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王の治療(2)


王弟派に見つからないように王の寝室にソフィアを連れて行く算段をつけるため、オースティンと使者が出ていった部屋にはソフィアとカイルだけが残された。押し黙るカイルに、ソフィアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「カイル、勝手に押しかけて、迷惑、だったかな…?」


ともすれば泣きそうな声に、ハッと顔を上げたカイルは慌ててソフィアと目線を合わせた。


「そんな訳ないだろ!むしろ、どれだけ助かるか…。

だが、ソフィアをこんな危険な事に巻き込みたくなかったんだ。もしも王を治療出来る者がいると王弟側にバレたら、確実に命を狙われる。ただでさえ、魔の者として王都は危険な場所なのに…」


苦悩を浮かべるカイルの握りしめた拳を包むように、ソフィアはそっと手を伸ばした。そしてホッとしたようにへにゃりと笑った。


「良かった…。

あのね、カイル。これは、カイルが巻き込んだんじゃなくて、私の我儘なの。私が、勝手に押しかけてきたのよ。だからカイルがそんな風に自分を責める必要なんてこれっぽっちもないんだよ。

それに、忘れちゃったの?カイルはずっと私の我儘に付き合って、危険だと分かっていても伝染病の治療に付き合ってくれたじゃない。私も、すこしでもカイルに返したい。

私、すごく嬉しいの。やっとカイルの役に立てるんだもの」


本心から喜んでいるのだと分かるソフィアの花の様な笑顔に、カイルはグッと言葉を飲み込んだ。


「そんなのは、我儘とは言わないだろ…」


やがてフッと力を抜くと、呆れたようにソフィアの大好きな笑顔を浮かべた。


「ソフィア、王の事、頼むな。それから、王城内では絶対に俺の側を離れないでくれ。俺が絶対に守るから」

「うん。…ありがとう、カイル」


顔を綻ばせるソフィアの手を、今度は反対にカイルが包み込むように握りしめた。


「俺の方こそ、来てくれてありがとな、ソフィア」


二人は手を握りあうと、自然と笑顔が浮かび笑い合った。




「そういえば、トム達はどうしたんだ?」

「今は隠れ里の人達と一緒にラピスラズリで待ってくれているの」

「隠れ里の⁈」

「ふふ、カイルが行った後ね、隠れ里の人達がラピスラズリに来てくれたのよ。今ではとっても賑やかになってるわ」

「そうだったのか…。この城までは、どうやって?」

「司祭様…メイソン卿のいた町まで行って、そこで教会の修道士さんに王都での滞在先を教えてもらったの。それから王都でメイソン卿に会って、カイルに会う方法を相談したの」

「なるほどな。…危ない事はなかったか?」

「大丈夫だよ、リリアが上手に飛んでくれて、私は後ろで掴まっているだけだったもの」


話しているうちに、わざとらしいほど大きなノックの音とともにオースティンが戻ってきた。どこかから見繕ってきたであろう侍女の制服を手に持っており、それをソフィアに差し出す。


「お待たせ。ソフィアさん、もし見咎められても大丈夫なように、一応これに着替えておいて欲しいんだ」

「分かりました。奥の部屋をお借りしますね」


ソフィアが着替えを持ちパタパタと奥の部屋へ消える。それを待ちながら、オースティンはニヤニヤしながらカイルに話をふってきた。


「おいおい、お前、彼女にベタ惚れじゃないか!なんだよあの顔!お前にあんな笑顔が出来たとは驚きだ」

「お前、覗いてたな…」

「ごめんごめん。でも、あんなに人に関心のなかったお前に好きな人ができたとなったら、そりゃあ親友としては気になるだろ?」

「まったく。お前はもっと王子として品性を保て」


カイルが呆れたため息をつくと、スッと表情を戻してオースティンはカイルに問いかけた。


「ところで、話してみて分かったんだが、彼女は少なからず為政者としての教育を受けていないか?帝王学を学んできた私と同じ視点を持っている。まあ、性格が素直すぎて為政者にはあまり向かなそうだけど」

「ああ、彼女は元の時代で次期魔女長として学んでいたそうだから」

「なるほどな、中央の政治とは距離を置きながらも、魔女長とは言わば一国の長だからな。高度な医学知識に加えて為政者の知識もあるなんて、すごい人材じゃないか?」


納得したように頷いているオースティンを、カイルがギッと睨みつける。


「ソフィアを今回の治療以外で国の問題に巻き込んだら許さないからな」

「分かってるって!そんな本気で睨むなよ」


オースティンが肩をすくめていると、侍女服に着替えを済ませたソフィアが戻ってきた。


「お待たせしました」

「わざわざ着替えさせて済まなかったね。王弟派に見つかると、君の身も危ないから。

では、さっそくだが王の元へ向かおう。王の寝室への道は不特定多数の人の目があるからね。抜け道を使うためにまずは裏の庭園に向かう」


三人で夜の闇に紛れるように移動しながら、ソフィアは気になっていた事について尋ねた。


「そういえば、陛下は神の御子の治療は受けられなかったのですか?」


ソフィアの問いに、オースティンは嫌なことを思い出したかの様に眉を寄せた。


「そんな話も確かに出た。だけど、教会は王の病は魔の者の取り締まりに反対して神の意思に反したせいだと言って、教会の国政への関与を認める権利と引き換えならば治療してやろうなどとあり得ない提案をしてきてね。父はキッパリ断ったんだ。国の政治に宗教を持ち出すべきではない事など、歴史が証明している」

「そうだったのですね…」

「神の御子が気になるか?」


カイルの問いにソフィアは憂いを帯びた表情で頷く。


「うん…。司祭様の話を聞く限り、神の御子は魔法陣無しで回復魔法を使ってる。回復魔法は対象者に合わせて調整するから魔法陣の破棄はしないものなの。だからそもそも魔法陣の知識はないんだわ。

他の魔法と違って回復魔法の基本は人の免疫を活性化させたり滞った流れを正常化するものだから、効率は落ちるけど一定の病なら魔法陣なしでも明確な意図をもって魔力を流せば治療出来ると思う。魔法薬の薬効増強とおんなじ原理ね。でも、それをするにはやっぱり医学知識が無いと出来ないから…」

「元は医者か、それに匹敵する知識を持っていた者である可能性があると言うことか」

「うん、多分そうだと思う。でも、魔法陣なしの魔法はカイルが前に王城で風を起こした時の暴発と似たようなものだから、体に負担がかかるの。教会から強制されていなければいいけど…」

「ま、どちらにしろ神の御子はがっつり教会に囲われてるから会って確かめることは難しいね」


話している間に、三人は裏の庭園にたどり着いた。薔薇の垣根で作られた迷路のような一画に入り込むと、その通路をオースティンは迷いなく進んでいく。そしてたどり着いたのは、神の像が置かれている行き止まりだった。


「行き止まり…?」


ソフィアの声に、オースティンは笑いながら振り返る。


「ちょっとした仕掛けがあるんだ。カイル、ちょっと手伝って」


オースティンはそう言いながら、後ろに回ってカチャカチャと何かを弄った後、像を押し出した。カイルと二人で押すと、ズズズッとゆっくりと像は動き出し、下に続く階段が姿を現した。


「これは直系王族しか知らない抜け道さ。もちろん他言無用だよ」


そうして階段を降りていくオースティンに、ソフィアとカイルも続いていった。



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