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君は悪魔の成り損ない  作者: ヨダカ
プロローグ
20/53

暁風と朝風が織りなすワルツ

「…なぁ、なんだって俺は縛られなきゃいけないんだ?」

「そんなの僕が聞きたいくらいだよ」

ドロイトもまた同様に、縛り付けられていた。灯葉とは背中合わせの状態だった。

「ダマレ」

カタコトとした言葉で、乳白色の仮面を被った何者かが言った。身長はかなり高く、スラッとした細身の人物だった。白くゆったりとしたローブを身に纏っており、髪は白髪に黒髪が混じっていて、年齢もかなりいってそうだ。

「コレカラワタシノシツモンニコタエロ。サモナクバコロス」

人物はレイピアを俺の右の目に突き付けてきた。小さい点のようなレイピアが、目前で妖しく光り輝いた。間違いなく殺す気だ。

「わ、わかった」

「ナニモクチゴタエハスルナ」

俺は黙って小さく頷いた。

「ヨシ…キサマラハナニモノダ」

「もう知ってるくせに…」

ドロイトがぼやいた次の瞬間、タクトの様にレイピアが振られた。

風が巻き起こり、ドロイトが椅子ごと倒れる音がした。倒れたドロイトの頭を人物は踏みつけた。

「キサマハナニモノダ」 

「お、俺は転移者で地球から来た灯葉と言います!」

上擦った声で言った。まだ死にたくなかった。

「スナオデヨイ。デハツギダ。オマエハマジュツヲオボエテイルカ?」

「覚えてるけど、少しというか、軽く知っているだけです!」

「グタイテキニナニガデキル」

「火というか、それの縄を作れるだけで!それ以外できません!」

人物はレイピアを下ろした。

「ソウカ。マァヨイダロウ。ソノヒダリメハドウシタ?」

「自分でもわからないです、もしかしたら、病気かなんかかもしれないです!」

人物はドロイトの頭から足を退かした。

「…ドウセコイツニツレテコラレタンダロウ?ナラヨイ、カエレ」

え、まじか?帰っていいのか?と少なからず俺は困惑した。人物がレイピアを降ると、縄はハラハラと解けた。

「シカシ、ココデオコッタコトハダレニモハナスナ。ゼッタイニダ」

「は、はい…」

「待って」

はっとした。ドロイトが起き上がっていた。右の頬に軽い切り傷があった。

「駄目、行かせないから」

人物はドロイトを見下ろした。

「…コチラモイカセラレンナ」

緩やかな風が少しずつ緩急を帯び始めた。ドロイトはゆっくり立ち上がった。

「それでも、私はいかなきゃ」

…私?今、私と言ったか?

「ナラバムリヤリヒキトメルマデ」

レイピアを振った。

すると狂風が辺りを丸ごと、否屋根ごと掻っ攫い、瞬く間に俺等は上空に打ち飛ばされた。

「おおっ、」

パタパタと服が音をたてる。鳥が目の前を飛んでいた。俺は今、宙に浮いていた。飛ぶのではなく、浮いているのだ。

「ココナラジユウモキクマイ」

人物は空を歩くように、ドロイトに近付いていった。対してドロイトは、まともな体制もとれない様であった。

「こっちだって、向こうの国で色々学んできたんだから!」

ドロイトはそう言うと、ポケットから小さい水晶玉のようなものを取り出した。

そこにふぅっと息を吹き込むと、ドロイトが二人にも三人にも増え、最終的に十人程にもなり、人物を取り囲んだ。

「どう?運試しでもしてみる?」

「ホウ、コエモジュウニンブンカ、オドロイタナ」

優勢になったドロイトは早速余裕の笑みを浮かべ、細かい装飾が施された棒を取り出した。

違う、あれは魔法の杖だ!

