死、『少女』、『門番』
女の目が開いた。
「あ、起きた!起きたよ灯葉君」
俺は急いで駆け寄った。
「襲ってこないよな」
「怖いこと言わないでよ…いざとなったらよろしく」
んな無責任な。
女はムクリと起き上がると、暫く辺りを見回した。そして、口を開いた。
「ここは…?」
俺はドロイトを見た。
「なんて言えば良いんだ」
「普通にフルセル、で良いんじゃない?」
それを聞くと女は動揺したように立ち上がった。
「そ、それは困る。駄目だ。お前らも死ぬぞ」
「一応、このメリーは止まっているみたいだが」
女はメリーをじっと見つめた。子供のような、純粋な目をしていた。
「本当だ」
「じゃあ、大丈夫だろう」
女は黙って頷いた。そして何故かドロイトに寄った。ドロイトはびっくりしたように女を見つめた。
「?どうしたの」
「…抱き締めてくれたから」
ドロイトはよくわからないと俺に視線を送っていた。
何だか寂しいような悔しいような。俺はブンブンと頭を振ってネガティブな思いを弾き飛ばした。
「まあ、なら良いんだ。名前は、なんていうんだ」
「…ドラセナ」
「帰るところは無いのか」
ドラセナは頷いた。
「…ついていっても良い?」
え、と俺は思った。俺は今国に追われているらしいし、危険かもしれない。ドラセナが危険にさらされる日も来るだろう。
「あ〜、俺達、今追われてるんだ。危ないから、ちょっと無理かもな」
ドラセナは首を振った。
「私強いから…大丈夫」
…そういえば、俺はこいつに殺されかけたんだ。
「んー、でもなあ」
俺がまだ渋ると、女はきょろきょろと辺りを見回し、近くの岩に手を伸ばした。魔波が岩へ向かって、一直線に歪んだ。
「…あの岩が壊れたら、ついていっても良い?」
「え、まあ良いが」
ドラセナは初めて笑顔を見せた。
「ありがとう」
その瞬間、岩から一本の黒い柱が突き抜け、天へと上っていった。岩は砕け、弾けた。
「…!」
ドラセナはこちらを向いた。俺は衝撃に動けなかった。
「何処に行くの?教えて」
「い、今。今考えてるところなんだ」
ドラセナがドロイトに寄りかかっているのを傍目に、俺は頭を抱えていた。まじでどうすれば良いんだ。
リビアが気になる。もしかしたらドラセナが居れば、なんとかなるのか?
ドラセナは間違いなく強い。ボディーガードでも良いくらいだ。
でも、だからといってリビアに勝てるのか?正直リビアの強さは桁違いだ。俺が、俺が強くならねば…。
取り敢えず、修行でもしていたほうが良いんじゃないか?そうだ、ドラセナに稽古をつけてもらって…
…まず、目的を思い出そう。
俺の目的は「悪魔を殺すこと」と「地球に帰る手掛かりを掴むこと」。
ドロイトは、俺の心をどうこう言っていた。
一応、俺はもう記憶を思い出している。
ドロイトの目的は達成して…否、いない。
色んな心と触れ合いたいと言っていたじゃないか。旅だ、旅をしなければ。
…フルセルで。
リビアが邪魔だなぁ…。
地球に帰る手掛かりは、正直今のところゼロ。全くわからない。リビアなら何か知っているかもしれないが。
悪魔を殺す。
これは一応望みがあるっちゃある。
強くなれば殺せるはずだ。
ああ、ケデロさんは大丈夫だろうか。
ケデロさんは…。
しかし、あの悪魔。老人の悪魔。
奴は一体全体何なんだ。
俺にばかり付き纏う。
あいつがシェブナ街を焼いたし、あいつがドロイトを殺しかけたのだ。
止めなければ…
「灯葉君」
俺は振り向いた。
ドロイトがドラセナに膝枕をしていた。ドラセナはいつの間にか寝ていた。
「どうしたの、そんなに迷って」
「それがな、目的地が無いんだ」
ドロイトは笑った。
「まだ、やることはたくさん残ってるよ」
俺はドロイトの方に歩いていった。
「そういえば、お前はこの世界の秘密を全て知ってるんだろ?」
「人間関係に限ってね」
「イミカとリビア、どんな関係なんだ?」
ドロイトは暗い顔になった。
「いきなり切り込むなあ」
「そんなにか」
「うん。私としては、君に謎を解いてもらいたいんだけど」
俺はドロイトを睨んだ。
「じゃあ、此処に置いていくぞ」
ドロイトは一気にパニックになった。
「え、嘘、分かった教える、教えるから置いてかないで、ごめんなさい」
「じょ、冗談だよ。なにもそんなに焦る必要は…」
ドラセナが目を覚ました。
「…何をしたの」
ゆっくり起き上がった。異常な殺気を纏っていた。
間違いない。やばい。
「ドロイトさんに何をしたの…?」
「何も、何もしてない!誤解なんだ、俺は冗談を言っただけで」
ギシギシと腹から音が鳴った。肋骨が…?
「か…あ」
俺は浮き上がった。掴まれている。肋骨を掴まれている…!
「だ…やめで…」
ドロイトは必死にドラセナに抱きついて止めた。
「ち、違うの!灯葉君はちょっと口が滑っただけで」
「…口が滑った…?」
その言い方は、ちょっとまずいんじゃないかドロイト…!!
肋骨に加わる力が更に強くなった。折れる!もう折れる!
「…!!!」
「違う!冗談!冗談を言ったの!それを私が、真に受けちゃって!」
俺は地面に落とされた。余りにも痛い。
「…そうだったんだ」
ドラセナは再びドロイトの膝を枕代わりにした。
「…」
寝た。確実に寝た。
「恨むぞドロイト…」
「ご、ごめんってば」
「ケデロ様が、死んだ…?」
門番達は『生物』の話を聞いて衝撃を受けた。
あのケデロ様が。誰よりも強い、あの人が。
死んだ…?
門番の一人、鉄槍のガーネットは、泣いた。衝撃を受け止めきることが出来なかった。
大盾のルビーも同様だった。彼は泣きはしなかったが、心の中では最早考えることすら出来なかった。
考えると、自分を失ってしまう気がした。
「…ケデロ様も言っていただろう」
ルビーは内頬を噛み締めた。
「私達に悲しんでいる暇は無い。強くならねば」
『生物』は暫く俯いていた。そして、口を開いた。
「君達」
門番は前を向いた。
「ガリヤ城の、地下倉庫を知っているか」




