【書籍化】皇太子と婚約したら余命が10年に縮み、婚約解消すると余命3年になる。詰んだ~私の余命60年を返して!~
気軽に読んでください
どういったわけか、残りの寿命が見える。
それは、まぁ生まれた時からなので全然いいのだけど、問題は……。
「これで婚約が成立した」
公爵令嬢長女の私と、皇太子殿下との婚約調印書に署名したその瞬間……。
「ひゃぁーーーっ!」
思わず、白目をむいてぶっ倒れた。
「シャリアーゼ、大丈夫か!」
お父様が慌てて駆け寄ってきた。
だ、大丈夫じゃないです……。
口から泡をぶくぶく吐かなかっただけでも偉いと思ってください。
私、皇太子と婚約したら、残りの寿命があと10年に減ってしまいました!
まだ、あと70年……80歳まで生きられるはずだったのに。
署名したとたんに、残り10年……20歳の若さでこの世を去ることになってしまいました……。
「なんだこいつ?病弱じゃねぇよな?だったら婚約破棄もんだぞ」
皇太子の声が聞こえてきます。
婚約破棄、是非ともお願いします!
「いえ、シャリアーゼはいたって健康でございます。きっと、皇太子殿下との婚約ということで緊張していたのでしょう」
ち、違うわ!お父様!そうじゃないの!
「そんなに俺と婚約できたことが嬉しいのか?そりゃそうか。王妃になれるんだもんな」
王妃になんてなりたいなんて一度も思ったことがない……それよりも……。
死にたくなぁぁぁい!
「お父様、やはり私に王妃など無理ですわ!婚約を解消してくださいまし!今ならまだ婚約発表もしておりませんし、そこまで大事にはなりませんでしょ?」
意識を取り戻してすぐ、お父様の執務室へと足を運んだ。
「大丈夫だよ。シャリアーゼは優秀だ。王妃教育も難なくこなすだろう。心配しなくても大丈夫」
お父様が私を安心させようと笑顔で抱きしめてくれた。
……いや、そう言うことじゃなくて。
「ち、違うんです、殿下と私、合わないと思うんです、だから、婚約は無理です!」
寿命が見えることは言えない。亡くなったお母様との約束だ。人は死を恐れる。人の死を予言するかのような行いは、悪魔だとか死神だとか言われて苦労するだろうと。
お父様も知らない話だ。……私自身の寿命と、触れている相手の寿命が見えることは。
「なるほど。シャリアーゼは殿下が好みじゃないということだな。……うむ……」
お父様がちょっと考える顔になった。
よし、もう一押しだ。
「どうしてか、その、殿下の近くに行くとぞわぞわとしてしまって……」
お父様が私の顔を見た。
「生理的に受け付けない……というやつか?」
こくこくと慌てて頷く。そうそう、そういうことにしよう。
「それで、あの、我慢していたのですが、倒れてしまって……」
本当は、寿命が減ってショックで気絶したんですけどね。
「なっ、なんということだ。シャリアーゼ……そこまで我慢させてしまったなんて……。分かった、殿下との婚約は解消するよう陛下にお願いしよう。何、病弱を理由にすれば問題にならないだろう。目の前で倒れたのだからな」
やった!これで、寿命が延びる!いや、元に戻るだけだけど!
自分の手を見ると、寿命が表示された。
3。
「ひえぇっ!」
どういうこと?10年だった寿命がさらに縮んで3年になっちゃったわ!
お父様が突然叫び声をあげた私の頭をなでる。
「大丈夫かい?」
お父様の残りの寿命も、40年あったはずなのに3年になってしまっている。
「ま、ま、ま、まってください、あの、お父様……婚約解消は……その、もしかしたら……」
どうしよう。
歯がガチガチと鳴ってかみ合わず、うまくしゃべれない。
「待つ?いや、これ以上シャリアーゼが辛い思いをすることはないんだよ?」
「いえ、もしかしたら、緊張してぞわぞわしてしまった……だけかもしれないので、しばらく様子を……その、陛下にはお試し期間ということで、えっと、発表や何やらを待っていただいて……あの……。会ううちにぞわぞわもなくなるかもしれませんし……」
お父様が首を傾げる。
「本当に、それで良いのかい?無理をすることはないんだよ?」
「大丈夫ですわ」
強張る顔で必死に笑顔を作る。
「わかった。シャリアーゼがそう言うのであれば、陛下に婚約お試し期間を1年設けてもらおう。まぁ、突然倒れてしまったので緊張で倒れるようでは王妃は務まらないだろうと。今後様子を見るのも必要だと言えば分かってもらえるだろうからな」
3の数字が10に戻った。
お父様の3の数字も40へと戻る。
「ありがとうございます。お父様」
よかった。
……って。
全然良くないわ!
70年の私の寿命が、たった10年になっちゃったのよ!
皇太子と婚約したことが理由だってはっきり分かってるから、婚約を解消すれば元に戻るかと思ったら。
婚約を解消すると寿命が3年にさらに縮むってどういうことよ!
うぐぐぅ。
部屋に戻り、どうしたらいいのか頭をひねる。
「お嬢様、大丈夫でございますか?まだ気分が悪いようでしたらお食事はこちらへ運びましょうか?」
侍女のメイシーが部屋に戻ったきりずっと難しい顔をして考え事をしている私に声をかけてきた。
「ねぇ、メイシー」
メイシーはお母様が一番信頼していた侍女だ。唯一私の寿命が見える秘密を知っている人物だ。私の10歳上。
■
「今日、皇太子殿下と婚約の書類を書いたでしょう?そのとたん私の寿命の残りが10年に縮んじゃったのよ」
「なっ、何ですって?お嬢様の寿命があと10年?」
「そう。婚約したのが原因だと思ったから、お父様に婚約はなかったことにしてもらおうと思ったの。でも、婚約を解消すると、どうもお父様も私も寿命があと3年になっちゃうのよ……」
ひっと、小さく息をのんでメイシーが口元を抑える。
「そんな……あと3年だなんて……」
今にも泣きそうなメイシーを慰める。
「ううん、婚約解消は取りあえず辞めたから、お父様の寿命はあと40年。私は相変わらずあと10年……」
ほっと息を吐きだしたメイシーがうんと頷いた。
「それで、考え事をしていたのですね。どうしたら寿命を元に戻せるかと。そうですね……。お嬢様とご主人様の寿命が同じ3年になったということは、同時に亡くなるのでしょうか?」
ん?同時に?
