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強力なESP能力者が同行するメリットは、索敵範囲が広がる事だけじゃない。
普段なら、私一人なら基地側から来るのを待たなければならない連絡を、こちらから発せられるというのも、非常に大きなメリットだろう。
辺りを飛び回っていた飛行タイプのエイリアンが、ここに満足したのか否かはわからないけれど、東側に向かって移動を始めた為、私達も基地への連絡を入れてから後を追い始める。
キサラギの索敵範囲は広く、特に一度捕捉した対象に関してはかなりの距離が開いても見失わないとの話だったが、もちろんそれでも限界はあった。
グリーンエリアやイエローエリアを飛び回っていた時のような大ジャンプではないが、十メートルに満たない程度のジャンプをポンポンと繰り返し、私とキサラギはかなりの高速で飛行タイプを追跡する。
どうしてこんな目立つ移動ができるのかといえば、キサラギが先に辺りを索敵、把握して共有してくれている為、進む先に敵がいない、或いは居たとしても事前に迂回してそれを避けられるという確信があるからだ。
流石に数十メートル級の大ジャンプをすると、飛び跳ねる高さもあって遠くの敵にも見られてしまう可能性はあるが、小さく低いジャンプの繰り返しならば、近くに敵がいない限りは気付かれる事もそうはない。
PK能力を持たないキサラギは、移動中は完全に荷物として私が運ばなければならないけれど、そんな事は彼女の索敵能力に比べれば些事である。
私一人だったら、いるのかいないのかわからない敵を警戒しながら、徒歩で飛行タイプのエイリアンを、少しでも追い掛けるしかなかっただろう。
いいや、そもそも、その場合は追い掛ける事自体を諦めていたか。
ただ、移動を私が、索敵をキサラギが担当していても、ずっと飛行タイプのエイリアンを逃さずに捕捉し続けるのは、正直に言えば不可能だ。
今はまだ良い。
仮に進路に敵がいても、それを事前に察知して避けられている。
だが、飛行タイプが向かう先にもよるけれど、仮にまだ巣分け前の、大きな巣に戻ろうとしてるなら、その辺りは完全にエイリアンの勢力圏内だろう。
すると先に相手の位置を把握しても、避けられない程の密度の敵が、エイリアンがうようよと湧いている筈だから。
そこに突っ込む事は、当然ながら単なる無駄死にを意味する。
なのでもしもコミュニティの上層部が飛行タイプのエイリアンを始末しようと判断するなら、できればその前に決めて欲しいなぁというのが、私の素直な感想だ。
しかしそれでも、ギリギリまで飛行タイプのエイリアンを追う事には意味があった。
追った先に密度濃くエイリアンが湧いていたら、その先には大きな巣がある可能性が高いし、そうでなければそこも新たな巣を築く場所の候補だろう。
完全には追い続けられなかったとしても、飛行タイプの移動範囲を調べられれば調べられる程、エイリアンの状況を把握する事に繋がる。
その最中に、もしも私やキサラギが力尽きたとしても、テレパシーによって情報は基地に共有されるから、流れた血は決して無駄にならない。
まぁ、私もキサラギも……、いや、まだそう断言できる程には彼女を理解してないから、少なくとも私は、無駄じゃなかったとしても好き好んで死にたくはないから、精一杯に生き残ろうとはするけれど。
そう、飛行タイプのエイリアンを追ってできる限り多くの情報を得る事はコミュニティに属するサイキックとしての義務で、その先、生き残れるかどうかは個人の努力だ。
『サイリさん、基地からの連絡、来ました。コミュニティからの指示は、飛行タイプのエイリアンには手を出さずに監視を継続。もしも飛行タイプのエイリアンを他の敵対者が襲おうとする場合は、可能な限り密かに撃破だそうです』
傍らのキサラギが、声には出さず、テレパシーでそう伝えてきた。
なるほど、コミュニティの指導層は、思ったよりもずっと早くに判断を下してくれたらしい。
コミュニティの指導層が冒険者の能力を細かく把握してるなんて事はないから、より正確にはコミュニティの指導層からの意向を受けた基地からの指示、なんだろうけれど、まぁその辺りは誤差だろう。
しかし、実に厳しい指示である。
後を追って監視までは想定していたが、飛行タイプのエイリアンを密かに護衛するような真似までさせられるとは、あまり考えてもいなかった。
いや、考えてみれば、エイリアンと敵対してるのはサイキックばかりじゃないのだし、他の敵対者が飛行タイプのエイリアンを狙う可能性も皆無じゃない。
けれどもそれでも、サイキックにとってエイリアンはどうやっても敵でしかないから、守るなんて発想には至らなかったのだ。
実際、その必要性を理解しても尚、理由のない拒否感が、私の中からは消えないし。
ただ、やれと言われたならばやるしかないか。
可能か不可能かで言えば、恐らく可能だ。
もちろん相手次第なところはあるけれど、キサラギの索敵でいち早く脅威を発見すれば、私のPK能力で杖砲の弾を誘導し、遠距離から密かに始末ができる。
加えて飛行タイプのエイリアンは、その名の通りに空を飛んでいるから、それを襲える脅威はあまり多くない。
基地側も、私とキサラギのペアならそれが可能だとわかって、その指示を下してきたのだろう。
『それと、三時間後には交代のチームが派遣されるので、交代で帰還して構わないそうです。ただ休息後、再び私達が再交代の要員として指名される可能性が高いのですが……』
あぁ、それは非常にありがたい。
交代が来るって事は、テレポーテーションの使い手に送られて来るって意味で、その帰還に相乗りさせてくれるのだ。
事態が事態だけに当然ではあるのだろうが、基地側も随分な力の入れようだった。
まだコミュニティを出てからの活動時間は一日にも満たないけれど、初対面の相手とペアを組み、降って湧いた大きな仕事をこなしているから、きっと目に見えぬ疲れは溜まりつつある。
今は高揚がそれを打ち消してくれていて動けるが、もう間もなく日が沈んで夜になり、更に夜通し飛行タイプのエイリアンを追跡し続ければ、朝には疲労が色濃くなっていた筈。
それを交代して、基地に戻って休めるというのは、まさに朗報以外の何物でもなかった。
再度駆り出される可能性があるのは、……まぁ、それも已む得ない話だ。
ここまで関わった以上は、私も事の結末が知りたいし、否やはない。
もしも飛行タイプのエイリアンの追跡、監視の役割が回って来なくとも、今回得られた情報を元に、エイリアンの動向を調べるって仕事が多くの冒険者に出される筈だから、そちらに参加するだろうし。
私がキサラギからのテレパシーに頷き了承の意を示せば、彼女はとても安堵したような顔をした。