表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/48

大祭(2)


舞台に上がったローガンは、父である教皇を指差して声を張り上げた。


「父上、あなたは神の御業を自らの権力のために独占しようと、異端の力を持つ者を捕らえ処刑させていましたね」

「何を言っている?神の御業と魔の者などには何の関係もないわ!」

「いいえ、あります!神の御業とは、異端の力のことなのだから!」


ローガンの言葉に、観衆は驚きに騒ついた。


「黙れ!何を根拠にそのような出鱈目を!」

「証拠ならある。ジルさん、こちらへ」


舞台傍からメイソン卿と共にやつれた男性がやってきた。カイルが教会から助け出した神の御子の夫だった。


「ジル‼︎」


男の姿を目にした途端、舞台で静かに座っていた神の御子が立ち上がり、制止を振り切って男に向かって駆け出し、抱きついた。


「ジル、良かった…!教皇のところから逃げられたのね!」


安堵した笑顔をこぼして男性に抱きつく神の御子の姿に、皆は驚きの表情を浮かべる。


「教皇、あなたは偶然知った彼女の力を利用する為、彼女の夫を人質に教会に多額の寄付をする者たちのみに神の御業と称して彼女の力を使わせた。そして彼女の力が異端の力と気づいたあなたは、それを独占する為に何の罪もない他の異端の力を持つ者を排除していった。伝染病も魔の者の仕業だと詭弁を弄し、自分たちに都合の良い神兵という兵力を手に入れられて一石二鳥だったのでしょう。

さらには、彼女と同じ力を持つ者を予備として確保する為に異端の力を持つ子供を選別の為に捕らえ教会に監禁している。証拠なら、今から教会本部の塔に踏み込めばすぐに出てくる」


神の御子の様子を見れば、どちらの話が正しいのかは明白だった。彼女は夫を支えながら、王の側についたのだ。

ローガンの言葉に、教皇は怒りで顔を赤黒く染めて彼を睨みつけた。


「そもそも、魔の者という言葉自体が間違っている。あなたが魔の者と呼ぶ者は、精霊の祝福を賜った、自然の力を操る術を持った者たちの事だ!」

「黙れ‼︎何という神への冒涜だ!そいつらを黙らせろ!」


髪を振り乱した教皇の言葉に神兵が舞台に雪崩れ込んでくる。


「カイル!」

「ああ!行くぞ!」


カイルはソフィアを抱きかかえて箒で舞台へと飛び降りた。一番安全なメイソン卿の側にソフィアを下ろすと、カイルは剣を抜いてローガンと神兵の間に飛び込んだ。

剣と剣のぶつかり合う音が響いたが、カイルは一息で三人の神兵を一気に押しやる。


「王の側に!」

「わ、分かった!」


狙われるローガンと王を一ヶ所にまとめると、カイルは盾の様にその前に背を向けて立ち塞がり、前方に剣を向けた。カイルの予想通り、その場に仮面の男、狂信者ダミアンが大剣を手にやって来た。


「カイル・ラスティーダ、再び会えて嬉しいよ。毒で死んでしまったかと思っていたが…。この顔の火傷の礼を返す機会が与えられて嬉しい限りだ」


ニイッと口を笑みの形に歪ませて、ダミアンは指先を白い仮面へと滑らす。そして次の瞬間には剣戟の嵐がカイルを襲った。カイルはその重い一撃一撃を受け止めながら、反撃の隙を探す。

息をつく暇もない重い剣戟に、魔法陣を生成する隙は与えてくれそうもない。目で追えないほど素早い攻防に、周りの人々は知らず息をのんで見つめていた。


お互い致命傷を紙一重で避けながらも、体には次々と傷が増えてくる。さらにダミアンの大剣と比べれば細いカイルの剣には相当の負荷がかかっており、小さなヒビが入っていた。決着がつくのが先か剣が折れるのが先かーー。

カイルの焦りが手元を僅かに狂わせたとき、偶然にも剣先がダミアンの仮面の端に当たり、その白い仮面を吹き飛ばす。その途端、ダミアンは片手で顔を覆って呻き声を上げはじめた。そして狂ったように剣を振り回す。


「見るな!見るなァァァ‼︎」


より殺気が込められた攻撃にカイルは息をのみ、何とか凌いで後ずさる。ダミアンはやがて脱力したように動きを止めると、顔を覆っていた手をだらりと下ろした。そこには顔の右半分が醜く爛れた火傷痕があった。


「…見ろ、この醜い顔を。…決めていたんだ。この私の顔に醜い傷をつけたお前には、死よりも惨い痛みと恐怖を与えてやろうと。そしてこのような邪悪な術を使う魔の者どもは私が皆殺しにしてやる!」


目に狂気を滲ませたダミアンは、今まで以上の力で叩きつけるような一撃を放つ。


ガキィッ、ガキィッ…‼︎


そしてついに、耐えきれなくなったカイルの剣が折れ宙を飛ぶ。それを見て、ダミアンはとても愉快そうに口を歪めた。

ーークソッ、ここまでか…。

カイルが歯を食いしばった瞬間、風を切る音とともにカイルの目前に剣が突き刺さった。


「ラスティーダ、それを使え!」


剣の飛んできた方向を見れば、怪我を押して王達を守りながら戦っていたアスラ侯爵が投擲の姿勢で立っていた。その横には、泣きそうな表情のソフィアの姿も見える。


ーーそうだ、こんな所でやられる訳にはいかない。今俺が倒れれば、こいつは王やオースティン、そしてローガンだけでなくソフィアにも刃を向ける。そんな事、絶対にさせない‼︎


カイルは眼前に突き刺さった剣を素早く抜き取ると、勝利を確信し大ぶりになっていたダミアンの懐に一瞬で潜り込んだ。腰を低く落とし、全ての力を込めた最速の一撃を振り抜く。


「グアッァァ」


まさに一瞬の出来事だった。人々が気づいた時には、カイルの持つ剣は深々とダミアンの胸を引き裂いていた。グフッと血を吐いて倒れたダミアンを確認すると、カイルもガクリと膝をつく。


「カイル!」


駆け寄ってきたソフィアが泣きそうになりながらも傷の止血をしようとしてくれる。全身が痛みでズキズキとしたが、ソフィアの温かな手で触れられるとそれだけで痛みも気にならなくなるのだから現金なものだと内心で笑った。ソフィアに「大丈夫だ」と言って立ち上がると、カイルは教皇とラヴァル公爵に向き直った。



「そ、そんな…。ダミアンがやられただと…!」


ギッとカイルを睨みつけながら、教皇は後ずさる。教皇と王弟に剣を向け、カイルは鋭く声を放つ。


「ここまでだ。お前たちこそ、自らの罪を認めろ」


ここで教皇と王弟を捕らえなければ、再び魔法使いの迫害が起こりソフィアが悲しむ事になるだろう。

ーー今ここで、決着を。


「王子の犬が偉そうに…!だが、これで終わりと思うなよ!」


金髪を乱しながらもまだ余裕をみせるラヴァル公爵に、カイルは眉を寄せて警戒を強める。


次の瞬間、ーー爆発音が響き、王都に複数の火柱が上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