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「わぁ……、本当に飛行タイプですね。確認しました。これより私、キサラギは、サイリさんとのチームを組んで飛行タイプエイリアンの監視に当たります。よろしいでしょうか?」
飛行タイプのエイリアンの発見を基地に報告したところ、シンではない名前も知らないテレポーテーションの使い手に送られてやって来たのは、キサラギと名乗るサイキックの女性。
彼女はハキハキと、しかし小声で名乗り、私に向かって手を差し出す。
恐らく訓練施設を卒業して、二~三年といったところだろう。
つまりは、十七、八歳だ。
昔の人間でいうなら、少女から女性へと移り変わる年頃、と評されるのかもしれないけれど、サイキックの基準で言えばもう立派な大人である。
チームか。
まぁ予想通りの流れではあるけれど……、握手まで求められたのは少し意外だった。
握手を交わす挨拶は文化的な行動ではあるんだけれど、サイキックの間で、特にESP能力者である事が明確な相手からそれを求められるというのは、それだけじゃない意味がある。
要するに、私とパスを繋ぎたいって事だろう。
ESP能力者とのパスというのは、簡単に言えば力の通り道だ。
仮にキサラギとパスを繋げば、私は彼女の超能力の影響を強く受ける事になる。
例えば、基地からの支援担当者であるキホは、私とパスを繋いでいるから、遠く離れた場所であっても定期的にテレパシーでやり取りができた。
但し当然ながら、超能力の影響を強く受けるというのはメリットばかりがある話じゃなくて、パスを繋げばそのESP能力者には考えが読まれ易くなったりとか、私にとっての不都合も少なくない。
またESP能力者の側でも、パスを繋げる人数には、そのサイキックの才能にもよるけれど、限りはある。
パスが不要になったとしても、それを消して容量を空けるには、随分と時間が掛かると聞く。
つまりキサラギにとっても、パスを繋ぐというのは自分のリソースを削る、それなりに負担のある行為だ。
「必要なのか?」
私はそう問い返しながら、彼女の手を握った。
けれどもその手を通して伸びてきた力の通り道は、まだ受け入れない。
ESP能力者ではないけれど、私もサイキックだ。
力の扱い方はわかっているから、純粋な超能力の出力に勝れば、パスを拒む事くらいはできる。
キホのように支援担当者ならともかく、たまたま一度組む必要が出ただけの相手に、キサラギがリソースを割く意味があるのか。
私がそれを受け入れるべきなのか、わからなかったから。
「はい、今回の件は失敗できませんし、パスを繋げば情報の共有も容易となります。それにサイリさんの噂は度々耳にしていましたから、受け入れていただければ光栄です」
でもキサラギは、躊躇う事なく頷いて、握った手に力を込めた。
……噂、か。
一体、どんな噂を耳にしたやら。
躊躇う気持ちが消えた訳ではないが、何時までも手を握って遊んでもいられない。
私も男だから、女性の手を握るのが嫌って訳ではないけれど、今は他にやる事があった。
キサラギから伸びた力の通り道を受け入れて、私と彼女の間にパスが繋がる。
そしてすぐに、キサラギのテレパシーの力で、彼女が把握する周辺情報、飛行タイプのエイリアンの位置や距離が、私の脳に流れ込む。
あぁ、うん、確かにこれは、非常に便利だ。
双眼鏡を使えば、鍛えたESP能力には及ばないけれど、それに迫る事はできる……、なんて風に言ってたが、あれは完全な間違いだった。
情報量の違いが、あまりに大きい。
飛行タイプのエイリアンの姿を捉える事は双眼鏡にもできたが、キサラギの遠視は単に遠くにまで視界が届くだけじゃなくて、距離や地上からの高さ、間を吹く風の強さまでが明確だ。
もしもその気になったなら、私はその情報を元に、杖砲の弾を空のエイリアン届かせる事だって可能だろう。
普段は、杖砲の射程は私の肉眼で見える範囲が限界なだけに、思わず試してみたくなってくる。
いや、今やるべきは飛行タイプのエイリアンの監視であって、その為にキサラギが来てくれたのだから、撃ち落としてはいけないのだけれども。
この感覚は、あまりに強烈で新鮮だった。
「パスを繋いでいただけましたので、私が把握した情報は常に共有する事ができます。ただ、私にはPK能力がありませんので、動く方は助けていただきたいのですが……」
前半は少し得意げに、けれども後半はおずおずと、キサラギはそう言う。
……なるほど、ESP能力に特化してるのか。
かなり強力なESP能力を見せられたから、もしかしたらとは思ったけれど、珍しい。
私とチームを組まされるって事は、恐らく冒険者なのだとは思うけれど、外で活動をする都合上、基本的に冒険者はPK能力の持ち主が多かった。
ESP能力で探査役を担う冒険者も、幾らかはPK能力も使える場合が殆どだろう。
まぁESP能力に特化した冒険者もいない訳じゃないんだけれど、その場合は間違いなくPK能力者とチームを組んでいる。
そうでなければ、外での活動なんてできる筈もないから。
でもキサラギは単独でやってきた。
チームの仲間がいるならば、ESP能力者のみを単独で外に送り出すなんて、許す筈がないのに。
……わからない。
冒険者じゃないのか?
とも思ったが、彼女の纏う外套はちゃんと使い込まれてて、外での活動の長さを物語る。
しかし考えてもわからない事は、考えるだけ無駄か。
今はそれに頭を悩ませている場合じゃないし、必要ならばキサラギが事情を話してくれるだろう。
それがどんな事情であっても、基地が彼女を選んで送ってきた以上、今回の仕事の障害とならない事は確実だ。
キサラギからの要望に、私は頷く。
テレパシーを繋げてくれれば、キサラギが望む通りに、私が彼女の身体をサイコキネシスで動かす事も簡単だった。
PK能力に特化した私と、ESP能力に特化したキサラギ。
能力的な相性はいい。
彼女の性格はまだわからないけれど、仮に気の合わない相手であっても、今回の仕事中の、限られた時間くらいなら、どうにかやっていけるだろう。
性格的な相性が問題となるのは長く一緒に行動する場合であって、短い時間、一緒に仕事に取り組むのなら、能力的な相性の方がずっとずっと大事だから。