「例えば、馬車で移動中に事故に遭うとか……」
「なんで皇太子との婚約を解消したら事故であと3年の命になっちゃうのよ……」
そんなの理不尽すぎるわ。
「……ねぇ、3年過ぎて改めて婚約解消するとなったら、どうなるのかしら?」
「そう言えばそうですね……。起こるはずだった事故が回避できたあと、どうなるんでしょうね?」
メイシーが首を傾げた。
……3年すぎてから婚約解消してもらう……なんてできるのかな。
様子見は1年と言うことにしてしまった……。3年に引き延ばしてもらうか?
13歳か。殿下は一つ上の14歳。
まだまだ新しい婚約者を迎えるのに十分若いわよね。
原因不明、改善策見つからないまま、あっという間に1年が経った。
様子見を3年に引き延ばしてもらおうとしたら、寿命が縮んだ。諦めた。
病弱のふりをして、婚約解消をこちらからお願いせずに向こうからしてもらえないかとチャレンジしようとしたら、寿命が縮んだ。諦めた。
国外に逃亡しようとしたら、寿命が縮んだ。諦めた。
影武者でも用意しようかと思ったら寿命が縮んだ。諦めた。
「改めて問う。このまま皇太子の婚約者でいてくれるか?」
陛下に尋ねられた。
「別に問題ないだろ1年間、病気もしてねーんだし、王妃教育もちゃんとやれるんだろ?」
皇太子が私を見る。
「まぁ、他の貴族令嬢よりちょっとは見た目もいいし、婚約者はこいつでいいよ」
いや、私が問われているというのに、なぜ殿下が陛下に答えているのか。
断ろうと思って手を見ると、寿命が2と変化する。
このまま婚約者でいようと、気持ちを替えれば寿命は9に代わる。
2か9か……。そんなの9だよ。
でも、死にたくないよ……。20歳で死ぬなんて嫌だよ……。
■
この1年色々試したけれど、さらに寿命が縮むということしか見つからなかった。
……でも、残りの9年の間に、もとの寿命に戻ることが見つかるのかな?
いっそ、皇太子を殺す?
ああ、だめだ。物騒な発想になっちゃった。皇太子暗殺なんて、例え成功したって公爵家取り潰しのうえ処刑でしょ……。
いや、私が暗殺したとばれなければ……?
「はい、私でよろしければ、精一杯務めさせていただきます」
「そうかそうか。よかったな、アーノルド」
陛下が殿下に声をかける。
「ほら、そうと決まれば二人でお茶でもしてくるがいい。薔薇園に準備させてある」
殿下が手を差し出した。
エスコートしてくれるということだろう。
全然良くないけど、仕方がない。
泣きそうな気持で殿下の手を見つめる。
「なんだよ、俺と正式に婚約したってのに、不満があるのか?失礼なやつだな!婚約破棄するぞ」
殿下の言葉に、私の手に浮かんだ数字が69となった。
え?
思わず嬉しくて顔を上げる。
戻った。失われた60年の寿命が!!!
「なんだ、ちゃんと嬉しいって顔してるじゃん。そうだろ、俺と婚約できてうれしいんだろ」
アーノルド殿下は満足げに笑うと、私の手を取った。
あああ!また9だよ。やっぱり9年になっちゃった。
一方、アーノルド殿下の寿命は83年。くうっ自分だけぴんぴん長生きとか!
薔薇園にあるガゼボで、お茶を飲む。
アーノルド殿下は薔薇なんて全く見ずに、私の顔をやたらと見てきた。
「おい、今なんかちょっと迷惑そうな顔しなかったか?」
迷惑だよ。ずっと見られていたら食べにくいし。
「いえ、そんなことは……」
だけど、はっきり迷惑なんて言えるわけないよ!言えるなら、言いたい。
私の寿命はあんたのせいでめちゃくちゃ短くなったんだから、超迷惑!
そんな気持ちを隠して無理に微笑む。
「そだよな、俺とお茶して迷惑なんてわけないよなあぁ。ほら食べろよ。お前苺が好きなんだろ?」
え?
確かに苺は大好きですけど。
よくテーブルを見ると、苺を使ったお菓子のフルコースが乗っている。
「ち、ちげーし。俺は、苺なんて女が食べるようなもん食いたくねぇし!」
殿下がプイっと横を向いてしまった。
イチゴが女が食べるようなもん?
いや、お父様も苺は大好きですけどね?
テーブル中央に置かれた5段のケーキスタンドには、一番下の段には苺。2段目には苺のタルト。3段目には生クリームたっぷりの苺のケーキ。4段目には苺ソースのかかったクッキー。5段目には苺のムースが載せられている。
■
寿命のことばかり考えて落ち込んでばかりいたら損だもの。
王宮のパティシエが作ったお菓子たちがまずいわけない。
何を食べようかなぁ。
苺は、最後に口の中をスッキリさせるために食べたい。
ケーキは一番初めに食べてお腹がいっぱいになっちゃうと他のが食べられなくなるから後にしよう。
そうだ、まずは、ムース。苺のムースにしよう。
ケーキスタンドの一番上に載っているムースの入った器に手を伸ばす。
普段であれば侍女や侍従といった者が望みのものを皿に取り分けてくれるけれど、2人きりにされているため自分で取る必要がある。
5段もあると座ったままでは手が届かず、腰を浮かせて手を伸ばす。
つんっと、指先が殿下の手に触れた。
「え?」
驚きに目を見開く。
「こ、これは、俺が先に取ったんだっ!」
私が手に取ろうとしたカップに、殿下も同時に手を伸ばしたようだ。
殿下がつかもうとしたカップを両手でつかむ。
「なんだよ、俺が先だって言ってるじゃないかっ!だ、だが、そこまでしてほしいのならお前に譲ってやるよっ!」
ほっとして、カップを自分の皿に置く。
だけど、ちょっと待って!
