表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/55


 あらゆる物事には、限度がある。

 どんなに石を積むのが上手くとも、空のその先にまでは、積み上げられないだろう。

 地球は水の惑星なんて風にも言われてたらしいけれど、その地球上でも水を得られずに乾き死ぬ生き物は数多い。


 だから人間の世界にも限界はきた。

 人口は百億を超え、それでも増え続け、その重みに耐えかねて。


 人間は本能的にそれを察したのか、一部では少子化って方法で自然と人口の抑制に走りもしたが、それでも間に合いはしなかったのだ。

 彼らは命を大切にしすぎ、長く生きて、他者を殺さない。

 大昔は、人間は殺し合いによって同じ地域に住む同類の数を抑制したが、彼らはそれを忘れてしまったから。

 感情を理性で、道義や正しさで押さえ込み、争いですら人道的にして、殺し合いでは数が抑制し切れなくなり、長生きをして、命を大切にして、人類は地球を埋めていく。


 それはきっと、本当はとても良い事なんだろうけれど……、やはり物事には限度があったのだろう。

 人間という生き物は、彼らが住む世界は膨れ上がり過ぎて、内側から裂けるように、滅びを迎えた。

 今から、もう百年だか二百年は昔の話である。



 物陰に潜みながら双眼鏡を覗けば、遠くの崩れたビルの下に、二匹の異形の姿が在った。

 その異形達は、長い爪の生えた手で、朽ちたアスファルトだか、コンクリートだか、土だか判別の付かない瓦礫だらけの地面を、掘っている。

 後頭部が長く迫り出した顔の、その半ばまで裂けてる口が動いてるのは、何か会話をしてるんだろうか?

 奴等、エイリアンと呼ばれる異形が本当に言葉を話すのかどうかはわからないけれど、そうであっても何ら不思議はない。

 何故なら、彼らもまた、かつての人間の成れの果てだから。


 人間の世界は内側から裂けたと言ったけれど、もちろんそれは比喩である。

 実際に裂けたのは、人間という種族そのものだ。

 当時生きてた人間は、その多くが、ある日突然に、違う生き物と化してしまった。


 人間が変化した生き物は複数あり、それが一体何種類だったのかは、正確にはわかってないけれど、数が多かったのは主に五種。

 一つがあのエイリアン。

 エイリアンって言葉は、元々は外国人や異国人って意味だったらしいけれど、後に宇宙人や異星人って意味でも使われるようになったらしい。

 ただあのエイリアンは地球の人間が、国を問わずに変化したものだから、言葉の意味とは関係のない呼称だ。

 なんでもあの姿によく似た怪物の出てくる映画があって、そのタイトルがエイリアンだったんだとか。


 二つ目は、生ける屍のような姿で、あらゆる生き物の肉を貪り食らうグール。

 三つ目は、樹皮に覆われ、根から栄養と水を吸い、陽光から酸素とエネルギーを生産する樹人、ウッド。

 四つ目は、金属の身体を、回路の神経や脳で動かす、機械人、マシンナーズ。

 五つ目は、かつての人間に最も近い姿をしているが、額、頭部に精神的な力を受信、発信する器官である角を生やし、超能力を操るサイキック。

 このうち、知性を有した知的生命体は、マシンナーズとサイキックのみとされている。


 どうしてこんな風な変化が起きたのか。

 人間という種が自らの限界を悟り、生き残るための進化の道を模索したのだとかいう説もあるけれど、本当のところはわからない。

 だが変化した人々は、まるで生存競争だと言わんばかりに同種以外と争って、その数を大きく減らしてしまう。

 そしてその時、変化をしなかった人間も、争いの対象となって、滅び去ったそうだ。


 サイキックだけは、変化をしなかった人間に対して攻撃を加えなかった。

 だから正当なる人間の後継は自分達だと言ってるけれど、それが真実かどうかは、今となっては不明である。

 私も、サイキックの一人だからこそわかるのだが、私達もそんなに立派な生き物じゃないから。



「……さて、と」

 エイリアンが掘り返してるあそこに目的の物があるとするなら、あの二体を排除する必要があるけれど、上手く不意を突けるだろうか。

 見た目からして、あのエイリアンは二体ともが斥候タイプだ。

 距離があるからまだ気付かれてはいないけれど、攻撃が届く距離まで近付けば、発見される可能性は高かった。

 斥候タイプの二体くらいなら、気付かれたところで排除が不可能って訳じゃないが……、万一仲間を呼ばれたりすると生き残れるかどうかが、少しばかり分の悪い賭けになってしまう。


 どうするべきかと頭を巡らせていると、ふと、別の方角からエイリアン達がいる場所に向かって、幾つもの蠢く姿を見付ける。

 あぁ、グールまで参戦か。

 エイリアン以外の種族まで噛んで来るとなると、本格的に探し物があの場所にある可能性は高い。

 尤もエイリアンもグールも、数は大した事がないし、大型や特殊タイプがいないから、探し物も量はたかが知れてるだろうけれども。


「ついてるんだか、ついてないんだか、わからないな」

 私は小さく呟いて、背嚢に双眼鏡を仕舞い込むと、代わりにスリングで肩に掛けていた杖砲を手に持った。

 もしも人間がこの杖砲を見れば、これを銃だと誤認するだろう。

 でもこの世界で銃の類を生産して扱うのは、マシンナーズのみである。


 サイキックは人間の後継を自認しているが、彼らの持っていた高度な技術の殆どは受け継げていなかった。

 遺跡を漁れば武器の類が見付かる事は皆無じゃないが、時間が経って劣化した銃器、特に火薬は、まともに使える物が殆ど残っていない。


 ただサイキックは、銃という武器が非常に強力だという知識を持っていて、それを真似る知恵もある。

 単に念動力で何かを動かしぶつけるよりも、筒を使ってエネルギーを集中させて打ち出す方が、威力も速さも正確性も高まると理解しているのだ。

 故にこの杖砲は、私のように外で活動するサイキックの一部が、愛用してる武器だった。


 これを使えば、グールに警戒心を向けたエイリアンなら、一度は不意打ちが可能だろう。

 残念ながら漁夫の利を狙うなんて真似はできない。

 恐らくエイリアンは、グールと交戦に入ると同時に仲間を呼ぶ。

 だが二匹が同時に救援要請を発する可能性は低い。

 救援要請が音波であれ精神波であれ、至近距離から二つ同時に発せられれば、ぶつかり合って狂いが生じるし、何よりも無駄だ。

 なのでその兆候を見逃さず、救援要請を発しようとした個体の急所を撃ち抜いて殺してしまえば、新たなエイリアンがやってくる事は防げる筈。


 後はすかさず、もう一体のエイリアンも殺して、更にグールに捕まらないように逃げ回りながら全滅させれば、生きて探し物が手に入る。

 うぅん、口で言うは容易いが、行動に移して成功させるのは、それなりに難しい。

 けれども、それでも私は、杖砲を構え、外套を翻し、距離を詰める為に潜伏していた廃墟から飛び降りた。


 ここにあるだろう探し物には、私の命を懸けるだけの価値があるから。


スタートです


よろしくお願いします


お気に召したらブクマや評価して下さると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おお、またも新作楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