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 エイリアンとグールがぶつかるまで間がない為、急ぎはするが、それでもこちらの存在がバレてしまっては意味がない。

 私は自分の身体が地に付く瞬間に念動力、サイコキネシスで持ち上げた。

 ぶわっと、地味な色合いの外套がなびき、私はふわりと、まるで重さがないように地面に降り立ち、すぐに駆け出す。


 サイキックが扱う超能力は大きく分けると三つある。

 一つは感覚に由来するもの。

 超感覚、ESPなんて風に呼ばれ、壁の向こうを透視したり、細かな音を拾い集めて正確に対象の位置、大きさ、重さを把握したり、場所や物に残った残留情報を読み取ったりする事が可能だ。


 もう一つは力を扱うもの。

 念力、PKなんて風に呼ばれて、さっきみたいに自身を持ち上げて浮かせたり、手を触れずに物体を動かしたり、温度を上げたり下げたりできる。


 最後が、どちらにも分類不可能な、よくわからない能力。

 例えば遠く離れた場所に一瞬で自分を移動させるテレポーテーションの類は、前の二つのどちらにも分類し難い力だ。

 いや、恐らく厳密にはどちらかに属するのだろうけれど、特殊過ぎる能力はこの三つ目に分類してしまった方が、理解がし易くなるのだろう。


 但しサイキックの全員がこの三つに分類される能力を全て扱えるって訳じゃない。

 テレポーテーションのような特殊な超能力は、扱える者が殆ど居なくて希少だし、超感覚や念力も、どちらしか使えない者も多くいる。

 また超感覚と念力の両方を使えるけれど、出力は片方しか使えない者と比べれば劣るってケースが殆どだ。

 どちらも高い出力で扱える天才が居ない訳じゃないけれど、当然ながら誰もがその天才になれる筈もないから。


 私は、双眼鏡なんて物を使ってる事からもわかる通り、ESPに関する才能は少しもない。

 但しPKに関しては、それなりのものだと自負してる。

 扱える能力の種類は決して多くはないが、出力と制御に関しては一級品だとの自信があった。

 少なくともサイキックのコミュニティの外に出て、危険の伴う活動に従事できる程度には、戦う才能に恵まれている。

 尤も、真に才能のあるサイキックは、逆の意味でコミュニティの外に出れないんだけれども。

 ESPとPKの両方を高いレベルで扱える天才は、コミュニティ防衛の切り札として守りに回されるし、テレポーテーションやサイキックヒール等の特殊で希少な能力の持ち主は、失う訳にはいかないから後方支援が主な役割だ。


 つまり私は、うん、そこそこくらいのサイキックなのだろう。

 優秀ではあるけれど、替えが利かない訳じゃない。

 そのくらいの駒だ。


 私は駆けながら、杖砲に弾を装填する。

 もちろん弾といっても、遥か昔に使われた火薬の使われた銃弾じゃなくて、それに似たような形をした、単なる金属の塊でしかない。

 杖砲自体も基本的には単なる頑丈な筒なので、上に向けたその入り口から弾を中へと落とすだけ。

 そして装填を終えた私は、物陰に滑り込むように入ってから、エイリアンに向かって杖砲を構えた。


 エイリアンはグールに対し、片方が前に出たが、もう片方は後ろに留まったままだ。

 恐らく、前に出た側がグールを食い止めてる間に、後ろのエイリアンが仲間を呼ぼうというのだろう。

 斥候タイプのエイリアンと、ノーマルタイプのグールでは、個々の力はエイリアンが上回るが、いかんせんグールは数が多い。

 この場限りで見てもそうなんだけれど、全体的にも、グールは数の力に優れた種族だった。

 だからエイリアンが取る手段は、数を圧倒できる力を持った強力な仲間を呼び寄せる事。

 しかしそんな真似をされたらたまったもんじゃないから、私が狙うのは、当然ながら後ろに残った方のエイリアン。


 一瞬、呼吸を止める。

 杖砲内でサイコキネシスが弾を抑え、発射に備えて固定した。

 私の狙ったエイリアンの頭部が、後ろから二つに裂けて左右に広がっていく。

 その行動に何の意味、理屈があるのかはわからないけれど、しようとしている事はわかる。

 やはり、遠くから仲間を呼び寄せる気なのだろう。


 でもそれは、私に急所を晒すのと何ら変わらない行為でもあった。

 杖砲には、過去に存在した銃器のように、指をかける引き金は存在しない。

 弾を発射する為のトリガーは、私の心の中にある。

 私は殺意を籠めて、その心のトリガーを引く。


 杖砲内に、PKに属する超能力の一つである発火能力、パイロキネシスで空気の爆発を引き起こし、強い圧力を生み出すと同時に、押さえていた弾を解放する。

 すると弾は圧力に押され、杖砲内のライフリングによって回転しながら、裂けたエイリアンの頭部、その奥に見える急所に向かって、真っ直ぐに飛び出す。


 弾は、もしもエイリアンが頭部をそのままにしていても、外殻を突き破って中に届くだけの威力はあるんだけれど、その外殻を自分から開いてくれてるんだから、仕留め損なう筈もない。

 私が放った弾は狙い違わずエイリアンの急所……、もしかするとそれは、脳と呼ぶべき器官なのかもしれないけれど、とてもじゃないがそう呼びたくない見た目のそれを、貫き破壊した。

 当然ながらエイリアンは、仲間を呼ぼうとした姿勢のままに固まって、がさりとその場に崩れ落ちる。


 そうなると驚くのはもう一方の、前に出ていたエイリアンだが、けれどもソイツには、驚き仲間の下に駆け寄ったり、原因を探る為に私を探す余裕はないだろう。

 何故なら、……彼だか彼女だかはわからないが、そのエイリアンの目の前には、もうグール達が間近に迫っているから。

 

 エイリアンは獲物を食い千切る鋭い歯と咬筋力があり、酸や毒を吐いたりする能力や、固い外殻があるけれど、単純な力、筋力と呼ぶべきものはグールが上回る。

 グールは、恐らく単純なスペックで言えばエイリアンに劣る筈なんだけれど、自分が傷付く事を恐れるという心がない。

 故に自らの身体を破壊しかけない程の出力で掴みかかって来るから、あんな風に近距離にまで迫られてしまうと、非常に厄介な相手だった。

 その癖、結構走るのも速いし。


 先頭のグールが、エイリアンの吐いた酸に焼かれ、溶かされながらも、エイリアンに掴み掛る。

 しかしエイリアンにグールの手が届く頃には、身体は半分も程しか残っていなかった為、簡単に振り払われた。

 まぁ、一対一なら、エイリアンがグールに負ける事はないだろう。

 ただ、そう、グールは数の力が強い種族で、仲間の死に足を止めるなんて真似もしないから、次から次へと、新たなグールがエイリアンに掴み掛って、捕らえて食らい付いて行く。


 最期の足掻きの心算なのか、エイリアンの頭部が裂けて、仲間を呼ぼうとしたけれど、離れた場所で戦いを見守る私が、それを許す筈がない。

 杖砲から放たれた弾が、さっきと同じくエイリアンの急所と、ついでにその向こうのグールの身体を貫いて、動きを止めたエイリアンの身体は、グールに群がられて、貪り食われた。


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