殿下がもう一つの苺ムースのカップに手を伸ばした。慌てて私を手を伸ばすと、殿下がカップをつかんだ手に触れる。
「ああ?なんだよ、ムースがそんなに好きなのか?だけど、全部ひとり占めはないだろうっ!」
やっぱり、やっぱりだ。
見間違いじゃない。
83年もあったはずの殿下の寿命が0年。
0年ってことは1年も生きられないってことだ……。
すぐ死ぬ……。
ムースを手にしたとたんに寿命が0年に……。
試しにスプーンを手に取り殿下がつかんでいるカップの中からムースを一すくい取って口に運んでみる。口に入れる寸前、私の手の9の数字も0になった。
「いくら正式な婚約者になったからって、不敬だぞっ!いつだって婚約破棄してやれるんだからなっ」
スプーンを投げ捨て、殿下が自分の皿にカップを置こうとするのを奪うふりをして、テーブルの上に身を乗り出す。
そして、ケーキスタンドをわざとひっくり返す。
ガシャーンと耳障りな大きな音を立ててスタンドが倒れ、テーブルの上にお菓子が散らばる。
あたりに甘い苺の香りが広がった。
「なっ、何してっ」
殿下が驚いて目を見開いている。
「も、申し訳ございませんっ」
慌てて殿下の元へとテーブルを回って近づく。
そして、周りの者には聞こえない声で、謝罪しているふりをしてつぶやいた。
「殿下、騒がないでくださいまし。毒が仕込まれています」
「はぁ?」
「このまま片付けられてしまえば、証拠を隠滅させられるかもしれません。信用置ける者を呼んでください」
「ど……毒……?」
少し離れて控えていた侍女たちや護衛たちがガゼボに駆け寄ってきた。
「まぁ、大変ですわ。すぐに新しいものを用意いたします」
「場所を替えましょうか」
「お怪我はございませんか?お召し物は大丈夫でしょうか」
何人もの使用人たちが入れ替わり立ち代わり声をかけてくる。
全部で10人近くの人間がいる。
「問題ない、お前たちは立ち去れ!」
殿下が声を張り上げた。
「で、ですが……」
「シャリアーゼは、僕と一緒だと緊張してしまうようだからな。どうやら今回もそれが原因らしい」
1年前に、緊張して意識を失ったという話を殿下は信じているらしい。
ある程度周りの者にも伝わっているのだろう。殿下の言葉に、使用人たちはなるほどと納得したようだ。
「僕に慣れてもらわなければ困る。ここはいい、お前たちは控えていろ。ジェフだけ残れ」
殿下が皆を下がらせた。
テーブルの上に散乱したお菓子たちはそのままになって……は、ない。
「殿下、ありません、ムースのカップが……」
小さな声で殿下に伝えると、殿下もテーブルの上を確認する。
「ちっ、持ち去られたか。だが、やましいことが無ければ持ち去る必要もない。何かが仕込まれていたことは確かなようだ」
殿下の側近のジェフが現れる。
私が11歳、殿下12歳。ジェフは27歳だ。下の者が育てば側近は卒業。殿下が王位についた時に宰相などの重要ポストに就くと思われる有能な人物。
「ジェフ、準備された菓子に毒が入っていた」
殿下の言葉にジェフがすぐに言葉を返す。
「毒ですか?いったいどこにその毒が?」
ん?
ちょっと、おかしな発言?
毒の在処よりも、まずは殿下の身を案じるのではない?ぴんぴんしてるから平気だと思ってる?
それとも殿下のことが嫌い?
もしくは……。
うーん、怪しい。
もしかして、犯人の仲間?
「なんだよ、嘘じゃねぇって。だいたい言いだしたのは俺じゃねぇし」
「……本当なんですね?苺が食べたくないから毒だって言っているわけじゃないんですね?」
え?
まさか……殿下、嫌いな食べ物が出てきたら毒が入ってるとか言って残してたり……の、前科持ち?
それでジェフがそんな態度を……。
「シャリアーゼ様、毒……とは?お体に問題はございませんか?」
ジェフが慌てて私に礼を取った。
「え、ええ。ムースの香りがおかしかったんですわ。苺のムースにはありえない香り……毒物の勉強をしたときに嗅いだような臭いがしたため、もしかしたら毒が混入されているのではと……。騒ぎ立てて申し訳ありません」
ジェフが息を吐きだした。
■
「そうでしたか。ご無事で何よりでした。ですが、毒見はさせておりますし……香りは勘違いではございませんか?念のためお菓子とお茶を調べさせましょう」
ジェフの言葉に素直に頷く。そして、ジェフと殿下の視線がそれた瞬間に、床に落ちたスプーンと、スプーンからこぼれ落ちたムースをハンカチに来るんでスカートの中に隠した。
犯人はムースのカップを持ち去っているが、スプーンですくった分までは持ち去ることができなかったようだ。
これを、後で調べてもらおう。……うちの、公爵家ほうで。
ジェフは気のせいじゃないかと言っていたけれど……。
私が毒だと思ったのは本当は臭いが理由じゃない。
寿命が見えたからだ。もしかすると毒以外の死因だった可能性もある。あのままムースを食べていたら、矢が飛んできたとか……。
いや……でも、考えられる可能性は……。
やっぱりムースに毒が入っていたんだろうな。私の寿命も、食べようとしたら0になったし。
私の寿命と言えば……、あの騒動ですっかり忘れていたけれど、一瞬寿命が戻ったタイミングがあった。
あっという間に元に戻ったけれど、あれはいったい何がきっかけだったんだろう?
その前後のことを思い出す……。
ダメだ、思い出せない。毒のことが衝撃的過ぎて何があったっけ?ただ手を取られて移動中……の?いや、手を取られる前?
