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 西へ進むと次第に辺りをうろつくエイリアンが増えて来て、とてもじゃないが真っ直ぐに飛行タイプを追えなくなってきた。

 ESP能力で先に相手を発見し、大回りしてでもこれを避ける。

 今はそれで何とか追跡できているが、やがてはそれも不可能になるだろう。


 いや、既に限界は近いかもしれない。

 もしも斥候タイプのエイリアンに見付かって、仲間を呼ばれたら、多くのエイリアンに囲まれて、飛行タイプの追跡はもちろん、撤退すらも危うくなる。


 昔の人間が遺した地図によると、ここからもう少し西に行った場所には、空港という場所があった筈。

 空港とは、言葉通りに空への港で、飛行機という、空を飛んで人を運ぶ機械が発着する場所だ。

 恐らく広い場所だったと思われるから……、エイリアンはそこを巣としているんじゃないだろうか。

 エイリアンがどういった環境を好んで巣を築くのかはわからないが、巣からは多くのエイリアンが生み出され、時には大型も発生する事を考えると、やはり広い場所を確保してる可能性は高いと思う。


 尤も地図での情報はあっても、この辺りはもう、これまでサイキックの冒険者が踏み込んでいないブラックエリアだ。

 今の私には想像も付かない何かがある可能性は、決して皆無じゃなかった。

 まぁ想像も付かない脅威は、警戒しようもないから、何が起きてもいいように覚悟を決めておく事くらいしかできないんだけれども。


『進行方向に戦士タイプが五体、向かって左側には小型三体、斥候タイプが二体のグループがいますので、右側に迂回しましょう』

 キサラギからのテレパシーに了解の意を返し、私は進路を右に変える。

 やっぱり、エイリアンの数が多かった。

 本当に限界は近いと思うんだけれど、どうにか進めているから区切りが難しい。


 何故なら私達が進めてるなら、同様の事をすれば他の誰かもここら辺までは侵入できる可能性があって、その誰かが飛行タイプのエイリアンを狙う可能性が、絶対にないとは言えないから。

 ……いや、キサラギ程の目を持つ何かがいるというのは、限りなく薄い可能性だし、私はもう、飛行タイプをエイリアンの勢力圏に送り届けたと言って帰ってもいいと思っているが。


 エイリアンには、小型、中型、大型の三種類に大別される。

 と言ってもその区別はかなり大雑把で、最もよく見かけるエイリアンである、戦士タイプや斥候タイプを中型の基本とし、その半分よりも小さければ小型、逆に倍以上に大きければ大型という風に呼んでいるのだ。

 もちろん、戦士タイプや斥候タイプ、飛行タイプって呼んでいるように、大きさだけじゃなくて役割の分類もあった。

 なので本当は、中型の戦士タイプとか、中型の飛行タイプと呼称するのがより正しい。


 ただこの分類も、当然ながら完璧じゃなくて、例えば大型のエイリアンにも、それこそ丁度中型の二倍程度から、小山のように巨大なものまで、様々な大きさの個体が観測されていたりする。

 ちなみにこの丁度中型の二倍ってサイズだった大型は、他のエイリアンとは比べ物にならない高速で動き、遭遇した三十人の兵士からなるサイキックの部隊が壊滅に追い込まれ、冒険者の救援が間に合ってどうにか殺せたって化け物だった。

 なのでサイズが強さの絶対的な基準という訳ではないのだけれど、……まぁ、基本的には、大きな敵は大きい程に、それだけで脅威だ。

 高速で動いたエイリアンに関しては、大型の中でも特殊タイプだったのだろうと推測されるが、エイリアンの生態は殆どが謎なので、本当にそうなのかはわからない。

 まぁ、……結局のところ何が言いたいかというと、そろそろ大型にも遭遇しそうで、これ以上進むのは嫌だって私は思ってるって事だった。


『っ!! サイリさん、空に別の飛行タイプを見付けました。それからこれは……、ずっと先に大きなエイリアン、大型です!』

 キサラギのその報告はまるで悲鳴のようで、テレパシーだったから良かったけれど、声に出してたら、或いはエイリアンに聞き付けられていたかもしれない程度には、彼女は強く動揺している。

 私はその場で足を止め、動かしていたキサラギも止めて、大きく一つ息を吐く。

 彼女と情報を共有する私にも、その巨大な姿は捉えられた。


 ……今は伏してジッとしているが、立ち上がるともしかしたら、20メートル近くあるだろうか?

 小山のように大きな、とまではいかないけれど、巨人のように大きな、異形。


『基地に報告を。大型や、他の飛行タイプを確認した事で、エイリアンの勢力圏内まで、件の飛行タイプを送り届けたと判断する……と』

 流石にこれは、もう無理だとハッキリわかる。

 大型もそうだが、それ以外に空からの監視の目も増えるとなると、避けて通るのも難しいだろう。


 四則なら、或いは大型のエイリアンとも戦えるかもしれない。

 そこに私達とヤタガラスが加われば、大型であっても一体ならば、倒し切れなくはないとも思う。

 ただあの大型を倒したところで、その戦いを聞き付けてやって来た無数のエイリアンに囲まれれば、どのみち飛行タイプの追跡はできないし、そもそもここまで密かに護衛をして来た事の全てが無駄になる。

 それどころか生きて帰る事すら不可能だ。

 だからこそ、むしろわかり易く限界が目に見えてくれて助かったとも言えた。


『依頼は達成されたものとすると、連絡が来ました。速やかにエイリアンの勢力圏内から離脱し、安全な場所を確保せよ。しかる後に回収者を派遣するとの事です』

 キサラギのテレパシーに、私は頷き、踵を返して東に向かって駆け出す。

 三つものチームを派遣しているからか、テレポーテーションの使い手が迎えに来てくれるらしい。

 当然ながら、希少な能力の使い手を危険には晒せないから、エイリアンの勢力圏から出るのは、自力で何とかしろとの事だが、それでも随分とサービスが良かった。

 特別扱いと言ってもいいくらいに。


 では、その特別扱いを受けているのは一体誰か。

 少なくとも、私ではないだろう。


 四則かヤタガラスか、それともキサラギか。

 普通に考えたら四則である可能性が最も高い。

 私が耳にした四則の噂には、彼らはアキラ司令の切り札だって話があった。

 コミュニティの指導層が、ごく一部の天才と呼ばれるサイキックを集め、人間性で育てて抱え込んでいるように、アキラ司令はそれに対抗すべく、優秀な冒険者を懐刀としていると。


 ……まぁ、些か妄想は過ぎるけれど、なくはない話だ。

 指導層が一部の天才を育てて、コミュニティの守りに配置している事は、紛れもない事実である。

 もちろんサイキックの誰もが、サイキック同士の争いなんて愚かであると知っているから、実際に指導層と基地が対立してる訳ではない。

 しかし冒険区の隣に軍区があって、他の区とは壁で遮られているように、冒険者の持つ力というのは、コミュニティから一定の警戒は受けていた。

 警戒をするなら、万一に備えて対抗手段を用意するのは当然だろう。


 そしてそれはコミュニティ側だけじゃなくて、冒険者側だって同じ事だった。

 冒険者として力と名を高め、基地の責任者となったアキラ司令が、自分の意を汲む手駒を育てていたって、特に何の不思議もない。

 もし仮に、指導層が冒険者にとってあまりに理不尽な判断を下した時、それに物申す為の力を保持する為に。


 なんて、私も十分に妄想が過ぎるか。



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