「少しでも変なことをしてご覧、途端に貴方を電撃が襲うから」

ドロイトが言うと、人物はフーッと息をついた。

「ヤハリマダコドモダナ。ボールノツギハキノボウカ」

「はぁ?」

少しずつ、少しずつではあるが風の勢いが強まっている。そして左目から見える魔波は、どんどん大きく、強く歪んでいった。

「ドロイト、何か来るみたいだぞ!」

声は届かなかった。風音に掻き消された。人物の仮面にひびが入った。

「イツマデモソンナコドウグニタヨッテイルヨウデハ、ヤハり行かせられんな!」

遂に感情を露わにした人物は、大きく両手を前に突き出した。

ドロイトはそれを見て瞬時に杖を振ろうとしたが、一瞬だけ、人物の方が速かった。

どう、と辺りの空気を滅茶苦茶にして空気の塊が瞬時にして膨れ上がった。

「あぁっ」

まるで個体のようになった風は空気を圧し、空気を切り裂きながらドロイトを彼方へ吹き飛ばした。

折れた杖が、空を寂しく漂っていた。


台風一過とはこういうことだ。

先程までぐわんぐわん唸っていた風は見る影もなく、静かなそよ風が漂うだけであった。

ドロイトも、あの仮面の人物も消えてしまった。

風はゆっくりと消えていき、俺はようやく地上に降り立つことが出来た。

杖も落ちてきた。俺はそれを握った。

「…取り敢えず、向こうに行ってみるか」

俺はドロイトが吹き飛ばされた方角へ向かった。


「だから、私はこんなところに居たくないんだよ」

「ワタシダッテソウダ。オマエニホカノバショヘイッテホシクナイ」

何故わかってくれないのか。私は誰でもない、自分自身で有りたい。なのに何故それを邪魔するのか。

「おかしいよ、自分の考えを言えないなんて。村にいる間は感情を殺さなきゃいけないなんて」

仮面は疲れたように首を横に振った。

「ソレガワレワレノキマリダ。ソシテ、ソレコソガウツクシサダ。チョウコクノヨウナ『フヘン』コソ、ソセンノ…ワレワレノメザシタ『カンゼン』ナノダ」

「…完全じゃなくて何が悪いの…ねぇ、この世界に存在するうちは、この世で生き続ける内は、私達は完全になんてなれないんだよ。神様だって、完全じゃないんだよ。ねぇ、諦めようよ、私もうこんなの辞めたいよ!」

