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 外での活動の後は、数日間休んで疲れを抜くのが定番だ。

 前回は、移動はテレポーテーションの使い手に任せてたし、活動時間も短かった。

 しかしその内容は濃かったので、疲労が皆無って訳じゃない。


 だからゆっくりと休みたいなって気持ちは、少しばかりあったのだけれど、私は一日の休憩を取っただけで、今はキサラギを連れて大ジャンプを繰り返し、北に向かって移動をしている。

 どうして休まず、しかもキサラギを連れてまで北に向かうのか。

 それは前回、大型を含む多くのエイリアンを、北の地で殲滅したからだ。

 後、僅かではあるけれど、サイキックの兵士や冒険者にも、力尽きた者がいた。


 エイリアンとサイキックを一緒くたにするのは嫌だけれど、どちらが死んでもその身体からは人間性が抜け落ちて、いずこかへと行く。

 人間性の結晶が何時、どこに現れるのかはわからないが、場合によってはすぐに近くで結晶となる事もある。

 少しでも結晶が見付かる可能性があるのなら、確認をしていく価値は十分にあるだろう。

 その為、これから暫くは多くの冒険者が北を集中的に探索しようとする筈だ。


 キサラギに関しては、基地からの依頼ではないからどうするかは悩んだのだけれど、彼女がいると移動、探索の効率が共に格段に向上する。

 もちろんほぼ空振りに終わるだろうから、一人で行っても良かったんだが、取り敢えず軽く誘ってみたら、是非とも行きたいと言ってくれたから、他の冒険者に先んじる為にも、ありがたく同行して貰った。


 イエローエリアとレッドエリアを分ける北の境、大きな河川を超えたところで、私は飛び跳ねる高さと距離を落とす。

 あまり派手な移動をすると、キサラギのESP能力があっても敵を避けられない可能性はあるから。

 いっその事、飛行タイプのエイリアンのようにずっと空を飛べれば多くの危険を避けられるんだけれど、残念ながらレビテーションで浮き続けて移動するのは、あまり現実的じゃなかった。

 一時的ならともかく、長時間の使用は負担が大きいし、単に浮くだけじゃなくて移動もするとなると尚更である。

 またこうやって飛び跳ねての移動に比べると、速度もあまり出ないだろう。

 障害物等、地形を無視できるメリットはあるから、絶対になしって訳ではないが、少なくとも常に使おうって思える移動手段でもない。


 もっと多くの人間性を摂取して、PK能力の出力が大幅に向上すれば、話が変わるのかもしれないけれど。

 今の私にとっては、キサラギがいるならこうやって数メートルのジャンプを繰り返し、そうでないなら徒歩で慎重に移動するのが、最も現実的だった。


『あの……、サイリさん、あれって、どう思いますか?』

 そうやって現実的な手段で移動してる最中、ふとキサラギが、テレパシーで私に問う。

 あれ、じゃ普通はわからないが、彼女のテレパシーにはそのイメージが含まれていたので、私も察する事ができる。

 キサラギが問うたのは、私達が捕獲したマザーの、特にその見た目に関してだ。


 他のエイリアンとはまるでかけ離れた、まるで少女のような姿をしていたマザー。

 あれを見れば、そりゃあ思うところは色々とあって当然だろう。

 例えば、エイリアンのマザーは危険な存在だから、扱いがとても厳しいものとなる事は、想像に難くない。

 しかし異形のエイリアンならともかく、少女の姿をした何かが、その扱いを受けるとなれば、同情してしまいそうな気持は僅かであっても湧いてくる。


 そして、あのマザーに比べると、角を備えた我々、サイキックの方が異形ではないだろうかと、考えてしまう事もあった。

 もちろんそれは、決して認めてはならない思考だ。

 キサラギがふんわりとしたイメージで問いを発して、ハッキリとした言葉の形にしなかったのは、その辺りも関係してるんだと思う。


『エイリアンのマザーだからな。あんな見た目をしていても、近付けば頭がバクリと裂けて噛み付いてきたかもしれない。そうでなくとも、エイリアンの卵は産む筈だ。それをする理由はわからないが、あの姿は擬態のようなものだろう』

 だが私は、少し冗談めかして、大袈裟なくらいに、マザーは単なる化け物なのだと、エイリアンに過ぎないと強調する。

 既に捕獲し、引き渡したマザーの事をずっと考えていても益はなかった。

 仮にあのマザーが見た目通りのか弱い存在だったとしても、私達に何かができる訳じゃない。


 何もできず、考えたところでただ気持ちを沈めてしまうだけならば、早く切り替えて忘れた方が、ずっと建設的だ。

 相手が同じサイキックの少女であったなら、どうにか救う手段を考えるべきだけれども。

 エイリアンのマザーは敵対種族の核となる存在で、私達が憐れむべき相手では決してなかった。


『……そう、ですよね。エイリアンですものね。でもあの時の皆さん、凄かったです。大型エイリアン相手に、殆ど何もさせなかったですし』

 そんなやり取りをしながらでも、周辺の情報はキサラギから常に共有されてる。

 この辺りには以前に漁った廃墟の地下室が幾つかあるから、もう少し進んだら、その一つでちょっと休憩を取るとしようか。


 あの大型エイリアン、ロイヤルスイートとの戦いで最も大きな貢献をしたのはキサラギなのだけれど、あまりその自覚をしてなさそうな物言いに、私は少しだけ笑ってしまう。

 まぁ、周りのチームも凄かったのは確かだ。

 四則もヤタガラスも、白炎もミツバも、共有された情報を活かせるだけの実力があった。


 ただ、少し疑問に思うのは、大型エイリアンとは明らかに相性の悪そうなミツバが、どうしてあの編成に含まれていたって事。

 彼女達が得意とするのは、中型のエイリアンやグール、……或いは同じサイキック同士の戦闘だろうに。

 アキラ司令が以前からミツバに目を付けていて、自分の同志とする為に秘密を共有させようとしたのか。

 それとも実はミツバは最初からアキラ司令の同志で、現場で問題が起きた際、四則と協力して他のチームを消す為にあそこにいたのか。

 或いは基地ではなく、コミュニティの指導層の差し金で、ミツバが編成に捻じ込まれたのか。


 考えられるケースは幾つかあって、こちらはマザーの件とは違い、ちゃんと気に留めておくべきだろう。

 彼女達の刃が、私やキサラギに向かないとは、決して言い切れないのだから。


 一度シンを食事に誘って、それとなく情報がないか聞いてみようか。

 回収者をしてる彼なら、ミツバと関わった事だってあるかもしれないし。

 そうでなくとも最近は大きな収入が重なって懐が温かいから、友人との食事も楽しそうだ。


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