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エピソード27 思わぬ出会い

〈エピソード27 思わぬ出会い〉


 昼になると勇也たちは一旦、プールから上がることにする。


 雫はかなり疲れていたようなので、武弘が屋内にある休憩室まで連れて行った。面倒見の良いことだが勇也としてはちょっと複雑だ。


 一方、残された勇也とイリアはプールサイドにある売店を回って歩いていた。食べたい物がたくさんありすぎて、なかなか決められない。


 その上、勇也はどうしても安さを重視してしまうし、イリアは美味しさやボリュームを重視している節があるので、必然的に意見が対立してしまうのだ。


 なので、痴話喧嘩みたいなことをしながら歩いていると、その途中で思ってもみない人物と出会うことになる。


「やあ、久しぶりだな、二人とも」


 ビーチチェアにグラマラスな体を横たえていた、まごうことなき美女、ソフィアは優美な感じで声をかけてきた。


 これには勇也も一瞬、体が夏の暑さを忘れてしまうような冷たい緊張感に支配されるのを感じる。

 途端に焦眉の急のようなものが心に押し寄せてきた。


「ソフィアさんじゃないですか。ダーク・エイジの幹部であるあなたが、こんなところで何をしているんですか?」


 そう捲し立てる勇也だったが、すぐにソフィアの大胆すぎるパレオ型の水着に目が釘付けになる。


 すると、たちまち体の硬さが解けて、だらしなく頬が緩むのを感じたし、心の奥底にある熱い感情も込み上げてくる。


 この快感は抑えがたい。


 現にソフィアの煽情的な姿を見ていると、これほど女性の体を魅力的に感じさせる水着があったとは、と瞠目してしまうし。


 その上、彼女のプロポーションは抜群に良いし、それと比べたら、イリアや雫はまだ子供の域から脱してはいないと酷なことを言わざるを得ない。


 やっぱり、大人の色香に勝るものはないな。せいぜい惑わされないように気を付けないと、あっという間に身も心も骨抜きにされかねない。


「休暇だ、と言いたいところだが、実のところ君たちの監視をしているんだ。ま、この場所を楽しんでいることは否定しないがな」


 ソフィアは冗談なのか本気なのか判別できない態度で言った。


「でも、監視ですか?」


 その言葉には勇也も背筋に十万ボルトの電流が走ったかのようにゾクッとさせられる。


 今のところ、自分たちに対しては何のアクションも見せないが、ダーク・エイジの組織がイリアの監視を緩めることがないということはちゃんと心得ていたし。


 常に誰かに見られているという感覚は勇也の心に暗い影を落としていたが、肝心のイリアがそのことを気にする様子が全くないのだから困りものだ。


「ああ。羅刹神とエル・トーラーを打ち負かした件は私も知っている。随分と大立ち回りをしてくれたものだな」


 あの戦いはたくさんの人間が見ていたし、組織にその情報が行き渡るのは防ぎようがないか。


 それに、ソフィアは自分が早く釈放されるように警察に掛け合ってくれたらしいからな。顔こそ合わせられなかったが、その時は自分の身元引受人にもなってくれたらしいし。


 だからこそ、ソフィアには感謝をしているし、そのお礼は何かしらの形でしなければならないと思っていたのだ。


「やっぱり、あれはまずかったでしょうか?」


 野外広場の件では派手に動きすぎてしまった感はあるので、勇也も反省はしていたが、その反面、他に動きようがなかったことも理解していた。


 なので、隔靴掻痒とでも言うべき気持ちになる。


「そこら辺はなんとも言えないな。ただ、君たちに注がれている組織の目が今まで以上に厳しいものになったのは言うまでもない」


 ソフィアはたおやかな笑みをかき消すと打って変わった冷たい能面のような顔で言った。


「それはまずいですね。まあ、そういうことになるかもしれないと分かった上で取った行動ですから後悔はありませんが」


 勇也は自分の体から気持ちの悪い汗が吹き出てくるのを感じた。


 これ以上、組織の目を引きつければ、本当に普通の生活が送れなくなってしまう。平穏を守りたいなら、どんな窮状に陥ろうと、もう戦ってはいけない。


 自分の戦いには勲などないのだ。


 だが、神が簡単に生まれるこの町の状況を座視して良いものなのか、その辺は判断を付けかねていた。


「そうか。なら、私が非難できる部分はどこにもないな。ただ、これからはもう少し自分の行動を顧みて欲しい」


「ええ……」


 勇也は暗い顔で俯いてしまったが、ソフィアの声は上質な絹のようにサラサラとしていた。


「そんなに思い詰めた顔をするな。組織の目が厳しくなるなんて、遅いか早いかの違いだよ。だから、君も普通の人生を歩めるとは思わない方が良いぞ。組織はイリアだけでなく、君も組織に取り込みたいと思っているからな」


 ソフィアの言葉が脅しでも何でもないことは勇也にも分かっていた。


 伊達に何日もダーク・エイジのサイトの情報に齧りついていたわけではない。


 組織の意向がどのようなものかはある程度、把握しているし、組織にたて突くような真似をする気は今のところない。


「冗談じゃないですよ。人殺しも辞さないような組織に入ることなんてできません。俺は普通の人間なんですから」


 大学にだって行きたいし結婚だってしたい。いつ命を落としてもおかしくない危険と隣り合わせの組織に身を捧げるなんて生き方は承諾しかねる。


 が、ソフィアはそんな勇也の内心を汲み取ることなく舌鋒鋭く言葉を発する。


「普通の人間が羅刹神を打ち倒せるものか。私も部下が撮影していた映像で君の戦い振りを拝見したが、まさしく鬼神の如き強さだったぞ。私の上役であるゼルガウスト卿も君には、いたくご執心だ」


「あれは草薙の剣の力があったからで……」


 自分の功績でもないことを高く評価されても困る。


 あの時の勇也に合ったのは身の丈に合わない勇気だけだ。


 それは、いつかは自分の身を危うくさせる蛮勇に等しい。そして、蛮勇に身を任せれば死ぬと相場は決まっている。


「言い訳はしなくて良い。何を使おうと、戦う力があるなら組織は歓迎する。人殺しが嫌だと言うなら、殺さずに相手を屈服させる力を持てば良い」


 ソフィアは反駁を許さないような強い語調で言った。


「そんな無茶苦茶な」


 勇也も葛藤に苛まれながら頭を抱えたくなる。


 草薙の剣がなくなれば、自分は神はおろかそこらのチンピラにも歯が立たない程度の力しか持ち合わせていない。


 勇也も一生、草薙の剣の力に寄りかかる生き方をするつもりはなかった。


「とにかく、君たちが誰を相手に戦おうが止めやしないが、組織を敵に回すようなことだけはしてくれるなよ」


 ソフィアの声に利剣の刃のように研ぎ澄まされた鋭さが宿る。それが何かあれば例えソフィアであっても勇也たちの敵に回ることを如実に物語っていた。


「分かっています。俺も色々とお世話になったソフィアさんに刃を向けるような恩知らずな真似はしたくありませんから」


 これ以上、厄介事に首を突っ込むのは御免だし、もっと思慮のある行動を心掛けるようにしなければ。

 でないと、本当に足元から日常というものが瓦解しかねない。


「よろしい。それでは私はこのまま日光浴を楽しむことにするし、君たちは君たちで好きに遊びたまえ」


 そう悠々と言うと、ソフィアはビーチチェアの横にあるテーブルから、たくさんの氷が入ったアイスコーヒーの器を手に取る。

 そして、艶めかしい足を組み直してから、品のある動きでストローに口を付けた。


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