ガゼボにつく前だったよね?えーっと……。
ああ、もう!分からない!
でも、殿下といて何かをしていると、そう言うことが起きるのであれば、その状態をキープすることができればいいわけだ。
うん、希望が見えてきた!
「お父様、結果が出たそうですね」
「ああ、やはりムースに毒が入っていたよ。それも、一口で死に至るような強い毒だ」
お父様が私を抱きしめる。
「シャリアーゼが狙われたのだろう」
そうだろうか。
「殿下はあまり苺が好きではないと聞いている。一口も食べなかった可能性もある。そんなものに毒は入れないだろう」
お父様の主張ももっともだ。
逆に私は苺が好物だ。どれも一口ずつは食べるだろうと思ったのだろう。
……いったい、誰が毒を?
そして、何故私に毒を?
「どう考えても、シャリアーゼが皇太子妃になることが気に入らない勢力の仕業だろうな……」
そうだろうか。
……。
■
「でも、今回は殿下が口に入れることを防ぐことが出来ましたけれど、いくら苺が嫌いだからと言っても口にする可能性がゼロではありませんし……下手したら皇太子殿下までなくなっていたかもしれないですよ?」
私が皇太子妃になるのが気に入らないというのが動機だったとしても、私を排除しようとして皇太子を排除しちゃったら本末転倒じゃない?私の代わりに誰か皇太子妃になりたいからの犯行だとしたら……私が一人の時に狙った方がいいわよね?
「……確かに、シャリアーゼの言う通りだな……。どちらが死んでも得する人間の犯行ということか……?」
そんな人いる?
快楽殺人犯?
「王家であれば小さなころから毒に慣らされている。解毒薬も準備されているだろうから……二人とも食べたとしても殿下は生き残るとでも思っていたか……?」
「でも、お父様、ムース食べようとした殿下の……」
慌てて口をふさぐ。
ダメだ。お父様も寿命が見えることは知らないんだ。
ムースを食べようとした殿下の寿命が確かに0年になったのを見たなんて言えない。
うーん。頭を抱えた私を慰めるようにお父様が口を開く。
「……今回の騒動後何人か王宮で不審な死を遂げた使用人がいる。背後にいる人物にたどり着くのは難しい。もしかしたら、また別の方法で狙われるかもしれないからね、しばらくは慎重に行動した方がいいだろう。陛下もそのあたりは承知している。王宮で出されたものを口にしなかったとしても不敬とは言われないから安心しなさい」
お父様の中では私が命を狙われているというのはほぼ確定なのかな?
王宮で再び殿下との顔合わせ……お茶会があり呼ばれた。
婚約したら月に1回は親睦を深めるために会うことになっていたが、毒事件もあり、3カ月後となった。
「殿下、すでに聞いていらっしゃいますか?」
今回は、お茶会といいつつお茶もお菓子も出ていない。
そして、護衛しやすいという理由から、王宮の一室だ。部屋のドアの前、窓の外に、騎士がずらりと並んで物々しい。
部屋の中にも侍女や騎士が壁際に通常より多く並んでいる。
「何をだ?」
ポケットの中からハンカチを取り出して開いて見せる。
スプーンと、すでにカラカラになって小さく縮んだ苺のムースだったものが姿を現す。
「なんだ、これ」
声を潜めて殿下に話かける。
私と殿下は一つのソファに隣り合って腰かけているため、心持ち体を殿下に寄せる。
「このあいだの、苺のムースです。器はいつの間にか誰かに持ち去られてしまいましたが、私がスプーンですくって放り出したものはそのままでしたので、拾って鑑定させました」
私が毒の名前を口にすると、殿下が驚き立ち上がる。
■
「まじかっ、そんなの食べたら死ぬじゃねーか!」
ちょっ、せっかく声を潜めてるのにぃ。
っていうか、お父様は陛下に伝えてない?それとも陛下が殿下に伝えてない?
「……えーっと、殿下は毒には慣らされて多少は耐性があるのでは?」
と、声を潜めて聞く。
「いや、耐性がある物もあるけど、ないのもある」
「……それは、どうしてですか?」
殿下が私が声を潜めていることに気が付いたのか、ソファに腰を下ろして同じように声を潜めた。
「そりゃ、毒なんて何十種類もあるんだから、少しずつ接種して耐性をつけるつっても、限界があるだろ。その毒は耐性のないやつだ」
え?
毒に種類があるのは分かる。
殿下が食べるかもしれないお菓子に毒を入れたのは、私を殺害するためで、誤って殿下が口にしたとしても耐性があるから問題ない説……が、これで消えた?
いや、そのつもりだったのに、耐性がある毒を使ってしまった?
それとも……。
「殿下、ムースに毒を入れた目的は何だったと思いますか?」
「そんなの、暗殺だろ、この俺様を殺そうとしたんだ。間違いないさ」
殿下が自信満々に答えた。
「いえ、でも……私が先に食べていれば、私が死んで殿下は無事だったんじゃないですか?そんな運任せな計画を立てるでしょうか?」
殿下が首を傾げた。
「運任せじゃないだろ?俺に耐性の無い毒を使って、俺が苺関係で唯一嫌がらずに食べるムースに仕込んであったんだ」
殿下の言葉にに今度は私が首を傾げた。
「殿下、耐性のある毒とない毒がある話は、みんな知ってるのですか?」
「馬鹿だな、どの毒が効いて、どの毒が効かないなんて知られてたら、意味ないだろう。効く毒を使うに決まってるじゃねーか。ちょっと、考えろよ」
……。
かくしてる情報ならやっぱり殿下にも効くかどうかわからない毒を選んだのは運任せってことになるよ?言ってることに矛盾があるよ?
殿下……。
「えーと、苺のムースは食べるというのは有名な話ですか?」
「いや。この前のお茶会の前に、俺でも食べられる苺のお菓子を料理長に考えてもらった」
「なるほど」
……と、いうことは、殿下が苺のお菓子が並べられている時に、ムースに手を伸ばすということはほぼ知られてなかったと思っていいってこと……かな?
