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 300のエイリアンの群れが、朽ちた道路の上を東に進む。

 エイリアンの群れはロイヤルスイートと名付けられた体長が20メートル近くはある大型を中心に、周囲を中型が囲んでる。

 あの日、西にあるだろうエイリアンの巣の付近で見かけた大型が、マザーを中に抱えるロイヤルスイートだったらしい。

 その周囲には上空も含まれていて、飛行タイプが20に満たない程度だが、羽ばたきながら空に浮かぶ。

 恐らくその中には、この辺りを下見していた飛行タイプも混じっているんだろう。


 飛行タイプ以外は、1割から2割が斥候タイプで、残りは戦士タイプばかりのように見えるが、特殊タイプが混じってる可能性は0じゃない。

 これを殲滅するとなると、サイキック側にも相応の数が必要になる。

 エイリアンが進む道路をもう少し東に行けば、南側に元々集合住宅であったのだろう大きな廃墟が密集していて、そこにはサイキックの兵士が200名伏せていた。


 だがESP能力を持ったサイキック程ではないけれど、本来ならエイリアンも、中でも特に斥候タイプの感覚は鋭い。

 それでもエイリアンの目を盗み、刺激せずに監視ができていたのは、隠れ潜む事に長けたベテラン冒険者のみが、ごく少ない数で、相手の感覚が届く範囲外からESP能力を駆使して、エイリアンの動きを見張っていたからである。


 つまり逆に言うとそこまで気を使わなければ、エイリアンの目を誤魔化せないのだ

 当然ながら、幾ら廃墟に潜んでいても、200もの数を感知できない筈はなく、ぞろぞろと歩いていたエイリアンの一部、大きな感覚器官を持つ斥候タイプが騒ぎ出し、それが戦士タイプにも伝播して、エイリアンの群れは一気に戦闘態勢に入った。

 鋭い歯をギチギチと鳴らす音は、威嚇だろうか。

 普段なら然程に気にならない音だが、今回はエイリアンの数が数だけに、その音がとても大きく、間断なく響く。

 それは、非常に不快な音だった。


 中型エイリアンの多くが200のサイキックの兵士に対して防壁になるように前に出て、大型のエイリアンはそれを避けるように……、動こうとして止まる。

 何故なら、エイリアンの群れを挟むように逆側からは、80のサイキックの冒険者が姿を現したから。

 彼らは、後方の基地から複数のテレポーテーションの使い手によって、ピストン輸送された戦力だ。


 ロイヤルスイートを、より正確にはその中のマザーを逃がさない為とは言え、希少なテレポーテーションの使い手を酷使する辺り、今回の件に対してのコミュニティの本気が伺えた。

 本当なら、もっと多くの、倍の数だって用意したいくらいの気持ちはあるんだろうけれど、流石にあまりに多くの数を一ヵ所に集めて戦うと、エイリアン以外の他の敵対種族も刺激してしまう。

 この辺りからもう少し北に行けば、ウッドの勢力圏が広がってる。

 また今回の件にマシンナーズが気付けば、どんな風に干渉して来るかわからない。


 故に過剰な程の戦力が用意された訳ではないけれど、それを補うように策をめぐらせ、エイリアン相手の挟撃を成功させた。

 南の拠点に籠る兵士達が一斉に杖砲を構えれば、飛び出した弾がエイリアンの群れを引き裂く。

 杖砲は、急所に当てれば斥候タイプなら一発で、戦士タイプでも数発も撃ち込めば、殺し切れる武器だ。

 ただ兵士は、急所を良く狙って一発で撃ち抜くという使い方はせずに、他の兵士と連携してタイミングを合わせて撃つ事で、弾という点での攻撃を、数の力で面の攻撃に変えていた。

 その威力はエイリアンの足を止め、肉体をズタズタに破壊している。


 一方、北側の冒険者はチームごとに勝手気ままに戦うが、個の力はこちらの方が高い。

 サイコキネシスをそのままぶつける者もいれば、パイロキネシスで焼き払う者もいるし、はたまた刃物を投擲してそれを超能力で操って戦う者や、弓から矢を飛ばして戦う者と、冒険者の戦い方は本当に多様だ。

 しかしそのどれもがエイリアンを殺すには十分な威力で、戦いを優位に進めてた。


 エイリアンの群れは二つに割れて、南の兵士、北の冒険者と戦っている。

 けれども大型エイリアンのロイヤルスイートは、南の戦いにも、北の戦いにも参加せずに、動かずにその場に立ち尽くす。

 もし仮にロイヤルスイートが戦いに加われば、南か北、どちらかの状況は大きく変わって、囲みを食い破られる恐れもあるが、何よりも大切なものを体内に抱えてる為、奴はそれに危険が及ぶ行動を取れないらしい。


 まぁ護衛の中型の数が減れば、流石にロイヤルスイートも戦いに加わるか、損害を気にせず強引に突破、逃走を図る可能性もあるけれど、そうさせない為に私達がいた。

 それは、ロイヤルスイートを撃破してマザーを捕獲する為に選ばれた、五つのチーム。

 私とキサラギのチーム以外にも、四則やヤタガラスもそこに加わっている。

 後の二つは、白炎とミツバという、やはり名の知れたベテランチームだ。

 正直、私とキサラギのチーム以外は、精鋭だと言われたら、あぁ、そうだなぁって素直に思う。


「そろそろか」

 私がそう呟けば、……そんなに大きな声を発した心算はなかったんだけれど、周囲の皆は聞き逃さなかったらしく、頷く。

 ここに居る全員が、自分のチームのESP能力者を経由して、キサラギが捉える戦いの情報を共有してる。

 中型は、空の飛行型も含めて、南か北の戦いに参加してるから、ロイヤルスイートは今、完全にではないが孤立していた。

 もちろん戦いが進み、中型が数を減らしてからの方が、私達の役割は果たし易くなるが、それを黙ってロイヤルスイートが待つとは限らない。

 妙な真似をされる前に動いた方が、かえって危険は減る筈だ。


「そうだな。じゃあ手筈通りに、行くぞ」

 そう言葉を発したのは、四則のリーダーの、アユムという名のサイキック。

 誰もが一目を置く彼は、今回の私達……、あぁ、精鋭部隊とやらの纏め役でもあった。


 アユムの言葉に、私は背嚢を下ろし、外套も外す。

 その代わりに背負うのは、おずおずとしがみ付いてくるキサラギだ。

 今回は、彼女を後方には置いておけない。

 何があるかわからないというのもあるけれど、それ以上に、間近でロイヤルスイートの分析をして貰う必要があるから。


 私達の目当ては、ロイヤルスイートではなくてその中身だ。

 つまり箱を壊す必要はあるが、中身を傷付けてはならない。

 その為には、中身の位置を特定する事が、何よりも重要だった。


『荷物になってしまって、すいません』

 耳の近くに顔があるのに、キサラギはテレパシーで、そう伝えて来る。

 その事が何だか妙におかしく思えて、私はサイコキネシスで彼女と自分の身体を固定しながら、戦いの前なのに少し笑ってしまう。

 私に笑われたキサラギも、何故だか不思議と楽しそうだ。


 あぁ、もしかすると、置いて行かれない事が、彼女は嬉しいのかもしれない。

 ずっと後ろに置かれて支援をしていたキサラギだが、今回は私と一緒に最前線だ。

 もしも私がミスをすれば、諸共に死ぬ羽目になる。

 普通に考えれば、それは恐怖でしかない筈だけれど、一度仲間を失ってる彼女にとっては、置いて行かれる事に比べればずっとマシなのだろう。


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