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「……多いな」

 移動の足を止め、私は思わずそう呟く。

 キサラギが敵を探知して、それを避けて進むのも何度目だろうか。


『この付近だけで47体のエイリアンがいます。……これは、どうしましょう?』

 私の呟きを聞いたキサラギ、隣で私に運ばれている彼女からのテレパシーも、戸惑いの感情が強かった。

 だが、どうしましょうと言われても、……どうしましょう?

 前回の戦い、エイリアンの群れを殲滅した場所の近くを、何故か多くのエイリアンがうろついている。


 あの戦いでは、かなり徹底的にエイリアンを殲滅したから、仮に生き残りがいてもこんな数になる筈がない。

 つまり今、そこらじゅうにいるエイリアンは、西の巣からやって来たって事になるんだろう。

 考えられる可能性としては、マザーの捜索、救助に来たのか。

 どうやったのかは知らないが、西の巣のエイリアンは、巣分けに旅立ったマザーに起きた異変を知り、この地に捜索隊を派遣した。

 理屈としては、これが一番考えられると思う。

 巣分けをした後の同類を、エイリアンが救おうと考えるのかは、ちょっとわからないけれども。


 私とキサラギが北に向かおうとコミュニティを出たのは、あの戦いから一日の休みを挟んだ後で、更に道中で幾度か休憩もしたから、移動で一日以上が過ぎている。

 だからエイリアンが西の巣から出て来て展開する時間もあったと言えばあった。

 あの戦いの後、即座に異常を感知したとするならばだが。


 ……マザーの状況がわかるなら、こんな場所を探さずに私達のコミュニティに攻めて来る筈。

 だとすれば西の巣のエイリアンが感知したのは、マザーを運ぶ大型エイリアン、ロイヤルスイートの死だろうか。

 或いはあの戦いの生き残りに、飛行タイプのエイリアンがいて、それが西の巣に駆け込んで捜索、救助を乞うたのか。

 いや、これはエイリアンに私達、サイキックと同じような知性があったらの話になる。

 知性なく動いているなら、エイリアンの行動に理屈を求めるのは無理だろう。

 探しているのがマザーではなくて、殲滅したエイリアンから抜け落ちて生まれた、人間性の結晶である可能性だってあるのだし。


 いずれにしても、これから多くの冒険者が探索をしようとするであろう北の地に、これだけの数のエイリアンがいるのは問題だ。

 私達はあの戦いに参加した上、テレポーテーションでコミュニティに戻れた分、一日の休息を取っても、動き出すのは他の冒険者よりも早かった。

 しかしやがては、戦いに参加した冒険者が、或いはそこから話を聞いた他の冒険者も、北の探索にやって来る。

 そうなると、エイリアンとぶつかり、戦いが起きるのは間違いない。

 もちろん冒険者として生きているなら、敵対種族との戦いは日常ではあるが、相手の数が数だ。

 キサラギの探知できる範囲内には47匹でも、それが総数ではないだろう。

 範囲外を含めれば、もっと多くのエイリアンが、この辺りをうろついている。


『基地に報告をして、後から来る冒険者に忠告をして貰おう。エイリアンの行動の分析、判断も、基地に任せればいい』

 知らずに飛び込んでしまう冒険者が出ないよう、基地に報告をして、彼らに警告をして貰うべきだった。

 その上で、敢えて飛び込んでくる冒険者がいたら、それはそれで好きにすればいい。

 死地を潜り抜けて何かを得れば、それは本人だけじゃなくてコミュニティの利益にもなる。

 何も得られず死したとしても、エイリアンの数匹を命と引き換えに倒していれば、その死は決して無駄じゃないから。


 それに私達も、他人の事ばかり心配してる場合でもない。

『私達は、どうしましょう?』

 今、私とキサラギも、これからの自分の行動を選択する必要がある。

 他の冒険者達と違って、既に中にいる私達はどう動くか。

 もしも基地からの指示があるならばそれに従うが、なければ自分達で行動を決めなければならなかった。


 エイリアンと戦うのは、数が数だけにちょっと無理だ。

 キサラギの探知に頼って視界よりも外、遠距離から杖砲で狙撃して一匹ずつ仕留めては移動を繰り返すって戦い方ができなくもないが、数十、数百を相手にするとなると、私の体力と精神力が先に尽きるだろう。

 それにエイリアンだってただ黙って殺されてくれる訳じゃないから、斥候タイプが仲間を呼んで、更に状況が悪化するかもしれない。

 場合によっては、大型エイリアンがやって来ることだってあり得る。


 でも何もせずに放置も、あまりしたくなかった。

 何故なら、もしもこの付近に人間性の結晶が生まれたら、みすみすエイリアンに奪われる事になるから。


 他の冒険者、サイキックの手に渡るというなら、残念ではあっても仕方ない。

 しかし少しばかり数が多いだけのエイリアンにそれを奪われるとなると、……それは実に耐え難い話だ。

 いや、必ずこの付近に人間性の結晶が生まれるという訳ではないのだから、身の安全を優先すべきなのかもしれないけれど。


『大丈夫です。今はチームを組んでますから、サイリさんの望みに私は協力します』

 自分だけならともかく、キサラギを巻き込むのはどうだろうと思ってみれば、まるで先読みしたかのように彼女はそう言う。

 参った。

 そんな風に言われたら、信頼を見せられたら、言い訳をして退き難くなる。

 後ろに下がる理由に自分を使うなって事なのかもしれないけれど、何だか少し嬉しい。


 一つだけ、案が浮かぶ。

 これを本当にやっていいのか、かなり迷う手段なのだが、上手くいけば多くのエイリアンを葬れる筈。


『キサラギ、もう一度こちらから基地に連絡して、許可を取って欲しい。エイリアンを北に誘引して、ウッドの勢力圏に侵入させる』

 私はキサラギに、基地の許可を取るように求めた。

 もしも彼女が無謀だと拒むなら、或いは基地の方から待てが掛かるなら、今日は素直に引き下がって、帰る道すがら軽く遺物を探すとしよう。

 そうなっても別に構わない。

 私だって、それが冷静な判断だと思うし。


 だが仮に、キサラギが拒まず、基地からも許可が下りたなら……、その時は今回も、大きな仕事になるだろう。



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