いつの間にか、涙が流れていた。

何時ぶりだろうか、わざとではなく自然と泣いたのは。この村の異常から、私が離れることが出来ている証拠だろうか。

この本当の涙に、父の心が少し揺らぐのが見えた。

「貴方は私の心が見えてるんでしょう?もう私、辛いんだよ…」

ふと、ガサガサ音がした。そちらを見ると、灯葉君だ。杖を握りしめて立っていた。

「あ、あの」

「…ねぇ、君」

「え」

私は意を決した。

「私についてきてよ」

灯葉君は困り顔になった。

「なんで俺なんだ」

「自分でもわかんないよ。なんとなく」

「何処に」

「何処にでも!」

仮面が首を振った。

「ダメダ」

「駄目じゃない」

「…駄目だ。感情ほど愚かなものは無い。そんなものを躊躇いもなく吐き出す人間には近付いてはいけない」

何故か心臓が跳ねた。…私は怒っているのだろうか。

「ちょっと待ってくれ。先ず、貴方は誰なんですか」

灯葉君は言った。

「この人は…私の父親です」

「ドロイトはとにかく、旅とか…まだ見ぬ景色を見たいのか?」

私は頷いた。

「ずっと色んな景色を見て、色んな心に触れてみたかったの」

「で…貴方はドロイトにどう有ってほしいんですか…?」

灯葉君は父に話しかけた。

父は黙ったままだった。

「…この人はね、私に遠くに行ってほしくないんだよ。寂しいからって」

「じゃあ、いっそのことついてきたらどうかなぁ、なんて…」

私は静かに首を振った。

「…嫌だ」

「何故?」

「今まで、ずっとこの人に縛られてきたの。それで限界になって、私は村を飛び出して…私は心が読めたから直ぐに有名になって…」


子供の頃、私はあの村に住んでいた。

その村では感情を出すことは罪だった。それが先祖様の教えだったから。

先祖様たちは、心が読めた。人里に出ていったとき、先祖様たちは人間の余りの心の醜さに軽蔑と恐怖を抱いたの。

そして、心とは醜いものだと確信するようになった。

それから先祖様たちは、心というものを殺すことに心血を注いだ。

そしてある日、心を消すことが出来る『何か』を発明した。そのなにかは、今になってはもう分からない。けれども、それは恐ろしいものだった、ということだけは伝わっている。先祖様たちはそれを使ったは良いものの、暴走し、罪を犯してしまった。『ジレカサマ』に逆らったの。『ジレカサマ』は罰として、先祖様たちから性別を奪った。え?そう、性別。どうかした?…まぁいいや。とにかく先祖様たちはこれに懲りて、感情を殺すのではなく感情を出さないようにした。そしてそんな村で生まれた私は、直ぐに嫌気が差した。普通はこの村に嫌気どころか違和感すら持たないんだけど、私はちょっと特別でね、この村がおかしいんじゃないかって思い始めちゃった。私は他の世界の存在を、たまに村を訪れる商人さんのおかげで知っていた。行ってみたいな、と思って、思い切って外に出ていってみたんだ。あのときの衝撃は、もう忘れられないよ。全員が全員好きなように笑って、好きなように怒って、好きなように泣いて…羨ましくてしょうがなかった。私はお金を稼ぐために、心を当てる芸をしてたんだけどね、当てられたときの反応も面白くてしょうがなかった。ある日、私の噂がケデロさんの耳に止まったみたいで、私はガリヤ城に招待されたんだ。それでそこからは、心理学者として生き始めた…


「なるほど」

灯葉君は頷いた。

「ドロイトは自分の気持ちを自由に出せることに、憧れを抱いていたんだな」

私は頷いた。

「うん。一人で旅をしてみたいの」

「…で、貴方は寂しいから出ていって欲しくない、と…というか、寂しいと思ってる時点で感情を出してるのと一緒なのでは?」

灯葉君がこう言うと、仮面はハッとしたらしく少し震えた。

「…確かに」

もはや感情丸出しの声で仮面は呟いた。

灯葉君はそれを見て、少し訝しげな表情を帯びた。

「…心が読めるって、どんな感じなんですか?」

「何だか絵の具の詰まった水晶玉みたいなものが浮いて見えるんだ。意外と綺麗なんだよ」

私がこう言うと、灯葉君は折れた杖を弄びながら言った。

「…なんとなくですけど、心が『見える』のと心が『読み解ける』のって全然違いますよね。前者は心を直接見るだけですけど、後者は心を直接見るのではなく様々な行動からその人の心情を読み解いている」

「?そりゃそうだけど」

「…前者のメリットは、確実に心情が分かるということ。だって直接見ているのだから。対して後者は直接見ている訳ではないので、どこまで行っても只の予想。確実に当たっている確証は、その道のプロとかにならなければ無いのではないでしょうか」

…間違い無く、格好つけている。一体何を言ってるんだ灯葉君は。

「何が言いたい」

痺れを切らしたのか、仮面も言った。

灯葉君はそれを聞いて頷いた。

「心を直接見る人、つまり貴方達のことです。貴方達の出来ないこと、デメリットはずばり、自分の心が見えないことです」

「…え?」

それは、そうだけど。でも、自分のことなんだから、別にわざわざ心を見る必要も無いのではないか。

「ドロイト。君は、俺と一緒に旅をしたいと言った。俺を連れていきたいと言った。なぜだと聞いたら自分でも分からないと言ったな」

「言ったよ」

「しかも、俺に向かって連れていきたいと言った後、一人で旅をしたいと言っている。実はあまり考えが定まっていないんじゃないか」

…それはそうだけど。

「ドロイトのお父さん。貴方はドロイトが遠くに行ってしまうことを寂しく感じていた。そして無意識にその感情を外側に出していた。ドロイトに、感情ほど愚かなものは無いと言った貴方が。貴方は自分の矛盾した行動に気がついていなかったのです」