殿下がどの毒に耐性があるのかは知られていない。
殿下が苺のムースに手を伸ばすだろうことも知られていない。
……と、すると……。苺のムースに毒を仕込んだ狙いは……。
「やっぱり私が狙い……」
■
「ちっ、違うからな!べ、別にシャリアーゼに好かれたいからと狙ったわけではっ」
私の呟きに、殿下が顔を真っ赤にして慌てて否定の言葉を口にした。
ん?好かれたいと狙った?
毒を入れられたわ、好き!とはならないと思うんだけど??
まぁいいや。とにかく話の言葉を折られてしまったけれど……。
「殿下、私の命を狙った可能性もありますが……」
「あ、命?え?ああ、そっち、そっちの話か」
そっちの話って、ずっと毒の話しかしてないですよね?
どっちの話が他にあると……?
「私が狙いの可能性……を考えると、婚約者が私になったことを不満に思う勢力の仕業だと思うんです」
殿下がはぁと口を開く。
「シャリーアゼに不満?何が不満だ。賢いし綺麗だじゃんっ」
ん?
なんか唐突に褒められて、びっくりして顔が赤くなる。
それを見て、殿下が慌てた。
「って、周りのやつが言ってただけだからなっ、シャリアーゼは賢いって。き、綺麗なのは、まぁ……み、認めるけど」
綺麗なのかな?そう言われることは多いけれど、他の子たちも綺麗だし可愛いよね。
それに……。
「殿下の方が、美しいです」
日に透けてキラキラ光る細くてサラサラの金色の髪。
エメラルドよりも輝く翠の瞳。髪よりも少し濃い色のまつげは長く、瞬きするたびに光を反射しているようだ。
そばかす一つない肌。数え上げたらきりがない。
「うっ、美しいとか言うなっ!」
あれ?褒めたのに、怒られた。
「どうして、ですか?」
「お、女みたいだって、叔父上が……王子というよりは姫だなって」
は?
いや、まぁ、確かに女の子見たいだけど、それって、まだ12歳なんだから男の子が男の子らしく成長するのって、これからじゃないのかな?
子供に向かって、姫とか、からかうにしても酷いな。
叔父上ということは王弟のことだよね。確か、今年26か27だったはず。
言われた記憶があるのだから、ずっと昔の5歳の時だったとしても、18,9歳前後だったわけだよね。
十分大人だよ。言っていいことと悪いことが分かる……。まぁ、本当に可愛かった女の子みたいで、悪気はなかった可能性があるけれど。
現状、女の子みたいだと言われることを殿下はとても嫌っている。それを知りながら、もし今も口にしているとしたら嫌がらせだよね。
まぁ、26歳の大人が、12歳の子供にそんな些細な嫌がらせをするとは考えにくいけれども……。
■
「でも、陛下のことも美しいと私は言いますよ?美しいと思いませんか?」
殿下はお母様ではなくお父様に似だ。
殿下が成長して大人になったら、きっとあんな感じと思わせる容姿。姫には見えないちゃんと男の人だ。
そして、男だけど美しいという単語が似合う。
「ち、父上が美しい?」
殿下がちょっと考えている。
「確かに。そうか、美しいとは男にも使う誉め言葉なのか!」
納得したようだ。
「そうです。別に女みたいという意味じゃないですよ?」
殿下がニコニコ顔になった。
「そうか、そうだったのか。父上と同じように俺は美しいって言われているだけか」
自分で俺は美しいとか言い続けられるのも、なんだかちょっとばかり残念な感じなので、話題を変えることにする。
「話を戻しますね、殿下。私の命が狙われた可能性もありますが、もし殿下の命を狙ったのだとすると……」
殿下が表情を引き締めた。
「……俺に効く毒の種類や、俺がムースなら食べるということを知っていたってことか……」
こくんと頷く。
「事情に詳しい内部の人間の犯行か、内部の人間に協力者がいるか……ってことだな?」
もう一度頷いて見せる。
もしそうだとすると大変な話だ。
だって……周りを固める信用できる人間に裏切り者がいるということになる。
「その可能性も無くはないと思います……。ただ、殿下が狙われたのか、私を狙って偶然毒の種類やムースを選んだだけという可能性もまだ捨てきれません」
殿下が苦々しい顔をした。
「俺のせいで、シャリアーゼが狙われるのか。婚約破棄したいか?」
殿下が尋ねてきた。
婚約破棄をする?私から?
まぁ、命の危険があるので怖いから辞めたいというのは正当な理由になるだろう。
婚約破棄すると……。
私の寿命は……69年……。あ、戻る。
やった!
これはぜひとも婚約破棄の方向で。
と、待って、まだお父様の寿命がどうなるのか確かめてからじゃないと、即答なんてできない。
あ……!殿下の寿命が1年になった。
え?私から婚約破棄すると、殿下の寿命は1年になるの?
どうして?私が寿命を見ることで事前に危険を回避することが出来なくなるから?
……。
「こ、婚約破棄は……」
したい。
だって、死にたくない。
でも、でも……。
だからって、殿下が死ねばいいなんて思わない。
ぐっと奥歯を噛みしめる。
「殿下……私から婚約破棄も婚約解消もいたしません……」
私の寿命が10年になった。
ん?んん?
「本当か?」
殿下が不安そうな顔をする。
「え、ええ」
寿命が11年になる。
「お、俺と婚約するのは……仕方がなくじゃないのか?」
仕方がなくです。
寿命が3年に縮むよりはマシだと思って、仕方なくです。
思わず目が泳ぐ。
「……やっぱり義務だからか」
殿下がしょぼくれたとたんに寿命が9年に戻った。
うひゃー。どういうこと、何が正解なの?
