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邂逅(2)

「はあ、はあ、」


森の中まで全速力で駆け通し、やっと追っ手の気配が消えた頃、フードの人物はクルリと振り返るとソフィアを怒鳴りつけた。


「お前、何を考えているんだ⁈自分が魔の者だと吹聴するなんて自殺行為だぞ⁈」

「え、あ、あの…わたし…」


あまりの剣幕に、逃げ切った安堵も相まってずっと耐えていた涙がボロリと決壊してしまった。


「な、何がなんだか…分から、なくて…」


ポロポロと、涙腺が壊れたように後から後から涙が溢れてくる。何が起こっているのか、本当に訳が分からなかった。初めて直接的に晒された暴力に、町の人々の嫌悪の視線に、体の底から恐怖が湧き上がった。


「お、おい、怒鳴って悪かった。そんなに泣くな」


しかし怖いと思っていた目の前の人物は、ソフィアが泣き出した途端にアタフタと慌て出した。ハンカチでも探しているのだろうか?ゴソゴソと荷物を漁る様子に、ソフィアはこれ以上迷惑をかけないようにとゴシゴシ目元を擦ると瞳をあげた。


「ご、ごめんなさい。貴方が怖くて泣いていたんじゃ無いんです。混乱…してて。

先程は、助けていただいて本当にありがとうございました」


目元を赤くしたまま頭を下げて感謝を伝えると、フードの青年はホッとしたように彷徨わせていた腕を下ろした。フードから覗く鳶色の瞳が緩んだ気がした。


「いや、こちらもカッとなって悪かった。

それで、お前は何であんな事したんだ?」


その質問に、ソフィアは自身の中の疑問点を組み立てていった。居住まいを正して真っ直ぐに青年を見上げる。


「あの、まず、お聞きしたい事があるんです。

ここは、ランダン王国で良いのですよね?何故、町の人は魔女を知らなかったのですか?魔の者とは、何ですか?」


青年はじっとソフィアを見つめたかと思うと、馬鹿にする事なく答えてくれた。


「ああ、ここはランダン王国だ。魔女とは、俺も聞いた事がないな…。

そして魔の者だか…例えば何もない所から火や水を出したり、風を起こして人を傷つけるような異端の力を使う者達のことだ。昔から迫害を受けてはいたが、最近になって教会がその者達を『魔の者』として取り締まりだした。その為に教会は『神兵』という武力まで持つようになってな。魔の者は捕まれば、殺されるぞ」


「なんで、精霊信仰の教会が魔法使いの迫害を…?そんなの何百年も前の話なんじゃ…」


呆然と呟くソフィアに、静かな声で問われた。


「お前も、魔の者だな?」


ソフィアは町で問われたのと同じ質問に一瞬体を強張らせたが、その言葉に含まれた意味にハッと顔を上げた。


「あなたも…?」

「そうだ、俺も追われている。人前で、風を起こしてしまったからな」

「そんな事で…。魔法を使っただけなのに…」

「魔法と言うのは、教会の言う邪悪な術の事か?」

「邪悪なんかじゃないです!魔法とは精霊の力を借りて自然の力を増幅させるものです。五百年前に始祖の魔女様が伝えてくれた、人を助ける為の力です!」


「…お前は…本当に、どこから来たんだ?そんな話、聞いた事もないが…」

「私も…何が何だか…。確かに私はラピスラズリ島から出た事はありませんでしたが、それでもランダン王国は魔法使いと助け合ってきた歴史があります。魔女を知らない人なんて、いないはずなんです。

それこそ、五百年前でもなければ…」


ハッと、ソフィアは自身の口を片手で覆った。

口に出した言葉が、何故だか重みを持って体に纏わりついた。ソフィアは冷や汗を浮かべながら今までの情報の欠片を組み立てる。

そう…そうだ…。突拍子もない発想だけれど、今が、五百年前だったとしたら、全ての説明がつく。


「あの、…今の、ランダン国王は、何代目でしょうか?」


ソフィアの震える声を訝しみながらも、フードの青年は答えをくれた。


「今のランダン国王は十代目ラーファルト王だ」


十代目…!それなら、よく知っている。だって、始祖の魔女様がラピスラズリ島を作った時代だもの。


「本当に…五百年前…なの…?」


何故か、目の前の人が嘘をついているとは思わなかった。


「どうしよう…。私、帰れるの…?おばあちゃん…」


世界にただ一人取り残されたような感覚に、ソフィアは呆然と呟く。足元の地面が崩れていくような不安感に、ソフィアは地に手をついて項垂れた。


「おい、どうしたんだ」


心配する声がすぐ近くからかけられる。鳶色の瞳が心配そうにソフィアを見つめていた。暗闇の中見つけた光のように、ソフィアは目の前のフードの裾に縋ってしまっていた。


「わ、わたし、五百年前に、来てしまったみたいなんです…」


祖母が死んでしまった事、ラピスラズリ島のこと、自分がここから五百年後の未来から来たこと、湖に浮かんだ魔法陣のこと。頭がおかしいと思われてしまうかもしれないと考えながらも、ソフィアは拙くしゃべる口を止めることができなかった。

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