出会い#1
春、おぼろげな月に魅了されてベランダへ足を運ぶ。
午後9時のマンション20階からの景色は奇麗なもので、たまに見たくもなる。少しの間月を見ながら外の空気の匂いを堪能していると、隣のベランダの扉が開く音がした。
(そういえば昨日、引っ越し業者が入っていたな)
「いってきまーす!」と、若い女の声が響く。
(ん?いってきます?ベランダから?)
流石に気になり少しだけ隣のベランダを覗いてみることにした。少しだけだ。次の瞬間、目の前を白く大きな何かが通った。
「うわ!いてっ!!」
つい声が出て後ろに尻もちをついた。うまく受け身をとれたおかげで臀部への大きなダメージは免れたものの、開いた口が塞がらない。
思考がまとまらないまま呆気に取られていると、ベランダの外から声が聞こえてきた。
「すいませ~ん!まさか隣に人がいるとは思わなくて!大丈夫ですか??」
慌てているのか、少し声が高くなっているが先程と同じ声だ。
(おいおい、ここ20階だぞ)
1人の女がこちらを覗き込んでいる。
月の光を束ねたような金髪に長いまつげと大きな黒色の瞳。眉は細く、奇麗に整えられている。これこそ絶世の美女とでもいうのだろうか。いや、美女というよりは少女に近い。
しかし、整った容姿よりも目を引くものがそこにはあった。
「・・・羽?」
少女の背から羽が生えていたのだ。まるで神話に登場する天使のように。
「あ!わたしハーピーなんです!」
これが、天願 希人とエルシー・フォルトゥーナの初めての出会いであった。