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王都の噂(2)


それから一月後には、隠れ里の一団がラピスラズリ島に移住してきた。神兵に見咎められないように数組に分かれての移動だったが、その際再びソフィアが海を凍りつかせたのには、隠れ里の一同が目を見張った。

一気に騒がしくなったラピスラズリ島では、皆で協力しながら冬支度に取り掛かり、空いた時間はソフィアから魔法理論の講義を受けたり、箒の練習をして過ごしていた。特に行商に行く者達は飛行の習得にとても熱心だった。手先の器用な人もおり、せがまれては箒を手作りしていた。


一番に箒に乗れる様になったエイデンは、意気揚々と荷物を背負って行商に向かう。二週間ほどして帰ってくる頃には、食糧や土産をどっさりと抱えてホクホク顔で帰ってきた。


「いやー、飛べるって最高だな。移動速度は何倍にもなるし、かなり遠くにも荷を運べる!」


箒で飛ぶ事に懐疑的な目を向けていたエイデンは、もはやどこにもいなかった。行商用に作った太くてしっかりとした作りの箒に頬ずりしそうな勢いだ。


「ソフィアさん、頼まれていた薬草と野菜の種、それと香辛料も買って来たよ!」

「エイデンさん、ありがとう!」


これまでにラピスラズリ島に自生する薬草はおおよそ把握できたが、これから皆の病気や怪我に対応していくと思うと追加で欲しい薬草がいくつもあったため、エイデンに薬草の苗を頼んでいたのだ。ソフィアは薬草それぞれの生育条件や注意点を説明しながら、トムと隠れ里の木魔法に適性のある数人と共に苗を植えていった。


「未来では、ここら辺に大きな薬草園があったのよ。大きな温室では魔法で温度を調節していて、世界中の薬草が育てられていたわ」

「この薬草園は俺がでっかくしてやるよ!ソフィア姉ちゃんが欲しい薬草は、どんどん揃えていこうぜ!」

「ふふ、ありがとう、トム」


苗の植え替えが終わったところで、アリーとミリーが夕飯の用意が出来たと呼びに来てくれた。エイデンの話を聞こうと、今日は焚き火の周りでみんなで夕食を囲む事になっていた。


「どこら辺の町まで行ってきた?」

「流石に王都は避けたけど、西の方の町まで足を伸ばしてみたよ。冬支度の為の蝋燭や毛皮がよく売れたね」


マイクとエイデンは行商の話で盛り上がる。


「そう言えば、伝染病はどうなった?一時期はそのせいで随分と商売がやりにくくなっちまったが」

「それがさ、特に酷かった西と南の地域はかなり終息してきてるんだ。なんでも魔女を名乗る少女が病を治してくれたんだって噂になってるよ」


エイデンがニヤリとソフィアを振り向けば、ソフィアは驚いた様に目を見開いた。


「え、噂になっているの⁈」

「教会は噂を否定しようとしている様だが、実際に助かった人たちが言っているんだからな。人の口に戸は立てられないさ」

「すごいな、嬢ちゃんは!」

「お姉ちゃんのことなの?凄い!」


周りのみんなの声に顔を赤くし、ソフィアはブンブンと首を振る。


「わ、私は特効薬の調合方法を知っていただけだから。それに、カイルが手伝ってくれなかったら、こんなに助ける事は出来なかったの。

そ、そうだ、王都の様子とかは聞いた?」


話題を変えようとしたソフィアの質問に、エイデンは難しそうな顔をする。


「ちょっと、きな臭いな。どうも王様の具合が悪いらしい。王様が倒れれば王弟が王座を奪うんじゃないかって、市井でも噂されてたよ」

「それは、王様がもう危ないって事?」


思っていたよりもずっと危機的な状況に、ソフィアはエイデンに詰め寄った。


「ああ、前から何の病かは知らないが伏せっていて、そろそろ危ないって噂だ」

「カイルは、そんな事一言も…」

「ソフィアさんを危険な王都に連れていきたく無かったから、黙っていたんじゃないですか?」

「そんな…」


王が亡くなれば、王子様とカイルは難しい立場に立たされるだろう。一言、相談してくれれば…。ううん、きっとそうしたら、私は絶対について行きたいと思ったわ。だからこそ、カイルは一切王様の話はしなかったんだ。ミリー達を置いて行けない私が、苦しむのを分かっていたから。


「私、カイルにたくさん助けて貰って…。なのに、私は全然、カイルの役に立てないな…」


不甲斐なさと心配で顔を暗くさせるソフィアに、リリアは意を決したように声を上げた。


「ソフィアさん、私もローガン様が心配なんです。一緒に王都まで行きませんか?私、箒もずいぶん乗れるようになりましたから、二人乗りで行けますよ」

「リリア、でも、私までここを離れる訳には…」


驚き躊躇するソフィアに、横から子供達の声もかかる。


「ソフィアお姉ちゃん、私たちは大丈夫よ!隠れ里の人達も一緒だもの」

「カイル兄ちゃんが心配だよ。俺たちの分も、様子を見てきて欲しいんだ」

「みんな…」


少しの間に、随分と頼もしくなったトムが、アリー、ミリーと共にソフィアに力強く頷いた。


「こいつらの事は任せとけ。我らが魔女長さまの留守はしっかり守るからな」


いつの間にかソフィアのことを魔女長と呼び始めたマイクが、笑いながら腕まくりをしてみせる。隠れ里の面々も、笑顔で後押ししてくれた。


「みんな、ありがとう…」


みんなの気持ちが嬉しくて、ソフィアは瞳を潤ませながら感謝を伝えた。もしかしたら、逆にカイルの迷惑になってしまうかも知れない。それでも、少しでも私が役に立てる可能性があるのなら…、カイルの側に、行きたかった。

そこに、ハッとしたようにエイデンが声を上げる。


「あ、でも待てよ。いきなり王城に行っても隠れて行動しているカイルさんには会えないだろう?もちろん王子様に面会取り付けるなんて事できねぇし、どうするんだ?」

「そ、そうね。先ずはメイソン卿の所へ行ってみるのが良いかもしれないわ。それに、薬草も持って行きたいし…」

「これからもっと寒くなるんだから、二人とも厚めの上着も必要だぞ」

「念のため食料も持ってくかい?」


そうして、その夜はソフィアとリリアの出立式に様変わりし、皆バタバタと準備に走り出した。


ありったけの薬草を鞄に詰め込んで、ソフィアはラピスラズリのみんなを振り返る。


「みんな、行ってきます!」


ラピスラズリ島の皆が見送る中、ソフィアはリリアの後ろに跨り王都に向けて出発した。


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