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 人間性を摂取したキサラギのESP能力は成長した。

 だからこそ彼女はこう思う。

 あの時、もっと色々とやれたんじゃないだろうかと。

 成長した今の自分を基準にして、その力を持っていなかった過去の自分を責める。


 故にキサラギは、冒険者であり続ける事を望んだそうだ。

 次こそ、上手くなにも取りこぼさずに、自分の力を役立てたいと。

 強くなった力を無駄にすれば、人間性を分け合えなかった仲間に申し訳が立たないからって。


 しかしそんなキサラギの考えは、他の冒険者には伝わらない。

 新たな仲間を望んだ彼女には、こんな噂が立っていた。

 アイツは、仲間を見殺しにして結晶を独占した女だと、そんな風に。


 それはとても無責任で、残酷な噂。

 だがそんな噂が流れる事も無理はなかった。

 状況だけを見れば、そう思われるのも無理はない話だから。

 キサラギの仲間が何を考えて前に立ち、残された彼女がどう思ってるかなんて、他の冒険者達には関係ない。

 彼らは自分達の身を守り、少しでも成果を出す為に、不安要素を近付けまいとしているだけだ。


 長く冒険者をして生き残り、成果を出したベテランならば、そんな噂には振り回されない。

 ESP能力しか持たない者が一人生き残ったとして、無事に戻れる可能性がどれだけ低いかを知っている。

 ともに窮地を潜り抜けた仲間が、どれだけ貴重なのかも。

 ただベテランは既に優秀な仲間と連携を磨いていて、そこに新たな要素を加える余地は、あまりない。


 結局、キサラギの新たな仲間は見付からず、彼女はコミュニティの外に出る事はできなかった。

 けれども諦めきれないキサラギを、基地で働かないかと誘ったのはキホだったという。

 基地で裏方として働けば、下らない噂もいずれは消えるし、何よりも、組むべき相手を探し続ける事ができるからと、そう言って。

 キホもまた、キサラギや、サクラの他のメンバーとは訓練施設時代の同期だったそうで、ずっと気にかけていたらしい。


 誘いを受けたキサラギは、一年近く基地で裏方として働いたそうだが、それでも外に出て冒険者として活動したいという想いは消えなかったそうだ。

 そしてその一年で、チームを組みたいと思って目を付けた候補の一人が、私だった。


 単独でレッドエリアの探索を行うベテランで、PK能力に特化している。

 支援担当者がキホだから、ある程度なら人柄を知る事も難しくはない。

 まぁ、私とキホの仲は多少の雑談を行うくらいなので、あくまである程度でしかないけれど。


 しかしキサラギは、すぐには私に声を掛けれなかったという。

 一年もあれば、噂も大分と下火になったが、それでもまた拒絶されるんじゃないか。

 そうでなくとも、自分と組めば私が不快な思いをする事になるんじゃないかと、そう危惧して。


 実際のところ、冒険者は皆が自分の事で精一杯だから、あまり姿を見せなくなったキサラギを何時までも気にしてはいられない。

 また噂に振り回される程度の未熟な冒険者も、一年という時間で経験を積み、物事を理解するようになっている。

 或いは物事を理解できぬままに、コミュニティの外で土に還った者も少なくはないが。

 もちろん未熟なままにしぶとく、安全な場所の探索を繰り返しながら生き延びてる類もいるだろうけれど、少なくとも冒険者なら、そういった者の戯言に耳を貸しはしないだろう。


 つまりキサラギの危惧は全くの無意味であった。

 あぁ、でも一度仲間を失った彼女は、自分でも気付かぬ恐れを抱いているのかもしれない。

 仲間を欲してはいても、仲間を作れば再び失う可能性があるから。


 だが今回の、私が飛行タイプのエイリアンを発見し、基地にそれを報告した事で、切っ掛けが生まれる。

 飛行タイプのエイリアンを監視する為に、ESP能力に長けた誰かが現地に赴かねばならない。

 即座に動ける人員の中で、キサラギが最も適してる事は、誰の目にも明らかだった。

 彼女自身も、そうであるとの自負があった。

 そしてキサラギは、再びコミュニティの外に出て、臨時ではあるが私と組む事になったのだ。



 ……私は、ごくりとカップの茶を飲み干す。

 キサラギから聞かされた話のせいか、それとも単に苦みに慣れたのか、特に何も感じずに飲めて、喉を潤す事ができた。


「久しぶりの外での活動は、在るべき場所に帰って来た気持ちになりました。私が、サイリさんの役に立ててるって実感もありました。……でも、あの時、機械兵の姿を捉えた時、どうしても憎くなってしまって」

 吐き出すような、或いは絞り出すような、彼女の声。

 なんというか、キサラギとのやり取りはテレパシーが殆どだったから、声で会話は情報量が少ないなぁと、そんなどうでもいい事を、ふと考えてしまう。

 もちろん声からだって彼女の感情は察せられるが、テレパシーほどには伝わってこないから。


 なので、機械兵が憎くなってしまってと言われれば、そりゃあ憎くて当然だろうって思う。

 逆に機械兵を見て何も感じなかったって言われた方が、キサラギが理解できなくて怖いし。


 ただ当然ながら、機械兵というか、マシンナーズに対しての彼女の憎しみは、チームを組む上での不安要素だ。

 あの時のように、理性で物事を考えての行動を優先させられるのなら、内心でどれ程憎く思っていようと、特に何の問題もない。

 しかしそれができるかどうかは、本人にだってわからないだろう。

 そこだけが、チームを組む上での問題だった。


 あぁ、逆の言い方をするならば、その点以外は、私はキサラギと組んでいいと思ってる。

 ここまで話してくれた彼女を、それなりに理解もできたし、共感もできた。

 そりゃあ全てを理解、共感するのは無理だ。

 例えばキサラギの憎しみは、彼女だけの物である。

 それを知った風には振る舞えない。


 でも命を預け合える関係は、築けるような気がしてた。

 その上で、マシンナーズに対して理性的に行動できるかどうかがわからないキサラギと、何が起きるかわからないコミュニティの外で、ずっと一緒に行動するのは危険が大きいと判断せざるを得なかった。


 だから私の結論は、

「組む事は構わない。但し固定のチームじゃなくて、臨時のチームなら。前の依頼のように、目的がはっきりしてるものなら、一緒に受けて出るのも構わない」

 保留だ。

 または今の関係の継続とも言える。


 私とキサラギが組む前提なら、基地からの依頼を受ける事も増えるだろう。

 そうした依頼を遂行中に、もう少し彼女を見極めたかった。

 もしもキサラギが、自分の憎しみよりも理性を優先させる自信が持てなくとも、私が彼女にはそれができると、或いは私がそれを抑え込めると判断したら、正式にチームを組めばいい。


 基地での仕事も、急にやめて冒険者に専念とはいかない筈だ。

 性急に事を決めるのではなく、少しずつ信頼を積み重ね、関係を築いていくのが、ベターだと私は思う。


「……はい、わかりました。やっぱり、キホの言う通り、サイリさんってお優しいですね。これからも、よろしくお願いします」

 私の言葉に、キサラギは安堵したように微笑んで、そう口にした。

 そうだろうか?

 本当に優しかったら、もっと傍で寄り添う道を選ぶと思うのだけれども。

 まぁ、いいか。

 悪い風に思われてる訳じゃないなら、無理にそれを否定する必要はない。


 キサラギが手を差し出して、私はその手を握る。

 彼女と握手を交わすのは、これが二度目。

 三度目があるとすれば、それは正式にチームを組む時だろうか。

 その時が来ればいいなと、私は素直に、そう思った。



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