■
「殿下!これだけは信用してください!」
とにかく、寿命が延びたり縮んだりすることは分かった。殿下とのかかわり方一つで変化するのだろう。
だったら、20歳で死んでしまうまでに、寿命を戻す方法が見つかる可能性がある。
「私は、自分の命が尽きようとも、殿下のお命を守ります」
殿下がびっくりした顔をしている。
そりゃそうだろう。騎士でもないのに何を言ってるんだと。
でも、確かに私は、私から婚約破棄をする選択を放棄した。
残り余命……寿命が見えるから分かることなんだけど……。
人の命を犠牲にして自分だけが生きていくなんてできない。
それはたとえ殿下でなくとも、だ。
それから、殿下と会うときは必ず1回は寿命チェックを始めた。
つまり、殿下のどこかに必ず1回は触れるようにしたのだ。
初めは殿下はびっくりしていたけれど、毒のことやなんかでひそひそ話すことが多いので慣れたようだ。
いつからか、殿下の方から、私の肩を抱いたり、腰に手を回したりするようになった。
いや、そこまで密着しなくてもいいんですけど……!
私の方は全然慣れなくて、密着されるたびに心臓が跳ね上がりそうになる。
寿命が極端に短くなっているときには、殿下とじっくり話し合う。
「殿下、何か変わったことはありませんか?いつもと違う……その、例えば食事の種類や味が変わったとか」
殿下が自慢げな顔をする。
「シャリアーゼ、お前さ、そんなに俺のこと気になるのか?」
そうじゃないよっ!寿命が1年になってるから、今度は遅延性の毒でも飲まされているのかと思ったんだよっ!
「いいだろう、教えてやる。……最近はたくさん野菜を食べるようになった!」
ドヤ顔する殿下。
野菜?
「えーっと、もしかして、ピーマンとかですか?」
「い、いや、ピーマンは食べない」
殿下の目が泳ぎ始めた。
「……そうなんですか?ピーマンは苦手ですか?私もちょっと嫌いです……。でも、せっかくシェフが味のバランスを考えてピーマンも使ってくださっているので、我慢して食べてるんです……」
「シャリアーゼもピーマンが嫌いなのか!一緒だな!」
なぜか殿下が嬉しそうな顔を見せる。
仲間を見つけた気持ちなんでしょうか?
だいたいの子供はピーマンはあまり好きじゃないと思いますけど……。
いえ、もしかすると、ピーマンは貴族以外はあまり食べないかもしれませんね。同じ栽培するなら美味しい野菜を!もっと中身が詰まった野菜を!ってなりますよね……?贅沢品?
「だが、そうか……シャリアーゼは我慢してるのか……」
殿下がちょいと下を向く。
「殿下……もしかしたら遅延性の毒が食事に入れられている可能性はないですか?その、野菜を食べるようになったということは、今まであまり食べてないものを食べ始めたということですよね。味が違っても気が付かないのでは?」
もしピーマンのように苦みがある野菜を食べていたら、苦みのある毒が入れられていても気が付かないだろうし。
「あ……なるほど。そう言われればそうかもしれないな。毒見係がいたって、遅延性の毒なら……気が付かないな……確かに……」
殿下が考え込むような顔をする。
「実は、まだ犯人は見つかっていない。城の内情に詳しい、近しい者が裏にいるとは思っているが……。見つけられないままだ」
……1年の寿命……。
「どうでしょう、いったい城を離れますか?近しい者と離れますか?」
殿下の手を握る。
殿下が、しっかり私の手を握り返す。
「しばらく、公爵領の別荘でも一緒に行きませんか?」
提案すると、殿下の寿命の1年が元にもどった。
私の寿命は相変わらずだ。……だが、減りはしないので、問題ない話なのだろう。
「シャリアーゼと一緒に?」
「ええ、もちろん公爵領にお招きするのに、私がいないとオカシイですよね?」
というか、そもそも皇太子殿下が城を長期に理由もなく離れることが変だよね。
「シャリアーゼは、俺とそんなに一緒にいたいのか?だ、だったら一緒に行ってやらないこともない」
いや、別に一緒にいたいわけじゃないけど。話を曲解してません?
「殿下をお守りするためです……」
まだ殿下の寿命がのこり1のままだ。これでは守れない。
「殿下、父とも相談して影武者を立てましょう。殿下は体調を崩して部屋で静養していることにして、少数の限られた人間以外別荘へ行くことは秘密にするのです」
「……影武者が俺の代わりに毒入りの食べ物を食べたら危険だぞ?俺ならある程度慣れてるが、影武者は毒への耐性がないだろう」
おや。
王家の人間に仕える者は命がけで守るのは当然だろうとか思わないんだ。
「大丈夫ですよ。病気療養中ということで、限られた人間だけが出入りできるように制限するのですから。食事も食べたふりして公爵家に持ち帰り毒の混入がないかチェックさせればいいのです」
「お、おお、なるほど。ということは入室できる人間を厳選しなければならないということだな」
「そうですね。王宮から誰かが情報を漏らしているとすれば……。少なければ少ないほどいいでしょう」
「うん、分かった」
殿下の寿命が戻った。
お、おお。
やはり遅延性の毒が食事に入っていて、それを回避することができれば死ぬことはないってことだ。
■
と、思っていた時もありました。
「作戦結構まであと1週間ですね。影武者に会いましたが、近くで見なければ見分けがつかないくらいすごい子でしたよ。いえ、子じゃなくて本当は女の人なんですけどね……」
そこまで言って、はっとする。確か女みたいだと言われて前回いじけてしまったんだった。
慌てて言葉を続ける。
「あ、別に殿下が女みたいだから女の影武者じゃないですよ。大人の方が上手くやれるから大人の影武者を立てようとしのだけれど、どうしても12歳の殿下の影武者を大人の男性が演じるのが体系的に難しいので……えーっと、女性とはいえ、大人で、本来は子供の影武者は難しいのですが、殿下12歳の年齢にしては、身長も高く立派なので大人の女性でも務めることができるんです」
殿下がふんっと鼻息を出す。
「俺は、身長が高く立派か」
「え、ええ。私と1歳しか変わりませんが、私より頭半分くらい背が高くてとても男らしいですわ」
どこに殿下の地雷があるか分からなくてわざとらしいくらいに褒めておく。
「うん、そうか、そうか。俺は男らしいと、シャリアーゼは思うんだな?」
……いえ、ドレスを着たら美しい女性に見えると思ってますけど。それは流石に言わないでおこう。
「ほら、殿下と並ぶと、ちょうどダンスを踊るにはお似合いの身長差ですわ」
殿下に手を伸ばせば、自然とエスコートするように立ち上がる。
「はは、そうか、俺とダンスを踊りたいのか!」
ん?
