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エピソード18 羅刹組

〈エピソード18 羅刹組〉

           

 勇也とイリアはこの町でも悪名高い羅刹組の本部の前に来ていた。


 本部の建物は大きな武家屋敷のような外観をしていて、人間の背丈を軽く超える塀が建物をぐるりと囲んでいる。


 どんな討ち入りに対しても守りは鉄壁だと言わんばかりに。


 特に門の立派さはそこらの寺など目ではなく、鬼神を象った大きな木彫りの像が二体も立っている。


 それを見ていると鬼神の像の阿吽の呼吸が聞こえてきそうだ。


 本部の横手にある羅刹組の駐車場には黒塗りの高級車が何台も止められていて、塀の至るところには監視カメラのような物も取り付けられていた。


 それが昔気質の暴力団というイメージを薄めていて、より大きな禍々しさを感じさせる。


 まるで伏魔殿のようだし、普通ならこういう建物には極力、近づかないようにするのが賢明だろう。


 建物の主への狼藉など以ての外だ。


 ちなみに、羅刹とは主に悪鬼を意味する名前なので、本部の建物の様相はまさに悪鬼が根城とするには相応しい場所と言える。


 それだけに、羅刹組の本部が善良な一般市民の心を否応なしに震え上がらせているのも無理からぬことと言えた。


「羅刹組の長に話があるから、中に通してもらいたい」


 勇也は勇気を振り絞って、見る者を気圧さずにはいられない威容を誇る門の前に立つと見張りのような男にそう言った。


 まあ、こんな言い方で中に通してもらえるのは、相手が事務員の女性だった時だけだし、もう少し真摯な態度を取った方が良かったかもしれない。


 自分の態度が吉と出るか凶と出るかは風向き任せだな。


「何だ、このガキ! ここが何処だか分って言っているのか?」


 いかにもチンピラの下っ端というような風体をした頭の悪そうな男が、こちらを舐めたような口を利いてきた。


 これには勇也も腹の辺りがグツグツと煮えるのを感じる。誰を相手にしているのか思い知らせてやりたい。


「分かっている。俺たちは羅刹組と真理の探究者の抗争を止めに来たんだ。それ阻むならこういうことになるぞ」


 勇也の目配せを受けたイリアが掌から光の玉を放つと、門の中に立っていた鬼神の像がバラバラに弾け飛んだ。


 続けて、もう一体の鬼神の像も同じく光の玉で跡形もなく破壊する。


 やりすぎだとも思ったが、これくらいの派手なパフォーマンスをやらなければ、この手の人間とは話をするのもままならない。


 暴力を生業にするような人間たちには、やはり暴力のようなやり方で脅すのが一番なのだ。目には目を歯には歯をだ。


 一方、強気に出ていた男は鬼神の像の辿った末路を見て顔面が蒼白になる。


「ひ、ひぃー。お前ら羅刹神様と同じ力が使えるのか!」


 男は恐慌状態に陥ったような態度で言ったし、相手が強いと分かれば、たちまち慌てふためくのは見苦しさを通り越して哀れだ。


 勇也としてもこんな小物には用はない。


「そういうことだ。俺たちが本気になれば、この本部を木っ端みじんに吹き飛ばすのも簡単なんだぞ」


 勇也はここで引き下がったら負けだと思い、そう虚勢を張るように言った。


「そんなことを言われても、ここを通すわけにはいかねぇよ。そんなことをしたら、俺が羅刹神様に殺されちまう」


 男はヤマネコに襲われた野ネズミのようにか細く体を震わせたし、下っ端ではこの程度の度胸が関の山か。


「羅刹神っていうのはどんな奴なんだ?」


 それを聞かないことには始まらないと勇也は仕方なく矛を収めるような態度を取る。


 すると、男も自分の身を守りたいのか、隠し立てをする様子もなく口角泡を飛ばす勢いで語り始めた。


「とんでもなく怖い鬼の神様だよ。自分に逆らう奴は容赦なく、鉄でできたような棍棒で叩きのめすんだ」


 ということは羅刹神は羅刹組の人間の目には見えているということか。


 千里の眼鏡をかけなくてもその姿が見えるということは、肉体と霊体を行き来できるネコマタのようなタイプの神だな。


 これは厄介な力を持つ相手かもしれない。


「真理の探究者の信者を殺したのは羅刹神か?」


 勇也は確信に触れるように尋ねる。もし、そうだったら命のやり取りも辞さない覚悟で。


「そうだよ。あいつは元々、羅刹組の人間だったんだ。でも、どういう風の吹き回しか、突然、自分は真理の探究者の信者になるって言って、羅刹組を脱退しようとしたんだ。そしたら、羅刹神様が激怒して、そいつをこん棒で叩き潰して殺しちまったんだ」


 ニュースでも最初の被害者の遺体は原形を留めないほど損壊していたと言っていたし、真理の探究者のバッヂを胸に着けていたことも報道している。男の話は苦し紛れの嘘や出まかせの類ではない。


 勇也がはた迷惑な神もいたものだと思っていると男が更に言葉を続ける。


「羅刹組は単なる宗教法人じゃねぇし、昔からこの町の裏社会を良くも悪くも取り仕切ってきた組織なんだ。そこに真理の探究者とかいう奴らを初めとした外国の組織が割り込んできて、軋轢を生じさせていたんだよ」


 男の言葉にはのっぴきならぬ事情が含まれていた。


 生きていくには羅刹組も形振り構ってはいられないということが男の声からはよく伝わってくる。


 裏社会を生きる者たちは今も昔も必至だ。


「このままじゃ羅刹組の面目は丸潰れだ。そんな時、いきなり羅刹神様が顕現して、力を振るい始めたんだ。このヤクザには厳しいご時世に羅刹組が影響力を保っていられるのも、みんな羅刹神様のおかげなんだよ」


 だとしても、人を殺すのは駄目だろうと勇也は幾らか冷めた気持ちで男の捲し立てるような話に耳を傾ける。


「お前らだって羅刹組の人間が焼き殺されたのは知ってるだろ。あれは、真理の探究者の神の仕業なんだ。羅刹神様は大いにいきり立っているし、抗争はもう止めようがねぇよ」


 男は悄然とした態度で言ったし、これ以上の問答は意味がなさそうだ。


「話は分かった。そういうことなら、益々、羅刹神を放置するわけにはいかないな。事と次第によっては羅刹神は退治させてもらうぞ」


 真理の探究者の神はまだ判断が付かないが、少なくとも羅刹神の存在は一般人にとっては百害あって一利なしだ。


 野放しにしておけるような神じゃないし、最悪の場合は殺すことも念頭に入れて戦わなければならなくなるだろう。


 果たしてイリアと草薙の剣を持つ自分の力でどうにかなる相手なのか、不安は募るばかりだ。


「そうは言っても、俺の命にかけてこの門を潜らせるわけにはいかねぇ。どうしても羅刹神様に会いたければ、今日の夜の十二時にこの町の野外広場に行け。そこで羅刹神様と真理の探究者の神が一対一のタイマンを張ることになってる」


 そう言うと、男は許しを請うような態度で勇也たちに頭を下げた。



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