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「ご苦労だった。今回の成果は、戦いに参加した皆で勝ち得たものだが、その中でも諸君らの功績は非常に大きい。誇り給え」
帰還した私達を部屋に招き出迎えたのは、基地の責任者であるアキラ司令。
ちなみに四則は捕獲したマザーを閉じ込める為に行ってしまったので、この場にはいない。
……やはり彼らは別枠なのか。
誇れと言われても、ヤタガラスも、白炎も、ミツバも、私の隣にいるキサラギも、素直に顔に喜びを浮かべる事はできなかった。
大型エイリアンの撃破、及びマザーの捕獲は、確かに誇れる功績なんだろうけれど、……あの姿を見てしまって、素直にそれを誇り、口に出していいかは、そりゃあ迷う。
功績を誇ったとして、もしも詳しい話を求められたら、その結末が口にできないし。
アキラ司令はそんな私達の様子を見て、にやりと口元に笑いを浮かべる。
あぁ、もしかすると先程のは、私達が容易く秘密を口にするか否か、判断する為の言葉だったか。
仮に誰かが容易く調子に乗るようなら、……どうなっていただろう。
恐らくそれだけで駄目だと判断される事はないと思うけれど、逆に言えばこれだけで信用された訳でもない。
「あまり警戒しなくていい。長く生き残った冒険者が、単に強いだけでなく慎重で賢明である事は、私もよく知っている」
そんな風にアキラ司令は言うけれど、警戒するなという方が無理だった。
しかし自分が元々冒険者であった事を持ち出して、寄り添った立場から物を言われれば、その言葉に従わないのもやっぱり同じく無理だ。
先の言葉が試しであったとしても、既に一度、アキラ司令の言葉を無視した形になるのだし、二度目は許されない。
なので、私は大きく息を吐き、肩の力を抜いて見せる。
形だけであっても、その言葉を受け入れたと態度で示す為に。
私が敢えて大きめに息を吐いた事もあって、それに気付いたキサラギが、すぐにそれを真似る。
言葉では伝えられないから、彼女がすぐに察してくれて良かった。
テレパシーでのやり取りも、今はできない。
内容まではわからずとも、やり取りをしてる事くらいは、アキラ司令なら見破ってくるかもしれないし。
「そしてそのように優秀な冒険者を失う事は、この基地にとって大きな損失だ。諸君らは口にすべきでない言葉を口にせず、私と秘密を共有する同志であってくれれば、それでいい」
アキラ司令のその言葉は、賛辞だか脅しだか要求だかわからないけれど、まぁそこはどれでも大差はなかった。
私達はあるがままを受け入れて、その中で自分にとってより良く動くしかない。
冒険者にとって、基地の責任者にそうしろといわれれば、既にそれは決定事項だ。
ただ気になる点があるとするなら、アキラ司令がコミュニティにとってではなく、基地にとっての損失だと言った事。
マザーの捕獲は、基地だけではなく、コミュニティの決定だ。
そうでなければ、軍の兵士は動かない。
もちろんその決定を下したのは指導層、つまりごく一部のサイキックなのだけど、そこは何も問題じゃなかった。
正しい知識のない一般のサイキックが判断に加わっても、碌な結果には繋がらず、コミュニティに損失を与えるだけだから。
未来永劫、このやり方が正しいとは、実は私は思っていないが、少なくとも今の世界では、そうしなければサイキックは生き残れない。
まぁ、さておき、要するにコミュニティが主導した案件の筈なのに、アキラ司令の物言いはまるで、基地がイニシアティブを握ってる風に聞こえる。
いや、基地がというよりも、アキラ司令がか。
権力を巡っての内輪揉めはありえない。
そんな事をしていたら、敵対種族に滅ぼされてしまう。
元々は冒険者だったアキラ司令は、誰よりもそれを理解してる。
だったら、どうしてそんな物言いをするのか。
これも私達を見定める為に、敢えてそんな言い方をしたのか。
以前に会った時は寡黙だったが、今日は随分と饒舌だし。
「四則のように、ですか?」
黙って頷くだけで十分だったのかもしれないけれど、私はその質問を口にする。
何故なら、マザーの引き渡し、或いは幽閉を終えたのであろう四則の面々が、丁度部屋に入って来たから。
今までの動きから、四則がその、アキラ司令の同志とやらである事は、ほぼ間違いないだろう。
だからこそ、四則の名前を出して、同じように扱うのかと問うた。
当然ながら、アキラ司令がこれに否という筈はない。
そして是と答えた上で、私達を切り捨てたなら、四則は自分達も切り捨てられるのではと、僅かであっても疑心を抱く。
故にアキラ司令は、この言葉によって、ほんの少しでも私達を切り捨て難くなるんじゃないか。
私はそう、期待したのだ。
「なるほど、もちろんだ。四則のように優秀な同志は一人でも多く欲しい。私は諸君らもそうであってくれる事を、心から望むよ」
するとアキラ司令は、私の問いにまたにやりと口元に笑みを浮かべて、一つ頷いた。
私の考えは、どうやらお見通しか。
しかし考えを見通した上で、そう言葉にしてくれるなら、元よりそう簡単に切り捨てる心算はないのだろう。
まぁ、ずっとアキラ司令はそう言ってるんだけれど、鵜呑みにはできなかったし。
安堵するにはまだ早いが、小さく息を吐く。
そして、先程抜いたばかりの肩の力が、また入ってしまっていた事に気付いた。
「……君は、サイリ君だったな。先程の質問は中々に面白かった。キサラギ君とは仲良くしてやってくれ給え」
アキラ司令に名前を呼ばれるのは二度目だが、やっぱりとてもじゃないが喜べない。
むしろ一度目よりも遥かに、今回の方が怖かったくらいだ。
ただ、キサラギの名前を出した時は、本当に彼女を気遣っているのが、ちらりとだが伺えた。
それは、キサラギが基地の職員だからか、それとも彼女の冒険者としての経歴に同情しているのか、どちらが理由でその気遣いが生まれているのかは、わからないけれども。
「さて、私からの話は以上だ。他に質問がなければ下がって構わない。また呼び出す事はあるだろうから、その心算でいて欲しい」
とはいえ、やっぱり怖い事には変わりがないし、その気遣いが私にも向くとは限らない。
できればその呼び出しは、あるにしてもなるべく時期は遠ければいいなと思う。