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邂逅(4)

二人は森の中に分け入りながら、ポツリポツリと話をしながら歩いた。主に内容はソフィアからの今の時代の質問だ。カイルは寡黙ながらも、ソフィアの質問には面倒がらずに答えてくれた。

しかし歩き慣れないソフィアは一日中の歩き通しで、靴擦れをおこした足が悲鳴を上げていた。多分、豆が潰れて酷いことになっている。

でも、今歩みを止める訳にはいかない。私なんかのせいでカイルまで追っ手に捕まるような事があってはならない。これ以上迷惑をかける訳にはいかないもの。

ソフィアは気取られないよう、気合で歩みを続けた。

その夜は、足の痛みでほとんど眠る事ができなかった。


翌日もはじめの町から少しでも遠ざかる為に淡々と足を進めたが、ソフィアの額には冷たい汗が流れ、限界が近い事が伺われた。前を歩くカイルの背中がボヤけてきたあたりで、足元の窪みに足を取られてぐらりと体が地面に倒れ込む。


「おい!」


地面にぶつかる直前に腕を取られ、ソフィアはカイルに抱き止められた。


「あ、ご、ごめんなさい」


慌てて離れようとするが、カイルはじっとソフィアの様子を見るとひょいと抱き上げられて近くの川まで運ばれた。


「カイルさん⁈歩けます!降ろして下さい!」

「倒れそうになっていたくせに何言ってるんだ。いいから足を見せてみろ」


川辺の平たい岩の上に座らされ、ソフィアは観念して靴を脱いだ。足の惨状を見て、カイルははあっと呆れた様にため息を吐いた。


「こんなになるまで我慢するな」


そう言うとカイルはハンカチを水に浸して戻ってくると、テキパキとソフィアの足を拭い処置をしてくれる。ソフィアはあまりの申し訳なさに俯くことしか出来なかった。


「すみません、結局ご迷惑をかけてしまいました…」


カイルは足の手当てを終えると立ち上がり、じっとソフィアの俯くつむじを見つめると徐に口を開けた。


「ソフィア、俺に対して申し訳ないとか、変な遠慮しなくていい。そうだ、敬語も禁止にしよう」

「で、でも、これ以上ご迷惑は…」

「変に遠慮されて歩けなくなったら、それこそ迷惑だろ?」

「う、そうですね…」

「そうだね、だ。名前もカイルで良い。分かったな?」

「はい、あ、う、うん!」


カイルの勢いに押される様に、ソフィアは顔を上げて返事をした。それを見て満足そうに頷くと、カイルはクルリと背を向けてしゃがんだ。


「ほら、今日はもう少し進むからおぶされ。その足じゃ歩けないだろ」

「え、ええ⁈だ、駄目!重いです!そんな迷惑を…」

「こら。今遠慮はしないと言ったばかりだろ。これでも騎士として鍛えてたんだから一人おぶって歩くくらい平気だ。ここで言い合ってる方が時間の無駄だから早くしろ」

「あ、う…」


ソフィアは観念して、顔を赤くしながらおずおずとカイルの背におぶさった。カイルは本当に、軽々とソフィアをおぶって進んでいく。ソフィアが一緒に歩いていた時より早いくらいだ。恐らく、ソフィアに合わせてくれていたのだろう。


「…カイル、ありがとう」


カイルの背で、ソフィアはそっと感謝を伝えた。




しばらく進んでいくと、川縁に特徴的な葉の薬草が生えているのを見つけた。


「あ!カイル、そこの薬草を取ってきていい?」

「ああ」


ソフィアは降ろしてもらうと、足元の薬草を丁寧に採取し鞄に詰めた。その他にも、食べられる木の実や果物を見つけては採取していく。


これで少しはお礼になるといいのだけれど…。

昨日は遠慮したにも関わらず、カイルが少ない食料を分けてくれたのだ。



夜、焚き火の前で採取した果物や木の実を食べた後、ソフィアは薬草を取り出した。


「ソフィアは植物に詳しいんだな。森の中でこんなに食べ物を採取できるとは思わなかった」

「うん。私は落ちこぼれで魔法は全然ダメだけど、魔法薬だけは作れたの。だからおばあちゃんの役に立ちたくて必死で薬草学も勉強してたから」

「その薬草はどうするんだ?」

「傷口の炎症を抑える作用を増幅させて足の傷に使おうと思って。ここでは調合は出来ないから、ただすり潰してつけるだけだけど」


そう言ってソフィアは手の中の薬草に視線をうつす。体が仄かに光を帯び、それが薬草に吸い込まれるとスッと淡い燐光を放って光は消えた。


「よし、あとはすり潰すだけ…どうしたの?」


じっとこちらを見ているカイルにソフィアは首を傾げた。


「いや、綺麗なものだと思って」

「ええ?こんなの薬草に魔力を流しただけよ?魔法陣を使った魔法は、もっとずっと綺麗なんだから」


クスクス笑いながらソフィアが言えば、それに…とカイルは言葉を続ける。


「ソフィアの瞳は、ラピスラズリみたいな色をしているんだな」

「えへへ、そうなの。魔女長の家系の青色の目だけは私も継いでいるの」


おばあちゃんと同じ瞳の色は、ソフィアが唯一自分の容姿で好きなところだ。


「いや、青色はそうなんだが…昼間は気付かなかったが、そのペンダントのラピスラズリみたいに金色の光が入ってキラキラしているだろう?珍しいと思って」

「金色???えと、そんな事ないと思うけど。あ、今は鏡がないから確認出来ないや。でも、そんな事言われた事無いし、焚き火の光が反射してるのかな?」

「そうじゃ無いと思うが…」


ソフィアが確かめようが無い事もあり、2人して首を傾げながらもその話は終わりとなった。

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