私の寿命が13年に伸びた。この微増はなんだろう。
「ふふ、では、別荘へ着きましたらダンスの練習でも致しましょう。なるべく屋敷の中に籠って危険を回避しませんと行けませんので」
「そうか、そんなに俺とダンスが踊りたいのか」
だから、そうじゃないけども。
「そうだ、影武者と入れ替わることは父上と母上はしている。後、誰に知らせるのか相談したいのだが」
殿下が1枚の紙を持ってきて私に見せる。
10名ほどの名前が書いてある。
「側近の出入りが突然止まると怪しまれると思うんだ、だから側近には話をしておくべきだと思う。身の回りの世話をする侍女が一人も出入りしないのも不自然だから、乳母に頼むつもりだ。それから乳母の娘。あとは、病で臥せっているという設定であれば、見舞いにと叔父が来るだろうから叔父。それから、流石に護衛も無しと言うわけにはいかないだろから、最低限の護衛。これで決定でいいだろう?」
リストの書かれた紙を手渡されるときに指先が触れる。
ドキンっ。
心臓が跳ね上がった。
どうして!
殿下の寿命が0に。そして、私の寿命が1に縮んでいる。
「おい、どうした?」
冷や汗が全身から噴き出した。
これ……は。
思わず意識を失った。
突然意識を失った私を、お父様が迎えに来た。
公爵家に着く頃には、意識を取り戻していたけれど、とても心配そうなお父様の顔。
「いったい何があったんだ?」
「なんでもありません……その、ちょっと最近夜遅くまで本を読んでいて寝不足だったのですわ……。心配をおかけして申し訳ありません」
頭を下げてお父様の前を辞する。
……真っ青な顔をした私。寝不足のわけがないと気が付いているだろう。
だけれど、お父様は何も言わなかった。
部屋に戻ると、メイシーに倒れる前に見た寿命の話をした。
「……それは、リストに書かれた者に、犯人がいるか内通者がいるということではありませんか?公爵家の別荘で殿下が殺害されると……。そして、その犯人として別荘行きを誘ったお嬢様が仕立て上げられて処刑されると……」
メイシーの推測に、そうかもしれないと。
本来であれば、殿下の婚約者である、次期王妃と約束された私が殿下を殺害する理由が全くない。
だけれど、寿命が見えるのだ。突然殿下が0、私が1となった理由はさほど多くはないだろう。二人とも0なら同じ時に一緒に殺されちゃうという可能性もあるだろうけれど……。
ああ、そうだ。
お父様の寿命はどうなのだろう。私だけでなくお父様も一蓮托生じゃないかな。
ううん、そんなことはどうでもいい。それよりも……。
「そうよね、リストの人間が怪しいわよね……」
「でしたら、偽の情報を流してもらえばいいのではないですか?公爵家の別荘に行ったことにして、あっちにも影武者を置いて罠を張ればどうですか?」
なるほど。それ、いいわね。
「あ……!戻った。13年に戻ったわ!ちょっとお父様に伝えてくるっ!」
それから……。
犯人が見つかった。
王弟……殿下の叔父が黒幕だと分かった。身内の犯行だと知り、陛下も殿下も落ち込みが酷かった。
「……殿下が無事でよかったです」
それで、私も無事だったわけだし。
さすがにあと1年と見た時は生きた心地がしなかった。
「俺が無事で……シャリアーゼは嬉しいのか?」
「当たり前ですっ」
そりゃ、そりゃあね、自分の身も大事だよ?でも、殿下が無事だったこともホッとしているんだよ。間違いない。
「そ、そうか……俺も……俺もさ、生きててよかった。シャリアーゼと結婚する前に死ななくて良かった」
はい?
結婚?
あれ?寿命が14年に伸びた。なんでしょう。この微増。
このまま殿下といれば微増してなんとかなる?……のかな?
でも、もとの残り70年にはまだほど遠い……。
はぁー。
それから数年がたち、15歳になった。
貴族の子息令嬢が通う学園へ入学。
同学年に、とても可愛らしい男爵令嬢が入学してきた。
「あ……」
彼女が殿下と学園で親し気に会話をしている姿を見かけるようになる。
不思議なことに、殿下と婚約したときに見えた数字……今は5に減った20歳までしか生きられない数字が時々現れる。
微増し続けやっと27年まで増えた寿命が……5の数字と点滅していることもある。
男爵令嬢と殿下が親し気にしていればしているほど……。
「どうかされましたか?」
殿下の側近候補である侯爵令息が時々声をかけてくれるよになった。
「殿下は、あなたと言う婚約者がいながら、あのような者と親しくするなど……」
私の身を案じるような言葉を侯爵令息は口にする。
「辛くはないですか?」
寿命が点滅する。27、5,27,5,26,5,25,5,24,5……。
え?なぜ?
数字に気を取られていたら、背後から声が聞こえてきた。
「シャリアーゼ、ここにいたのか」
殿下の声だ。
殿下の腕が伸びて私の肩を引き寄せる。
殿下の寿命を見るために、何度も接触していたはずなのに、殿下から接触されるとドキドキしてしまう。
そして、いつものように殿下の寿命を見る。
ああ、大丈夫。今日も変わりなく長生きできる。
ほっとすると笑みがこぼれる。
「シャリアーゼ、その顔は俺にだけ向けろよ」
その顔?
ええ、もちろん。不用意に他の人の寿命を見てホッとしたりショックを受けたりなんてしませんけど?
