落ちて、どこかに行ってしまうのだ。

 その誰かから抜け落ちた人間性が集まったものが、今、私が握る結晶だった。

 私は、この結晶を他の種族に渡さず確保する為に、安全なコミュニティの外で活動をしている。

 もちろん、その最中には滅びた人間の遺物を発見して持ち帰る事もあるけれど、最も重要な役割はやはり人間性の確保だろう。


 このようにコミュニティの外で活動し、他の種族と戦ってでも人間性を持ち帰る者を、サイキックの間では、大昔の小説にあやかって、冒険者と呼んでいる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