「…」

「…俺が思うに、貴方達は少し興奮している。心が見えるからだ。相手の心ばかりを見すぎていて、自分の心を蔑ろにしている」

「相手の心が一番揺らぐであろう言葉、言い訳を探し、そして言い放っている。自分の事を考えているようで、実は自分のことなんて全く考えていない。これは親子の話し合いでしょう。人生もかかっている大事な話し合いでしょう。ならば、自分の事を第一に相手に伝えるべきです。というか一度心から話し合うべきです。自分の事をもっと知るべきです」

灯葉君はそう言って、決めた。

父親は呆然としていた。そして、なんと笑い始めた。

「はあ…全く、酷い男だ。私は相手の心を見計らって、心を揺らそうなんて考えちゃいない」

「…え?」

「そうだよ灯葉君…私達そんなにずる賢くないよ」

灯葉君の顔はゆっくり赤くなっていった。あの酒場でも、同じ過ちを犯していたなそういえば…。

「…まぁいいさ。途中の言葉がどうであれ、最後の結論は良かったじゃないか。私達は、そうだな」

父はこちらに視線を向けた。

「互いと、自分自身についてもっと知る必要がある」

「…うん」

私は静かに頷いた。

「灯葉君、私達が最初にいた、あのベッドがある家あるでしょう?あそこで待っていてくれないかな」

灯葉君は笑って頷いた。

「勿論だ」


フー、と息をついた。

取り敢えず、なんとか仲直り出来そう…?で良かった。

俺はベッドに寝転び、考えていた。

この話し合いでどうなるのかはわからないが、兎に角人生がより良い方向に変わってくれることを祈ろう。

しかし、推理が外れてしまったときは恥ずかしかった。

俺なりに頭をフル回転して考えたのだが。

やはり探偵小説の主人公や悪役のようにはいかない。

もうちょい考えてから言ってみた方が良かったかも知れない。


話し合いが続いているようで、すっかり日が暮れ、夜になってしまった。

母さんと父さんは今頃大丈夫だろうか。

俺は空を見た。暴風で吹き飛んでしまった屋根から、あの異常に大きい星が俺を見下ろしていた。

綺麗だ。しかし、もういい。

俺は月を見たい…。

「…畜生」

俺は目を拭った。そういえばイミカは大丈夫だろうか。俺は空飛ぶ絨毯があるかないかすら確認出来なかった。

会ったらケデロさんに聞いてみようかな…。

「灯葉君」

起き上がると、扉の前にドロイトとドロイトの父が居た。

「…どうなった」

急に緊張してきた俺はベッドから立ち上がった。

ドロイトは口を開いた。

「私、灯葉君についていくことにしたよ」

父は頷いた。

「考えた結果だ。親として、子を何時までも束縛することはあってはならないと感じたからな」

「…それは良かった」

俺は心から安堵した。

「ただし」

父は続けた。

「絶対に、ドロイトを危ない目に合わせないでくれ」

俺は頷いた。

…。

「…それと、たまにはこの村に来てほしい」

「…わかってるよ父さん」

「…」

「…最後に…」

ドロイトは口を開いた。

「やっぱり、自分の事を分かってなかったのかも」

「え?」

「私がなんでここに来たか、分かってる?」

俺は首を捻った。

「『歴史』の故郷を調べに来たんだろ」

ドロイトは微かに笑った。

「こんな古ぼけたところが『歴史』さんの故郷な訳ないでしょ」

俺は困惑した。

「じゃあ…」

「うん」

ドロイトは頷いた。

「決心をするためだったのかもね」

…。

「ねぇ」

父は首を傾げた。

「ん?」

抱きしめて。

…な、なぜだ?

あの村では全然見なかったけど、親子って抱きしめ合うんだよ。

そ、そうなのか?

うん。

…じゃあ。

…。


「灯葉君」

「はい」

「またいつか」

「…勿論」

「約束だ」

……。

夜風が吹いた。

父は帰った、あの村に。

あの村は変わるだろうか?

私は心がある理由を見つけられるだろうか?

夜風が荒れた。

冷たくて、凍えそうだ。

…なのになぜこうも狂おしいほど…?

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