「殿下が特別です」
国王となる大事な体だ。もし皇太子である殿下に何かあれば、王位継承権2位だった王弟が幽閉されている今、継承権問題でもめるのあ間違いない。国が荒れるなんてまっぴらだ。
「そうか、俺は特別か」
殿下はそれだけ言うと、さっさと立ち去ってしまった。
振り返ると、すでに侯爵令息の姿もなかった。
そして、寿命は30年に増えている。
「……なんだか、忙しく変化するわね。学園に入ってからというもの……」
関わる人間が増えたからだろうか。
殿下の方は実に安定しているというのに。
それから時は過ぎ、殿下が学園を卒業する時が来た。
卒業パーティーの場に、殿下にエスコートされ入場しようと会場入り口まで歩いて行くと、入り口前に男爵令嬢の姿があった。
1年の時に殿下とやけに親し気にしていた彼女……ララは、2年生では優秀な成績が買われて生徒会役員の一人になった。
それからはますます殿下と一緒にいる場面を良く見ていたけれど……。
卒業パーティーの主催は学園だ。生徒会は関係ないはず。
なぜ、彼女がここに?
ちかちかと寿命がまた点滅している。
「どうかされましたか、ララさん。男爵令嬢のあなたは、すでに入場して会場で待っているはずではありませんこと?」
学園でも身分の上下は影響する。
舞踏会と同様卒業パーティーの入場は、爵位の低い者からと暗黙の了解で決まっているのだ。つまり、男爵令嬢であるララさんは一番最初。
殿下は一番最後。
「アーノルド様にエスコートされれば、私も一番最後に入場することになりますから、不思議ではないですよね?」
は?
ララがおかしなことを言い始めた。
「ララさん、殿下は、見ての通り私をエスコートしていますし……」
何を言っているのか分からず混乱する私を押しのけるようにして、ララが殿下の腕に自分の腕を絡めた。
「殿下、またシャリアーゼ様は私を虐めようとしますわ。いい加減、このような意地悪ばかりする冷たい女性と婚約を続けるのは苦痛ではありませんか?」
はい?
私が、ララを虐めた?
ちかちかと4の数字が点滅している。
「シャリアーゼ様と婚約破棄しても、誰も文句は言いませんわ。数年前に毒を盛って、殿下を亡き者にしようとした犯人なんですわよ?」
はぁ?
「何を言っている」
殿下が顔をゆがめた。
「私、知っているんです。だって、夢で見たんですよぉ。こういうゲームがある夢を見て、私が殿下と結ばれるヒロインでぇ」
ちかちかと点滅する数字。
「シャリアーゼが毒を入れたのか?」
「……え?殿下、わたしはしておりません」
キッパリと否定をすると、点滅していた数字がいきなり、64にもどった。
「だよな。俺のことが大好きなシャリアーゼが俺を殺そうとするわけないだろ?」
にやりと笑って殿下が私の肩を抱き寄せる。
あれ?私が殿下を大好き?
「はぁ?そんなはずありませんわ。殿下は騙されているのですわ!」
ララが再び殿下の腕に手を伸ばすと、殿下は汚いものを払いのけるように扱った。
「俺の命を、何度救ってくれたと思う?俺といることで自分も危険なのに、婚約者でい続けてくれた。それに、俺を見るといつも嬉しそうに笑ってくれる。……俺のことは義務で婚約しただけだろうと疑ったこともある。嫌われているんじゃないかと不安になったこともある。だが、この5年間で、シャリアーゼは俺のことを……愛してくれていると確信した。俺は、一生シャリアーゼと共に生きる」
え?
えーっと……あれ?
私が、殿下を愛している?
どうしてそうなった?
「で、お前こそ、実は叔父の隠し子だという噂があるが、そろそろ証拠も出そろった頃だぞ。墓穴を掘ったな。俺が毒殺されそうになった事実は、公にしていないというのに。知っていたのは、叔父から聞いたからか?俺に近づいてどうするつもりだった?」
え?
ララが、幽閉されている王弟の隠し子?
「ち、違う、私は別に……何かをしようとしたりしていない!アーノルド様と結婚するのが決まっているから、夢と同じように行動しただけで!」
……。
「夢は誰も見るだろう。だが、現実になる夢と、夢だと諦めなければならない夢はある。男爵令嬢として大人しく暮らしていればよかったものを……捕らえよ」
殿下が会場にいる騎士に命じる。
騎士がララの両腕を拘束した。
「離して!私が皇太子妃になるんだから、シャリアーゼは断罪されて修道院送りのはずで、なんで、どうしてっ!」
大声で叫び連れて行かれるララ。悲鳴のような声が遠ざかったところで、殿下が私の手を取った。
私の寿命は、64で、点滅しなくなった。
殿下にエスコートされて会場に入ると、ほどなくして音楽が流れ始める。
ファーストダンスは位の高い者から。
つまり、殿下と私がホールの真ん中に立ち、踊り始める。
「……夢、だったんだ。こうして、シャリアーゼと踊るのが」
殿下が私の顔を見てつぶやいた。
「あら?何度も一緒にダンスはしていますわよね?」
殿下が小さく首を横にふる。
「俺も夢を見たんだ。幾度となく殺される夢。シャリアーゼの手が離れていく夢……。こうして無事に学園の卒業パーティーでシャリアーゼと踊ることは、夢の中ではかなわなかった……。だから、こうして現実で夢ではなく夢が叶った」
「ふふ、あこがれや希望といった意味の夢と、寝て見る夢とややこしくてよくわかりませんわ」
初めて聞く殿下の言葉に、内心驚くも、笑ってごまかす。
幾度となく殺される夢……か。
もし、手を打たなければその夢のどれかが現実になっていたんだろう。
寿命が何度も短くなっていたのだから……。
殿下は危険を予知夢と言う形で見る力があるのかもしれない。私のようにきっと不思議な力を持っているのだわ……。
だとしたら、今度から寿命が短くなることがあったら、殿下の見た夢を聞きだしてみましょう。
そうして、二人で困難を乗り越えて行けば……きっと。
つないだ手に浮かび上がる数字。
ふたりとも、長生きできますよね?
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