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変異人類の冒険者  作者: らる鳥


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 高い場所から地上を見下ろすと、自分が特別な存在になったような気分がする。

 別に立つ場所で何が変わるって訳ではないんだけれど、高い場所から一方的に地上の広い範囲を把握できるって事には、そんな万能感が伴うのだ。

 まして、双眼鏡なんて遺物を使うのなら尚更だろう。


 今回は遠くまで進まず、この辺りで遺物を探そうと思ってた。

 辺りの様子はとても静かだ。

 砂を纏った風が吹くばかりで、異常は何も見当たらない。

 まぁ、それも当然か。

 河川を渡ってレッドエリアに入ったが、そこからまだ、数時間しか進んでいないのだ。


 レッドエリアと一口に言っても、イエローエリアよりも探索の進んでいない、危険が多い場所を纏めてそう呼んでるだけで、当然ながらレッドエリア内にも危険の度合いに差はある。

 ここから更に一日や、二日を掛けて歩いた場所ならともかく、イエローエリアと然程に離れていないこの場所は、レッドエリアの中でも比較的だが、安全だと思える場所だった。

 逆に言うと、もしもレッドエリアの中でもこんな浅い場所に深刻な脅威があったなら、川向こうのイエローエリアも、赤く染まってしまうだろう。

 場合によっては、コミュニティの周辺や、他のコミュニティとの交易路も危険に晒されるかもしれない。


 だからこそ、それを見た時、私は背筋がゾッと凍るのを感じた。

 地上の観察を終えて視線を上げた時、遠くの空に何かの影が見えたのだ。

 大慌てで双眼鏡を覗き直すと、北の空に浮かんでいたのは、一体のエイリアンの姿。


 この辺りでエイリアンの姿を見掛ける事は少ないけれど、皆無じゃない。

 ではどうして私がこんなにも焦りを感じるのかと言うと、それが翅の付いた、飛行タイプのエイリアンだったからである。


 飛行タイプは中型だが、かなり珍しいタイプのエイリアンだ。

 大型程の戦闘力はないが、翅を活かして空を飛び、空中から酸をばら撒くという小賢しい戦い方をする。

 PK能力に長けたサイキックである私なら、戦えば勝利する事はできるだろうが、少しばかり苦戦をする可能性はあった。

 ちなみに大型のエイリアンが相手だった場合、苦戦どころの話じゃなくて、全てを駆使して命懸けで戦って、勝機が少しはあるかもしれないってくらいだろうか。

 まぁ大型に比べれば、飛行タイプのエイリアンの脅威度はずっと低い。


 だが私が焦っているのはそこじゃなく、飛行タイプのエイリアンは基本的には巣の近くを活動範囲にしているという事が、問題だった。

 もしもこの近くに、あの飛行タイプのエイリアンが属する巣があったなら、それは間違いなくコミュニティの危機だ。

 兵士と冒険者が総出でエイリアンの巣を潰すか、それに失敗してコミュニティが壊滅するかの二択になる。


 ……尤も、冷静になって考えると、この辺りに巣があったなら、辺りにはもっとエイリアンで溢れかえってる筈。

 つまり巣はないけれど、飛行タイプのエイリアンがこの辺りまで出張ってる何らかの事態が起きている。


 考えられるケースとしては、これもかなり悪い想像ではあるけれど、巣分けだろうか。

 飛行タイプは、巣の中心であるマザーの親衛隊でもあるという。

 だからこそ、長距離を移動できる翅をもちながらも、普段は巣の近くを離れない。

 しかし新たなエイリアンのマザーが誕生し、巣分けが行われようとしていたら、そのマザーに付き従う事になる飛行タイプが、巣を築くに適した場所を探していたとしても、理屈としては然程におかしくない。


 けれども、ならば問題はそれにどう対応するかって事だ。

 一つは、こちらから攻撃を加え、飛行タイプを撃退、或いはいっそ殺してしまう。

 近くに強い脅威がある場所は、巣を築くには適さない。

 探索に出した親衛隊が戻らなければ、別の方向に巣を築こうとする筈だった。

 そうなれば少なくとも、コミュニティの近くにエイリアンの巣ができるって事態は避けられる。


 もう一つは、手を出さずに見守って飛行タイプにこの辺りを安全だと誤認させ、巣を敢えて誘致するって手もあった。 

 敢えて脅威を近くに招くのは、コミュニティを安全から遠ざける事になるけれど、……だがこの辺りに巣が作られなくても、新たなマザーが誕生して巣分けが行われようとしているなら、結局のところエイリアンの巣は増えてしまう。

 私達の知らぬ場所に巣ができれば、エイリアンの数は増えて巣は大きくなり、やがて探索を進めている最中に、その大きくなった巣のあるエリアにぶつかるかもしれない。

 だったら、敢えて近くに巣を誘致して、その巣が大きくなる前に潰してマザーを殺すというのも、選択の一つとしては十分にありだ。


 まぁ、いずれにしてもここまで大きな物事の判断は、私が勝手に下していい範疇を超えている。

 今はあの飛行タイプを見失わないように、当然ながら気付かれないように監視しながら、基地からの連絡を待つとしよう。

 前の連絡は河川を渡る前だったから、次の連絡も、もう間もなく来る筈だし。


 もちろん報告したからって、どうするかの判断はきっとすぐには下りないだろう。

 基地からコミュニティの指導層に話が行って、彼らがどうするかを決めるには、早くて数時間、遅ければ一日は必要になる。

 リスクを今負うか、先送りにするかは、コミュニティの大勢の命に関わる判断だから、安易に下せるものじゃない。

 現場としては早く決めて貰えた方が負担は軽いが……、この理屈を押し付けて誤った判断をさせる訳にはいかない事くらい、私にだってわかってた。


 ただ、双眼鏡を持つとはいえ、PK能力者でしかない私は、飛行タイプを監視し続けるには向いてない。

 恐らく監視に適したESP能力者が送られて来るとは思うけれど、さて、どんな相手と組まされるのか。


 今回はあまり遠くまで行かず、軽めの探索で済ませる心算だったのに、何ともままならないものである。




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