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5. 普段と変わらない光景と新しい仕事

 今回の調査はとんでもないものだった。状況から考えるとあの穴はあの少年がしでかしたものに違いがないからだ。


「カナ手が止まってるけどどうかした?」

「う~ん今回の調査のこと考えてたから」

「ああ…」


 そんな私の言葉を受けて先ほどまで食事をしていた手をローズも止める。難しいことを考えるのが苦手なローズでさえこんなありさまだ。手に持つコップをもてあそびながら何度も思い出してみるけどやっぱりあのよくわからない道具が原因なんだろうという結論に至る。


「おう、どうした元気がないな」

「ダンカン」


 ポンと肩を叩かれダンカンがやってくる。どうやら彼らも食事をしにこの店へとやってきたようだ。比較的安くてボリュームがあるこの店はとてもありがたく、私達みたいにギルドに所属している人たちにとっては助かっている。もちろんちゃんと仕事をすれば報酬が出るのだが、それはすべて出来高しだい。人によって稼ぎに差が出るのは私達だけじゃなく、ダンカンたちも同じ。なのでこうやって同じ店で食事をするのも初めてではない。


「で、そっちの仕事はどうだったよ」

「追加の仕事が入らなかったから多分終わったんだと思う」

「相変わらずはっきりしない話だな。その点こっちはいいぞ~ 目的の対象を倒せば終わりだからわかりやすい」


 当り前のように同席したダンカンは、そう言って自分たちがいるギルドを勧めてくるかのような発言をする。これも初めてじゃない。


「私達じゃ無理だよ。力不足だ」


 そう言ってローズが断るまでが定型。まあ適材適所、生活のためにやれる仕事をやるしかないのだ。


「ねえ、あの子は? いないの??」

「ん?」


 そこへリズが。


「ほら、今日一緒にいた子」

「あーあの子は一緒じゃないよ」

「なんだ、ローズたちの新しい仲間じゃないのか」


 言いたいことが終わったのか興味なさそうにリズは席につく。もうこっちを見向きもしない。相変わらずリズはわかりやすい。魔法やそれに関する道具、後それを扱う人くらいにしか興味を示さない。


「ん? じゃあなんで一緒にいたんだ」

「今回の私達の調査に向かった場所にいたのよ」

「1人でかそりゃ…どういうことだ?」


 ダンカンは自分で考えるのが面倒なのか隣に座ったユリウスへと話を振る。というかいつの間にか座っていた。彼はダンカンと一緒に活動をしている人なんだけど…活動タイプのせいか結構影が薄い。なんでこんな人がハンターギルドで働いているのかわからないくらいだ。


「恐らく、2人の調査の元凶」

「なんでそう思うんだ?」

「現地にいた、となると元凶かたまたま通りかかったか元凶の仲間くらいだ。あのくらいの子供がたまたま通りがかることなんでほぼない。となると元凶かその仲間になる」

「あーそれで元凶か」


 ほんとなんでユリウスはこっちのギルドじゃないかな? 頭の回転も速いし絶対向いていると思うんだけどね。


「じゃあそいつは今どうしてるんだ?」

「ギルド長に預けてきたわよ」

「んじゃこの町にいるってわけか。だとよリズ」

「…ちょっと出かけてくるわ」


 いきなり立ち上がったリズがどこかへ行こうとした。そしてすぐにダンカンが首根っこを摑まえる。見ている分には面白いんだけど、実際にはやられたくないわね。あれって結構苦しいだろうし。


「あほか。いる場所もわからんのにどこ行くつもりだ。おいユリウス」

「ああ、予測になるが今日は時間的に遅いから町のどこかにいるのは間違いないだろう。となると行動を開始するのは日が明けてから…いや、相手が普通の子供じゃない可能性も含めないといけないか。となるとすでに町にいない可能性もある」

「ってことは、いるにしろいないにしろ今探しても見つかる可能性は低いわな」


 ユリウスの見立てだとまだ町にいるのなら朝の方が見つけやすいってことらしい。すでに町にいないのなら確かに探しても無駄になる。それがわかったのかリズは再び席につき食事を再開する。どことなく面白くなさそうな顔をしているけれど。


「なんにせよ面白くなりそうだな」


 私は何が面白いのかよくわからなかった。


 ダンカンたちと別れ私達は普段から利用している宿へ向かった。今日はこれで後は体を休めるだけ。食事に向かう前に共同浴場にも向かい汗を流したのでまた明日ギルドで何か仕事ももらってこなければいけない。


「ねえカナ今回ちょっと報酬よかったわね」

「そうね。だけど明日も休めないわよ」

「あーそうじゃなくて、買い物する時間とかとれるといいなーって思ってさ」

「買い物か…いいわね。明日受ける仕事を確認してから急ぎじゃなさそうだったら少し店をまわろうか」


 すでにローズは買うもののことを考え始めたのか反応が無くなった。いつもこのくらい集中して色々かんがえてくれるといいんだけどね。そんな会話をしていたら宿についたので私達は部屋に入り寝ることにした。


 朝になり身支度を整え1階にある食堂で朝食を済ませると、私達は仕事を貰うために探索者ギルドへと足を運ぶ。基本仕事はカウンターの所でもらうので、ギルド員はいるけど私達みたいに仕事を受ける側…探索者はそれほどいない。もちろん多少はいる。仕事を受ける前の人がカウンターの前で順番待ちをしているのがちらほら。私達もその中に混ざり、順番が来るのを待った。


「あ、ローズとカナ来たわね」

「おはようございます」

「レイラさんおはようございます~」


 すると少し奥の方からやってきたギルド員の1人で、私達がこの仕事を始めた時からお世話になっているレイラさんが声をかけてくれた。丁寧に色々教えてくれるのでお姉さんとして慕っている。


「ちょっと列を外れてこっちへきてくれるかしら」

「どうかしましたか?」


 列から離れ、室内の隅の方へ行くとレイラさんが口を開く。


「わるいんだけど今日から新人としばらく組んで欲しいのよ」

「新人ですか?」


 私とローズは顔を見合わせる。昨日報告に来た時はそんな話はなかったはずだけど、こんなに急に決まるなんてどうしたんだろう。


「ええ、急に決まってね。名前はトール。年は…ちょっとわからなかったわ」

「わかりました」


 部屋の場所を確認した後私とローズは宿舎へと向かった。


「新人か…買い物行けそうもないかな」

「どうだろう。私達が新人の時の流れはどうだったっけ?」


 新人を連れて行動をするときは一通り仕事の流れを教えるためにやるはずで、大した仕事内容は貰えず稼ぎも悪い。だけど、それに上乗せで新人教育という報酬が入るので結局普段とあまり変わらないくらい報酬は貰えるはず…新人の腕前によってはその期間も短くなり、その後新人が何か功績を残すとボーナスがもらえる。まあどんな新人に当たるかは運しだいってところだ。今回私達は新人教育は初めてなので期待半分、不安半分そんな気持ちで向かっている。


「この部屋みたいね」


 いくつか並んでいる扉の一番隅にあった扉。ここが新人が今過ごしている部屋らしい。名前しか知らない相手…というか性別を聞き忘れている。年齢がわからなくても流石に性別くらいははっきりしていただろうに。


「起きてるかな?」


 そう言って扉を叩くローズを私は後ろから見ていた。

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